見出し画像

職業作曲家の心得[10:戦略的な音楽の聴き方]

 プロ作曲家育成「山口ゼミ」は3ヶ月間8日間の講座で始まりました。(コロナ対策でオンライン講座になり4〜5日間に集約されました)その山口ゼミを受講した人だけが受けられる上級コースに「山口ゼミextended」があります。僕がいつもする説明は「山口ゼミを受講すれば、どうすれば自分がプロの作曲家になれるか(もしくはなれないか、なりたくないか)わかるようになるはずです。ただ、”わかる”と”できる”は違うのは知っているので、できるようになるために半年間の本当に実践だけに徹した講座を用意しています」というものです。
 実際に音楽制作のプロの現場で起きていることを、可能な限り体感しておらうという山口ゼミの考え方を「コンペに勝つ」というところに集約しながら、スキルを上げ、「コーライティングという手法を身に付けて」既存の作曲家に差別化するとともに、ネットワークを作っていくのがextnededになります。

スクリーンショット 2020-10-05 21.10.00

 その第一回で、音楽をちゃんと聴こうと言う話をしています。アーティストやA&Rに頼られるクリエイターになるのが「toBビジネス」が作編曲家(作詞家も)の道筋です。世界中の流行をいち早く取り入れ、楽曲という形で提示する職業なのです。そのためには山のように音楽をたくさん知っていることは必須です。僕自身は、大した音楽通ではないですが、身の回りに気が遠くなるほど音楽に食わし人たちがたくさんいます。そんな交友関係からのエピソードを交えながら、「プロの作編曲家として、自分の知らない音楽があることは恥だと思って下さい」と伝えます。同時に「残りの人生の時間を全て音楽を聴くことに使っても、全てのポピュラーミュージックを聴くことは不可能なのも事実」です。日常生活の中で、当たり前のように、でも戦略性も持ちながら音楽を聴いていくのがよいでしょう。
 もう一つ伝えるのは、もし「たくさんの音楽を聴くのが苦痛なら、作曲家は諦めたほうが良い」ということです。楽しみながら、膨大な音楽を聴き、自分の創作に活かすのがプロの作曲家だというのは本マガジンの「心得1:日常編」にも記した通りです。
 前置きが長くなりました。本稿のテーマは、「プロ作曲家になるための戦略的な音楽の聴き方」です。

1)プロ作曲家としての意識を明確に持つ:創作のための引き出しの数を増やす
 A&Rやアーティストに今の音楽の流行、傾向を伝えられることは大切です。楽しみながら聴くのは前提ですが、職業作曲家として、自分の表現スキルの選択肢を増やしていくことを意識しておきましょう。
 コード進行やコード進行とメロディの関係を意識するのは「いろはのい」ですが、音色の流行や、リスナーの聴き方の変化などにも敏感でありましょう。Spotifyの注目プレイリストは昔で言えば、人気ラジオ番組、局のパワープレイです。定期的にチェックして時代の流れを身体に染み付かせておきましょう。

2)ビルボードHOT100とその後先を押さえる
 日本のヒット曲を押さえるのは当たり前として、基本に置くのは、ビルボードHOT100です。これもYouTubeやSpotifyで簡単に聴ける良い時代になりました。残念ながらと言うか、J-POPの流行はビルボードの1〜2年後追いの場合が多いです。コンペ提出用のデモのアレンジで迷ったら、ビルボードの流行りから持ってくるのはアリですね。ただ作曲(メロディ)だけでは無く、アレンジも獲得するのだとすると、パクり過ぎは不利になりますね。今の時代は、音楽制作のイニシアティブがレコード会社のディレクター側からクリエイターサイドにシフトしてきています。コンペで採用されると、パラデータ(DAWの各トラック)を納品して、ボーカルと仕上げのミックスをアーティストサイドで仕切るというパターンも多くなっています。デモをつくる時からトラックの音色、アレンジのクオリティは意識しておく必要がある訳です。作詞作曲印税は、売れたときには青天井(夢の印税生活!)ですが、事前にはわかりませんし、分配まで時間がかかります。アレンジが仕事になることは、バイトを辞めて音楽に専念したい人には早道でもあります。
 売れっ子アレンジャーを目指すのであれば。ビルボード100の前の音楽的流行を意識しましょう。音楽を聴く時に、どこが世界の流行を先取りするv音楽シーンになってきているのかにアンテナを立てておきましょう。最近は、サンプリング音源の販売チャートから国際的な音色の流行を知るという方法もありますね。

