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ふつうの日記 2021.08.14『Tの行方』

・卒業アルバム

 小学生の頃、Tくんという友達がいた。四年生くらいからずっと仲良くしてもらっていて、休み時間には必ずTくんと私と何人かの友達で集まって遊んでいた。小学校卒業と同時にTくんは海外へ引っ越してしまって、それ以来一度も会えていない。なんだか漫画みたいな友達だ。
 最近、Tくんのことをしょっちゅう思い出してしまう。今はどこでどうしているのか知りたくて、ネットで名前を検索してみたこともあった。だけどそれらしい人物は一人も見つからない。そうして考えるうちに顔の記憶もぼんやりとしてきたので、今日は小学校の卒業アルバムを引っ張り出してみた。
 アルバムを見ると、Tくんは思ったよりも柔和な顔をしていた。そしてどの写真でも、全く同じ顔で笑っていた。小学生のうちから自分のベスト笑顔を発見しているとは、恐ろしい奴だ。文集にも「『類は友を呼ぶ』という言葉がありますが~」などと書いていてしゃらくさい。でも確かにこういう子だった。なんだか妙に大人びている、妙な友達だったのだ。
 Tくんはいつも筆箱にボビンを入れていた。そのボビンをペットのように可愛がっていた彼は、落とした筆箱から転がり出たボビンを「僕のボビン!!」と叫びながら追い回していた。
 Tくんはある日、「ハイパーカイロを作る」と言い出した。校庭に出てマグネットを転がし、集めた砂鉄を持参したカイロの中身に加えていった。しかし5分で飽きた。彼は「これは理論上不可能だな」と呟き、教室に帰っていった。
 Tくんはまた別の日、「イオンモールTを作る」と言い出した。彼は私と数人の友達を社員とし、自由帳にモール内の地図を描き上げて、想像上のイオンモールを作り上げた。年賀状に「有給はしっかり消化するように」と書いて送ってきた。
 Tくん、今はどこで何をしているんだろうか。元気だといいな。でもなんか、普通にチャラい大学生とかになっていたらちょっと嫌かもしれないな。どうなっているんだろう。なんだか余計に気になってきてしまった。卒業アルバムはまたしばらく、しまいこんでおこうと思う。


・小説

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 以前書いていた小説を、連載形式で「小説家になろう」に投稿することにしました。
 不思議な少年の未来予知に振り回される、弱い大人たちのお話です。毎週土曜日に更新予定。お暇がありましたら読んでいっていただけると幸いです。


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