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死んでも他人の人生の中で生きるということ〜井上晃一を悼む〜「無意味良品」「ザ・ベストハウス123」「ピストルバルブ」

 2013年11月23日にTVディレクターでマルチクリエイターの井上晃一が亡くなりました。もう7年経ったことになります。7年前に僕はBLOGでこんなことを書きました。

 死亡の報せを聞いたとき、不思議なことに驚かなかった。年下の突然の死なのに、想定内のような気がした。これまで持ったことの無い感情だった。悲しみというよりは怒りに近い、喪失感とも違う何か。

 その気持は今も変わりません。今にも電話しそうな気持ちのまま、7年経ちました。作品を作ったり、バカ話をしたり、濃い時間を一緒に過ごした仲間です。追悼文みたいなことは以前のBLOGに書いたので、ここでは繰り返しません。

 ただ、この7年間で気づいたことがあります。井上晃一は確実に僕の中にいるということです。上手に説明できるかどうか自信がないのですが、オカルト的な話では全く無くて、僕の思考回路や意思決定に、井上的な美意識や価値観が今も影響を与え続けているということです。
 大学を中退して、テレビのアシスタントディレクターからキャリアを始めた彼は連日、焼きそばパンをオフィスやスタジオで食べながら、ほとんど寝ずに仕事をしていて、ある時に「クリエイティブに何かをつくることの本質」が分かった自分に気づいたそうです。彼は自分が育ったテレビというものに愛情は持っていましたが、同時に嫌ってもいました。音楽番組は出演アーティストとの関係や音楽へのリスペクトがあるので、またちょっと別ですが、バラエティ的な番組の総合演出としての仕事ぶりの、突き放した距離のとり方を、自分がなかったクリエイティブへの向き合い方として感心したのを覚えています。枠組み(番組企画)を決めて、アイデアを出すのはガチでやる。最終的に出来上がったものには責任は持つけど、そのプロセスの予算や関係者の綱引きについては、強い感情を持たずにクリエイティブ的に駄目なことを止める以外はスルー。流れを遠くで見守る、みたいな感じでしょうか?作品への「入魂」というのは、抜き方も含めてなんだなと思った記憶があります。

 僕が、テクノロジーとの向き合いを深めたくて、メディアアートに関わった時に、クリエイティブ・ディレクターという立場が曲がりなりにもできて、アジアデジタルアワードの優秀賞などという立派な賞を取れたのは、というかそもそもCDという立場でCANNES LIONSなどを目指すという大それた目標が持てたのは「僕の中に井上晃一がいた」からです。

ダンスのコンピューターからの復権をテーマにした「SHOSA」は、「アジアデジタルアート大賞FUKUOKA(ADAA) 2017」インタラクティブ部門優秀賞受賞しました。メイキング映像はこちらです。

 僕が作品を創る時に、本質だけを見つつ、俗世の事情を軽んじない(というか気持ちを乱されずに淡々と対応する)で、目標としてのゴールに近づけていく、そのために自分は何でもするし、巻き込める人はどんどん巻き込んでいくみたいに進めます。関わった人は「山口っぽい」やり方と思うかも知れませんが、それは完全に「井上晃一」です。クリエイティブに関わる時にあるスイッチを押すと、僕の中に井上晃一が降りてきて、方法論を提示してくれます。井上の提示は、彼らしく面倒で重いやり方ですが、井上になった僕は「やってしまえば大丈夫」そんなマインドになって、取り組みます。
 テレビのバラエティ番組も映画もゲームも実は音楽も、創るのは、全部同じと捉えていた彼は、カテゴリーなど軽々と乗り越えて、飄々と刺激的な作品を生み出していきました。もちろん僕には彼のような才能はありませんが、捉え方、見方、取り組み方は深いところでわかっているようです。これからクリエイターライクな活動を僕が強化することは考えていませんが(笑)自分への刺激のためにメディア・アートのクリエイティブ・ディレクターは続けて、1〜2年毎には作品を創りたいと思っています。(興味のある人は連絡下さい!)

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 追悼するという行為は、思い出を懐かしみ、その人のことを想いながら、静かに酒を飲むということになりそうですが、(それもやりますが)、その人に対して恥ずかしくない自分でいるということが重要な気がします。その気持を「天国で語り合うのを楽しみにする」と言うのでしょう。

 7年経った今日、井上について思うことは、7年前と一緒でした。

 心の置き場が無いけれど、もう作りたいものは作ったから、気が済んだんだな、と思うことにする。
 お前はやめても、俺は続けるよ。

 僕が生きて何かに取り組んでいる限り、井上晃一は僕の中に生きています。そう思えるのは素敵なことですね。僕もまた色んな人の人生の中で生きていきたいなと素直に思えるようになりました。

 「クリエイティブって何?簡単には言えないけど素敵なことだよね。」

 彼が「中の人」になったキム社長の歌を聴きながら、そんなことを考えるのが、僕の井上晃一への追悼です。やはりちょっと涙ぐんでいます。


モチベーションあがります(^_-)