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鹿島サポが紹介する「旅する練習」の景色

※本稿は、鹿島サポが「旅する練習」に登場する神栖市、鹿嶋市の風景を写真を交え紹介するものです。作品の世界観やイメージを大事にされる方はご注意ください。

※本稿の中に3つの「かしま」の表記が出てきます。「鹿島」とあればチームを指す「鹿島アントラーズ」、「鹿嶋」とあれば市町村名を指す「鹿嶋市」、「カシマ」とあれば鹿島アントラーズのホームスタジアムを指す「カシマサッカースタジアム」です。

はじめに

「旅する練習」(乗代雄介/著)という小説をご存じだろうか。第164回芥川賞候補作で、残念ながら受賞こそ逃してしまったのだが、SNS上では発表があるまで受賞作とともに話題になっていた作品である。

わたしは、この本に登場する「鹿島アントラーズ」を応援している。帯にあった「鹿島アントラーズの本拠地を目指す旅に出る」、この一言だけで読むことを決めたくらいだ。そんなわたしが、この本を読んで、最初に思ったこと。「わたし、この3人にどこかですれ違っていたんじゃなかろうか」。風景の描写がとても丁寧で、読後もその世界にいる気がするほどだった。そう思ったのは、ちょうどこの本の中で3人が旅しているのと同じとき、わたしも鹿嶋の街を歩いていたからでもあるのだが。

そんな話はさておき、本作が発表されてからしばらく経っているが、読書が趣味の鹿島アントラーズの選手がファンクラブ会報誌で本作を紹介していたことで、わたしももう一度読み直し、その風景を楽しんでこようと思った。今どき行ったことがない土地でさえも地図アプリでその景色を見ることができるが、お付き合いいただければ。

国道124号線〜神之池

国道124号線は千葉県銚子市を起点に、神栖市、鹿嶋市、鉾田市、大洗町などを通り、茨城県水戸市までつながる国道である。神栖や鹿嶋あたりでは昼夜問わず交通量の多い道だが、鹿島臨海工業地帯の入口へのつながるこのあたりは特にトラックの往来も多い。


国道124号線を鹿嶋方面に進むと、中央公民館や市民体育館などの運動・文化施設が集中する一帯が現れる。そのすぐ北側が神之池緑地だ。道1本入っただけなのに、国道の喧騒を忘れさせるような市民の憩いの場が広がる。サイクリングを楽しむ親子、遊具で遊ぶ子どもたち、ピクニックテーブルを囲むグループ。あちこちで休日を楽しむ様子が伺える。

神之池をぐるっと一周するようにある約4.5kmのランニング・ウォーキングコースでは、年代を問わず多くの人が自分のペースで汗を流している。池に目をやればたくさんの水鳥が楽しそうに泳いでいる。遠くに鹿島臨海工業地帯の工場や風力発電の風車が見える。

池の畔には桜が植えられており、花見スポットにもなっている。夏には池から花火が上がるようなところだ。

和田山緑地〜国道124号線

無数の送電線が張り巡らされた巨大な鉄塔や無機質な外観の大きな建物が立ち並び、このあたりが工業地帯であることが容易に分かる。和田山緑地を境に、東側には工場が西側には住宅地が広がる。和田山緑地に並行して貨物専用の鹿島臨海鉄道の線路が敷かれている。

工場群から様相を変え、道の両側に量販店が並ぶ。車通りは一層増す。片側2車線の真ん中には、ここが鹿嶋市であり、鹿島アントラーズのホームタウンであることを示すエンブレムをあしらったサインが立つ。東京からカシマスタジアムにバスで行くと必ず通る道で、スタジアムまでもうすぐだと思わせてくれる、そんな目印だ。