3)ルーツ・ミュージック意識し、好きなアーティストが影響を受けたアーティストの系譜を掘り下げて聴く
 これも「山口ゼミ」でよくする話ですが、音楽家は親や学校の先生の勧めで選ぶことは非常に少ない職業です。99%くらいの確率で誰かの音楽を聴いて、「人生を踏み外して」どうしても音楽をやりたくて選んでいます。あなたもそうではないですか?ということは、あなたの好きな音楽家にも大きな影響を与えたアーティストが1人や2人いるものです。ググればその情報は簡単にわかることですから、そのアーティストの音楽を聴いてみましょう。そのアーティストも影響を与えたアーティストがいて、またそのアーティストにも、、、。と系譜を辿ることができるはずです。どんどん遡って聴いていきましょう。どこかからは、ルーツミュージックと言われる、ブルース、ゴスペルなどのジャンルに行き着くでしょう。
 そのジャンル時代は、古臭いサウンドですから、そのままJ-POPには使えないでしょうが、ちゃんと系譜をたどって音楽を聴いていることで、作曲家としての深みや奥行きが出てくるはずです。

4)好きで得意なジャンルを持つ。創作とコミュニケーションに活かす
 好きな音楽は自分の作品に自然に滲みでてくるものですが、そこに意識的でありましょう。ワンパターンになってしまったら、toBの職業として失格です。一定期間、自分の好きなジャンルの匂いを「禁止期間」を作ったりする方法も有効な場合もありますね。
 一方で、職業作曲家も最終的には個性が重要になりますから、自分の好きで得意な音楽を生かしていくのは有効な方法です。作曲家としての客観性や分析視点も意識しながら、好きな音楽はどんどん聴きましょう。このジャンルなら誰よりも詳しいというのは武器になります。創作だけでなく、音楽関係者とのコミュニケーションやブランディングにも「**がメチャメチャ詳しいやつ」というのは活用できるのです。

5)音楽はジャンルで聴かない。でもタグとして便利に使う
 音楽はジャンルで括られて語られますが、クリエイターはそこに目を曇らされないようにしましょう。アタリマエのことですが、ジャンルは音楽の後に付けられた言葉です。評論家やレーベルの宣伝マンがマーケティングタームといて付けたもので、クリエイティブの本質ではありません。音楽家が作ったものをまっさらに聴くという感覚は大切です。
 同時に新しい音楽を知っていく時に便利なタグ付けでもあります。自分が知らないタイプの気になる音楽を見つけたら、どんな呼び方をされているか調べて検索しましょう。古今東西の様々な音楽にすぐたどり着けるのが、今の時代の有利なところですね。

6)有限な時間。計画性を持って、時間を使っていこう
 人間に公平に与えられているのは時間です。上手にタイムマネージメントしましょう。楽しみながら音楽を聴く時間も上手にマネージメントした方が効果は上がります。朝の通勤通学時間はビルボードチャート、金曜日の夜は自分の好きな音楽を掘り下げる、日曜日はSpotifyで新しい音楽を探すサーフィン的な聴き方、などとテーマを分けておくとよいかもしれません。
 気になったことをメモに残す癖も役に立つでしょう。何事も漫然とせずに、意識化する方が、結果は出やすいものです。

山口ゼミの上級コース「山口ゼミextended」の第一回講座で話している内容をまとめてみました。あと数回続きます。

スクリーンショット 2020-10-07 14.37.11

7年続いている「山口ゼミ」は、まだ続いています。オンライン講座になって、遠方からの受講が楽になりました。興味のある方は、お問合せ下さい。


モチベーションあがります(^_-)