新聞部数減から考えるデジタル化の影響と日本の病

<今週のpick up>
●新聞部数が一年で222万部減…ついに「本当の危機」がやってきた
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/59530

 この種の記事でよくあることのですが、前提としての課題設定が低すぎて、ロジックが貧困なのが残念です。
 CDが売れないことを「音楽が駄目になる」的な論調で語られてきた経験があるので、非常に似たものを感じます。そしてデジタル化に対して後手後手に回り、ストリーミングサービスの普及だけではなく、違法サイト対策も、データ活用も世界で一番遅れた国になってしまっている日本の音楽業界ですが、そんな音楽業界の人間が胸を張って「デジタル化で遅れている」と指摘できる数少ない分野が日本の新聞業界です(笑)。というか笑い事ではないですね。

 さて、まず議論をする際の整理として、情報としてのニュースの変化と、社会におけるジャーナリストの役割の問題と、メディア業界の中枢を占める企業としての新聞社の経営の3つに分けて、考える必要があります。

 ニュースはスマホ上で細分化されて個々のコンテンツとして消費されるようになっています。アメリカ政府の政策変更もタレントのスキャンダルも日産のゴーン事件も、まったく同じレイヤーでページビューという数値で測られます。朝と夕方の二回にニュースをまとめて、重要度に応じてレイアウトして紙に印刷される新聞とは、そもそもニュースのあり方が変わっています。 ただ、その大きな違いにもしかしたら新聞のチャンスはあると思いますが、人々がニュースを知る方法といては主流ではなくなっています。インターネットに流れてくるニュースで知る方が手軽で早くなりました。
 ジャーナリズムは、ニュースに接する方法とは分けて考える必要があります。立法、行政、司法の三権に続く、第4の権力がマスメディアであるというのは、社会科の教科書に載っていることですが、民主主義社会にとって、権力への監視や一時的な感情で世論が流れてしまったりしないように、ジャーナリズムが良識を持って警笛を鳴らすのは大切です。ここにも方法論としてテクノロジーやSNSを活かす時代でしょう、実際、ネットを活用した政治参加には様々な方法が出てきています。Change.orgという署名サイトなどが象徴的ですね。

 デジタル化に伴うニュースの情報の流れの変化もジャーナリズムの在り方への考察も非常に重要なテーマですが、新聞が222万部減ったというこの記事は、一義的には、新聞社の経営陣の経営方針の問題として捉えるべきです。
 大手新聞社も、大手レコード会社と同様にデジタル化の対応には腰が引けて、おっかなびっくりやっている印象です。日経新聞の電子版は成功例と言われていますが、各設定は、紙の定期購読を前提にしていて、若いユーザーを取り込むような施策にはなっていませんね。紙の購読が月4900円、電子版が4200円、セットで頼むと月額5900円という価格設定は、非常にディフェンシブで保守的な価格設定だと思います。
 率直に言うと、大手新聞社の経営者は、自分の定年まで少しでも血を流さずに、本質的な改革は先送りしたというサラリーマン的な意図が見え隠れします。これはレコード会社もまったく同じなのですが、過去の縮小再生産でなんとか凌ぐという経営方針が、問題です。
 自社が持っている経営資源は何で、時代の変化に合わせて、それを活用する方法を必至に考えるという姿は見えません。

 例えば、日本独自のやり方として宅配システムがあります。全国にある新聞販売店網を使って、読者数の拡大を図ってきました。高度成長期には有効だったその仕組が、時代とずれているのはずいぶん前から明らかですが、特に手立てがされた様子はありません。
 拙著『10人に小さな発見を与えれば、1000万人が動き出す。〜ビジネスに役立つデジタルコンテンツの話』ローソンHMV刊 http://amzn.to/1GFyRZQ の中で、新聞社がオリジナルタブレットを販売店を使って(何なら無料で)配るというビジネスプランの提案を書いています。エルダー層が最も観ているオリジナルポータルを持つことができ、様々なビジネス展開があり得るのではないか?と。何より既にある販売店網を、タブレットの販売や使い方の指導などで活用できます。重荷になっている経営資源を逆手に取るというのは、大企業の再生においてよく行われてっきている手法です。実は、実際に大手新聞社の新規事業部が乗り気で一緒に企画書書いたのですが、一顧だにされませんでした。

 これからでも遅くないと思います。いまだったら、タブレットではなくて、家庭用ロボットやスマートスピーカーの販売、保守、使い方の指導などがあり得るでしょう。今年のCESでも、「ラスト1マイル」については重要なポイントして語られています。まさに地域に根づいた新聞販売店を、日本の「家庭へのラスト1マイル」と捉えて活用するのは、まさに経営者の役割でしょう。
 テクノロジー活用という意味では、電子ペーパーの開発に本腰を入れてやるべきだと思います。新聞の持つ強みは「閲覧性の高さ」です。見出しがあって、ひと目で情報をキャッチできる強みを活かすべきでしょう。レイアウトの職人芸は電子ペーパーの新聞でも活かされます。SNS連携や、コピーの重要性、一つに記事についてソーシャル的に話し合う場をつくるなど、「紙の新聞のデジタル化」は様々な可能性があります。読者にレイアウトのカスタマイズさせて、拡散させるのも良いかもしれません。
 そんなイノベーションを含んた自己資産の活用はいろんな可能性があります。もちろん簡単ではありませんが、そういう抜本的な取り組みの話を聞いたことがないのが大いに不満です。
 自分の定年までのことしか考えてない「逃げ切り型」のサラリーマン経営者の意識が一番の問題の本質だと思います。これは音楽業界を含む、日本のさまざまな産業界で起きている病でもあります。新聞220万部減少、それの解説記事から、僕はそんなことを感じました。みなさんはいかがですか?

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