ショッピングセンター〜鹿島神宮

国道124号線沿いに現れるショッピングセンター。鹿嶋市は、このショッピングセンター周辺とその北に位置する市役所の周辺に商業施設や飲食店が多く集まっている。

カシマスタジアムに行くにはこの交差点をまっすぐ北に、鹿島灘方面へは東に歩を進めれば着く。西に進むと鹿島神宮だ。

鬱蒼とした木々が目の前に現れる。この森が鹿島神宮だ。

鹿島神宮の大鳥居を背に参道を望むと、参道の中ほどには地域のにぎわい創出を目的に作られた卜伝にぎわい広場があり、週末には青空市やライブなどが開催されている。入り口には剣聖塚原卜伝とその妹 真尋の顔はめパネルが観光客を待っている。


鹿島神宮境内

常陸国一之宮であり、東国三社の一つである鹿島神宮は、「武甕槌大神」を御祭神とする神武天皇元年創建の由緒ある神社だ。鹿嶋市の観光スポットの一つで、鹿島神宮参拝や、香取神宮、息栖神社とあわせた東国三社巡りを目当てに鹿嶋を訪れる人も多い。大鳥居をくぐって正面に見える朱塗りの楼門は重要文化財に指定されている。


楼門の向こう右手に拝殿・本殿が見えてくる。樹齢1,300年を数える御神木は本殿のすぐ後ろにそびえ立つ。拝殿を過ぎると、県の天然記念物に指定されている鹿島の樹叢が広がる。鹿島神宮の奥参道を覆う木々のすきまから射す陽は柔らかくあたたかい。約300m続く奥参道をまっすぐ進むと武甕槌大神荒魂を御祭神とする奥宮(現在補修工事中)だ。

奥宮で、道は二手に分かれる。右は奥宮の脇を抜けて要石、国道124号線へ、左は御手洗池へつながる下り坂 ー 別れを告げる場所となる。

鹿島神宮〜カシマスタジアム

坂道を下りきった先に御手洗池が見える。崖から湧き出す水が流れ込み、底が見渡せるほど澄み渡った池だ。その近くには茶屋や公園がある。

鹿島神宮〜海岸

奥宮を右手に鹿島の森をさらに進むと、要石に突き当たる。要石は、地震を起こす鯰の頭を抑えていると古くから伝えられている霊石で、一部が表面に姿を見せているが大部分は地中深くに埋まっている。


森を抜け、再び国道124号線へ。南へ進み、市役所西の交差点を東に進路を取ると鹿嶋市役所だ。「がんばれ!鹿島アントラーズ!」とチームを応援する看板とともに、「オリンピックが鹿嶋にやってくる!」の看板が掲げられている。カシマスタジアムはオリンピックのサッカー競技の会場になっているのだ。


だんだんと車通りも少なくなった坂道を下り、ぶつかった通りが鹿島アントラーズクラブハウスとカシマスタジアムを結ぶアントラーズ通りだ。通りにはぽつぽつと民家や商店、工場が立つ。海岸の方向に目をやれば、風力発電の風車がさっきまでよりも大きく見える。


海岸線に立ち並ぶ風力発電の風車が風を受け、力強く回っている。その中には鹿島アントラーズのロゴのものもある。鹿嶋の海岸はサーフィンや釣りに人気のスポットで、海を楽しむ人がたくさん訪れる。

海岸で、みどりさんから送られてきた、亜美たちが見て喜んだカシマスタジアムの写真はどんなだったのだろうと想像してしまう。鹿島神宮からまっすぐ伸びる国道51号線から見えるスタジアムだろうか、ジーコの銅像とともにだろうか。サッカーが開催されるときだけ営業する鹿島サッカースタジアム駅の高架からの眺めだって素晴らしいのだ。


鹿島神宮駅から乗ったJR鹿島線。北浦に架かる線路を走り、戻っていったのだろう。

最後に

みどりさんが行ったかどうかは分からないが、カシマスタジアムにはカシマサッカーミュージアムというちょっとした博物館がある。ミュージアムに入れば、鹿島アントラーズの礎を築いたジーコの名言で出迎えられ、鹿島アントラーズに在籍した選手の写真や過去に獲得したトロフィーなどが飾られている。必見である。

3人が見た景色もこんなのだっただろうか。