【フェアンヴィ】第40話~2024年創作大賞応募作品~
砂嵐
マラハラ国を北に進むと、丘が多くなってくる。丘から小山と呼べるようなものまで乱立しはじめ、その山裾を抜けてたどり着くと、ルービスが初めて見る景色が広がっていた。
目の前には見上げる高さの砂煙が立ち上がっていた。黒い雲が地面まで降りてきているようだ。
「なにあれ」
ルービスは眉をひそめてそれを見た。
「こりゃあ、悪い時期にぶつかっちまったな」
ケディも眉をひそめ、その場に座り込む。
「悪い時期って?」
「マラハラ国のちょうど真ん中にな、砂漠があるんだよ。そこが時々嵐になって、とてもじゃないが通れなくなる」
「もしかしてそれがあれ?」
「そう、それがあれだ」
隣にルービスもしゃがみ込むと、エクシードも荷物を下ろした。
「どうするのさあ、いつ終わるの?」
ルービスはケディを揺すった。
「どうするって言われてもなあ。止むまで待つしかないな」
「いつ止むの?」
「さあ…始まると何日かかかるときもあるって言うし。オレにもわからない」
ルービスは向かってきそうな勢いの砂嵐を眺めてため息をついた。エクシードが住民に聞いてくると、すぐそこに見える集落に走っていく。
「通れないの?」
「そりゃあ、ゆっくり行けば通れるだろうけど、砂だらけだぞ? 時間もかかるし、体力ももたないだろう」
ルービスはすくっと立ち上がった。ケディが手を伸ばしてルービスを座らせようとするが、ルービスはすばやく身をかわす。
「行くつもりか?」
「ここを抜ければどうなる?」
「抜けたら、サーブ王国は目の前だ。ユリ領への国境も近い」
「行こう」
ルービスは荷物を背負い直して歩き出した。
「ちぇ」
ケディ達は仕方なさそうに腰を上げた。
「ねえ、ケディ、馬なんて使ったらどうだろう」
ルービスは横にそびえる馬小屋を眺めながら言った。
「馬ァ?」
ケディは大きく手を振った。
「だめだめ、馬なんてあの嵐の中連れたら暴れまわって大変だ。振り落とされるぜ」
「でも乗りこなせば?」
「…よせよ、大体馬を貸してくれるわけが…」
ケディが後を続けようとすると、ルービスが忽然と姿を消していた。ケディがルービスを捜していると、エクシードが戻ってくる。
「3日前から続いているから、そろそろ砂嵐は止むんじゃないかって。宿屋もその先に…」
言いかけて、エクシードはケディの肩越しを指さした。
「ケディ、あれ!」
指差す方向を見ると、なんとルービスが馬にまたがっていた。
「な…何する気だ!」
「GO!」
ルービスが馬の腹を叩くと、馬は馬小屋を躍り出て、一直線に砂嵐の中に駆けだした。
「ゴーじゃない! ゴーじゃ!」
ケディが慌てて馬小屋に入ると、青い硬貨を大事そうに主人と思われる老人が握ってニコニコしている。「あと2頭ですよね、どうぞ」などと宣う。
「あいつ…っ! 全然わかってないっ!」
「冗談だろ…」
エクシードもケディの後に続いて呆然としている。
「ケディ、無茶だよ。あの中を追いかけるなんて!」
「そんなこと言ってらんないだろう、あの無鉄砲野郎!」
すでにルービスは砂煙の中に消えていた。ケディは嫌がる馬を叱りつけて嵐の中に入っていく。残ったエクシードも馬を選定し始めるが、ここに来て、老人も「嵐の中に入るのは無理ですよ」と顔を青ざめさせ、エクシードの勇気をくじいた。
次話 砂塵の彼方 に続く…
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