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【フェアンヴィ】第34話~2024年創作大賞応募作品~

#創作大賞2024 #ファンタジー小説部門

価値

「す…すみません!」
 足を押さえながら謝ってきたのはまだ小さな子どもだった。
「どうしたの?」
 ルービスは少年を起こしてやって、背中になにか機械がくっついているのを見た。
「なにこれ」
 四角い箱のような形の金属に、針金のようなものが付いている。
「うん…別にいいだろ」
 少年はまだ足をさすっている。
 ルービスは上を見上げて近くに建物がないことに気づいた。
「ねえ、どこから落ちてきたの?」
 少年は少し離れた建物を指した。
「あんな遠くから? どうやって?」
 少年は無言で機械を指す。
「これで? 飛んできたの? ほんとに?」
「本当だよ。破れちゃったけど、ここに羽根が付いていたんだから」
 少年は投げやりに言った。
「どうせ信じないだろうけど」
 そう言って横を向いてしまう。
「信じるよ」
「本当?」
 少年はルービスを見返してぎょっとした。
 ルービスは鼻息を荒くして少年に期待の眼差しを送っている。
「どうするの? どうすると飛ぶの? 教えてよ!」
 ルービスはすっかり興奮していた。
 
 少年はルービスを煉瓦造りのしっかりとした家に招待した。家に入ると老人が顔を出す。
「おお、ミロ、どうだった?」
「じっちゃん! 広場まで飛んだよ。だけど壊れちゃった」
 少年は頭を掻きながら機械を老人に渡した。老人は機械を受け取りながら、少年の後ろにいるルービスに気が付く。ルービスは顔周りを隠していた布を取ってお辞儀をした。
「じっちゃん、この人広場にいたんだ。この人も飛んでみたいんだって」
 少年は振り返ってルービスを見て息を呑んだ。自分が連れてきた人物が美しい女性だったことに気づいていなかったのだ。
「ルービスです」
 紹介され、ルービスは老人に握手を求めた。老人はしわだらけのカサカサした手を差し出して、残念そうにルービスを見た。
「悪いが、あんたには無理だなあ」
 老人は頭を掻きながら、機械を机に置いて愛おしそうにさする。
「この機械はわしの発明品だが、この子くらい小さくなきゃ重すぎて飛べないんだよ。悪いがなあ」
「なんとか改良できないの?」
 ルービスががっくりと肩を落とすのを見て、老人は部屋を見回す。部屋はいろいろな工具や、部品、これまでの試作品だろう大小さまざまな機会が乱雑に置かれていた。
「申し訳ないね、他になにか気に入ったのがあればもっていっていいよ」
 
「で?」
 ケディは腕を組んでルービスの前に立ちはだかった。
「その手に持っているのはなんだよ」
「その機械」
「ガキしか飛べない…それも数十メートルしか飛ばないガラクタだろう?」
「ガラクタじゃないよ」
 ルービスは口をとがらせた。
「使い物になんないだろ」
「だけど、持っているだけで嬉しいじゃない。夢があってさ」
 ルービスは機械の横についているボタンを押した。すると、今まで折りたたまれていた針金がぴんと伸び、大きな羽根の形になった。
「きれいでしょ」
「ばかやろう!」
 ケディは唾を飛ばしながら怒鳴った。
「汚いなあ…」
「うるせえ! お前そのガラクタをあの金貨で買ったんだろ! それが問題なんだよ! ただでもらって来いそんなもん!」
「だってお爺さんが精魂込めた手作りの一作なんだよ」
 ルービスは人差し指を立てた。
「一作だか二作だか知らないが、どうでもいいわそんなこと! ルービス、お前、金の価値わかっているのか?」
「ある程度なら。だけどこの硬貨は見たことなかったから。…そんなにすごいの?」
 渡した時、老人が腰を抜かして喜んでいたことをルービスは思い出していた。ケディはぐったりと椅子に倒れ込む。
「ある程度、ね。あの金貨を出した時はてっきりオレ達の軍資金が底をついたのを知って、地図をダシに自分の財産を提供してくれたのかと思っていたが…」
 ケディはブツブツと呟いたため、ルービスは「なんて?」と耳を近づけた。その能天気さが、ケディを疲れさせる。
「その金貨一枚で早馬百頭は買えるな」
「百頭?」
 ルービスも倒れそうになって、必死に机につかまった。
「…お前、全部で何枚持ってんだ?」
「金色3枚と青色1枚。あ、もう金色は1枚だけど」
 二人は暗闇に落ちていった。
「これをエクシードが聞いたら爺を殺してでも金貨を取り戻すだろうな」
「で…でも、お爺さんの一作は価値があると思うよ?」
 ルービスはもう一度人差し指を立てた。
「本気でそう思っているのか?」
「うん」
「・・・」
 ケディは目をつぶった。
「よし…今回はオレの胸にしまっておこう。だけどもう軽はずみにそんな使い方するなよ。残りの金貨は大事にしまっておけ」
 ルービスがうなずくのを確認してケディはため息をついた。
「宝物にしろよ」
「もっちろん!」
 ルービスは機械をひとしきり抱きしめた後、自分の枕元に大事そうに置いた。

 ルービスはその後、外出禁止となった。

次話 再会 に続く…


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