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「Spotify」から学ぶスタートアップと音楽サービス。オンライン読書会もやります

 世界の音楽ファンの音楽体験を変え、音楽ビジネス生態系の構造を変えた、まさにイノベーティブなサービスでありスタートアップSpotifyに関する初の評伝的な書籍です。貪るように読みました。
 最初に少しだけネガティブなことを書くと、楽曲のライセンス交渉やM&Aに関する内幕、ユーザー数の増加というジャーナリスティックな視点での記述が中心で、ユーザーの音楽体験を如何に変えたかという、僕にとっての Spotifyの最大の価値に関しては、言及も考察も有りません、創業者ダニエル・エクの心情については、紙幅を割いているので、そこから推測することはできますけれど、、。二人のスウェーデン人のジャーナリストによる丁寧な取材で、関係者が実名で勢揃いという感じで登場します。一般的な興味関心というのはこういうことなんだなということがよくわかりました。起業家国盗り物語的に血がたぎる内容になっています。

 Spotifyやスウェーデン人にとって大きな誇りなのでしょう、スウェーデン発だからできたこと、スウェーデン人であることへのこだわりの部分は日本人もおおいに参考にすべきだなと思いました。また、初期の挑戦についての記述の中で、ダニエルエクが「スウェーデンは生活保障制度が充実しているから、思い切った挑戦ができる」という趣旨の発言をしていて、新たな視点でした。そういう考え方もあるんですね。ベイシックインカムがあると起業率が上がるみたいなことなので、面白い社会の見方だなと思いいました。スウェーデン文化とグローバルサービスにすることの組合せ、人材集めの苦労や税金のことなども丁寧に書いてあります。
 
 長くなりそうなので、この辺で告知しておきます。オンラインで読書会やります。次世代音楽ビジネスを実践的に研究する「ニューミドルマン・コミュニティ」のイベントです。生まれて初めて読書会というものを体験、まして企画してます。15年間の音楽サービスの歴史を総合的にまとめて年表を作成しつつ、『Spotify』と突き合わせするみたいなやり方を想定してます。読み終えた方も、これからの方も、読むかどうか迷っている方も、是非、ご参加下さい。

以下は、自分用の読書メモです。読み飛ばして下さい。

P35  Spotifyのネーミングは、聞き違いだった。「場所=spot」を「特定する=identify」という説明は後付けだとのこと。ネーミングってそんなもんですよね。

P86 ”違法コピーサイトは敵ではなく、ライバルと考えていた。ダニエル・エクは違法コピーサイトより軽く動く、元良い商品を作りたかった。” 僕に初めてSpotifyの存在を教えてくれたのは、現NexToneCOOの荒川祐二さんですが、その時に「違法サイトより便利なサービスを作る」と言っているとの説明でしたから、彼は常にそれを言い続けていたのでしょう。

P88  2006年まだサービスのプロトタイプをユニバーサルミュージック国際部門のロブ・ウェルズに見せて、協力者にしているとの記述がありますが、ロブは音楽業界の大物で彼の協力は大きかったでしょう。Spotifyを押し上げたことで彼の音楽業界でのレピュレーションが上がった側面もあるのかもしれません。他にも音楽業界関係者が数多く登場し、Spotifyの成功に貢献しています。日本の音楽業界に一番足りないのは、こういうことなんだなと痛感します。

P89 2006年は、YouTubeがグーグルに17億ドルという高額で買収された年でもあります。これにもワーナーミュージックが広告収入シェアでミュージックビデオのライセンス契約を結んだことが後押ししたように読み取れる仮称があります。

p93 2007年にSoundCloudが生まれます。ドイツのサービスですが、CTOがスウェーデン人というのは知りませんした。ダニエルはシンパシーを感じていたようですが、SoundCloudはミュージシャンくずれ、Spotifyには技術者が集まっていたそうで、どちらも音楽オリエンテッドで魅力的なサービスでありながら、その後明暗を分けたのは、その初期の出自が関係しているような気がします。

P177〜180 ザッカーバーグやシェーンパーカーとの交流も興味深く描かれています。

P252  2014年サービスローンチ後あっという間にAppleに高額(32億ドル買収されて、Apple社のiTunes Storeによるダウンロード型からストリーミングへの変換を担うことになるBEATS MUSICが、こんなにSpotifyともつながりがあったとは驚きでした。Appleとの軋轢は何度も描かれますし、他にものちにJ'zがオーナーになるサービスの前身の会社など、世界の音楽スタートアップはアーリーステージから人的交流があるのが読み取れます。日本のエンターテック起業界も国際化が急務ですね

P378  後ろから5行目の「スポティファイは、ファンとミュージシャンの間にあるIT技術主導のストックルームを目指している」という一文がどうしても意味がわからなくて、考えているうちに、これは「ストックルーム」ではなく「プラットフォーム」の誤植ないし誤訳であるという結論になりました。読書会やるつもりで丁寧に読み込むと間違いまで見つけてしまうものなんですね(笑)。

P408 アメリカで2018年に「音楽近代化法」が成立したことは知りませんでした。印税関係の情報のデジタル管理を認める法律のようです。そのうち詳しく調べたいです。

まとめ 年次の整理はまだ途中ですが、何度も読み返す中で気づいたのは、僕はSpotifyとダニエル・エクのファンだったということです。音楽の価値の本質を見つめて、新しいサービスという形で社会に提供し、ユーザー体験を変革し、音楽ビジネスの仕組み、生態系をアーティスト主導の形で再構築しつつあるSpotifyは素晴らしいスタートアップだなとこの本を読んで、改めて感動しています。ただ、まだ歴史ではなく、現在進行形、しかも僕もプレイヤーである分野での出来事です。盲目的に崇拝するのではなく、批判精神も持ちながら、Spotifyをウォッチしていきたいし、匹敵するようなサービスが日本でも生まれるように頑張りたいなと思いを新たにしています。

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