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【フェアンヴィ】第39話~2024年創作大賞応募作品~

#創作大賞2024 #ファンタジー小説部門

心の内

 ケディとエクシードは道の端、岩の上に腰を下ろしているルービスの背中を見つめていた。まだ月が明るく見える夜明け前だ。その背中が小さく、頼りなげない女性でもあることに今更ながらに気づいた。
 足音に気づき振り返った顔は、月光に照らされた部分だけでも緊張していることが伺えた。
「やっぱり置いていこうとしたんだね」
 ルービスの視線は2人のフル装備を確かめているようだった。ケディとエクシードは顔を見合わせる。
「でも、どうしてもこのままでは嫌だから待ってた。…大事な話をしてなくてごめんなさい、怒っているよね。トーマンから聞いたと思うけど…」
「何も聞いてない」
 ルービスの話を遮ってケディは話した。
「そんな言い方だとかっこつけてるか。逆だな。あの人は教えてくれなかった」
 2人は近くまで来て、ルービスが今まで泣いていたかのような顔をしていることに気づいた。
「オレが尋ねたら、知らないならルービスに聞けと。だけど、信じてほしいと頭を下げられた。ルービスが何も言わなかったのは、自分が人を信用しないよう教えたからだと」
 トーマンに頭を下げさせていたと知って、ルービスの心は痛んだ。
「違う…。ただ、信じてもらえない気がして。怖くて、言い出せなかっただけ」
 ルービスは頭を下げた。一晩考えても、自分の気持ちをうまく言える言葉は見つからなかった。
「おたくの短剣にはチュチタ国の紋章が入っていた。チュチタの人間なんだろうとは思っていたよ」
 エクシードには珍しく優しい口調だ。
「まあまさか、お貴族様とは思わなかったけどな」
「一般市民だから!」
 ルービスは慌てて頭をあげて大声を出す。ケディが「シーッ」と人差し指を立てながら、辺りを警戒する。ルービスも夜明け前であることを思い出す。空は紫色になってきていたが、まだ寝静まっている時間であることに変わりはない。
「サーブ王国に行く目的は、さしずめ国交交渉の改善…」
 ルービスが否定しようと口を開けたところを、ケディが手でルービスを制した。
「…と思ってすぐやめた。だとしたら人選ミスだよなあ。あんたみたいに物知らずじゃあ、まとまるものもまとまらなそうだ」
 そういいながら、ケディとともに吹き出す。
「教えてもらおうじゃないの、真実を」
 ケディがルービスの背中を叩く。ルービスはホッとして2人を見た。そして早口に今までのことを、自分の人生が動き出した話を始めた。2人は時には真剣に、時には大笑いをしながらルービスの話を聞いた。
 
 
「あんたも誤解していたんだぜ」
 鳥のさえずりが聞こえる中、3人はサーブ王国に向かって歩き始めていた。空は白み始めていて、3人の心を映すように澄んで、希望に満ちているようだった。
「ケディが、あんたが王子と行動を共にしはじめるんじゃないかって心配してさ。『白い塔にいくのはおれたちとって約束したんだから譲れねえ』とか言って、待ち伏せするとか言ってきかなかったんだから」
「おまえ! それ今この流れでいう必要ないだろ!」
 ケディがエクシードを横蹴りしようとしたが、エクシードは予期していたらしく、軽く避けていった。
ルービスはそれを見ながら「良かった」と目を潤ませた。
「あれ…これは笑うところなんだけど」
 エクシードはバツの悪そうな顔をして続けた。
「それと、おれも謝りたくて」
 エクシードの言葉に、ルービスはきょとんとした顔で頭をあげ、ケディは視線を下げる。
「ポールカリアでおれはひどいことを…」
 エクシードは唇をかみしめた。
「あんたに、人殺しをさせようとしてしまった。今の話を聞いたら、なおさら…本当にすまない」
 地獄絵図のようだったポールカリアでの出来事を思い出し、ルービスはただ首を振るだけしかできなかった。
「どうかしていたんだ、怒りで…。これからも、あんたは人を殺さなくていい。殺すときは、おれがやる」
 エクシードの言葉にルービスは恐怖を感じた。この先も、あんなことが起こるのだろうか。
「もう殺しなんてないさ、そういう国を作るんだろう」
 ケディが明るい口調で入ってきてくれ、少し空気が変わる。
「…そうだったな。また変なこと口走ったな。ルービス、とにかく、きっとあんたが辛い思いしたんじゃないかと思って、ずっとそれを謝りたくて」
「大丈夫」
 ルービスは努めて笑顔をエクシードに向けた。あの時は、あれで良かったのだと思いたかった。
「ありがとう」と続けたその言葉は、偽りない言葉だった。

次話 砂嵐 に続く…


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