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【フェアンヴィ】第35話~2024年創作大賞応募作品~

#創作大賞2024 #ファンタジー小説部門

再会

「さあ! 出発しよう!」
 ルービスは胸に出来たての地図を、背中に機械を背負って手を振り上げた。機械はルービスが背負うと随分小さく感じる。
「おいケディ、あのルービスが背負っているがらくた、あれなんだ?」
 エクシードがケディに耳打ちした。
「ばかやろう! あれはがらくたなんかじゃねえ。イッサクだ!」
 ケディは指を立てた。
「はあ?」
 眉を八の字にさせて首を傾げる。
「つまり、聞けばぶっ殺すってことだよ!」
 ケディの勢いにエクシードはなにかを悟ったのか大きくうなずいた。
「何やってんの? 早く行こうよ!」
 ルービスはもうずいぶん先に進んでいる。
「今行くよ!」
 今日はひときわ人混みが多い。小柄でフードもかぶっているルービスは、目を離すと姿を見失ってしまう。一人での外出を禁止していたため、外に出るのを待ち望んでいたルービスは足が速い。
「オ! チュチタの行進だ。こりゃあ宿が埋まるぞ。今日の出発で良かったな」
 ケディが長身を生かし、遠くの集団を発見した。「チュチタ」という言葉にルービスが反応をする。
「え? 新兵の行進?」
「そう、チュチタの行進。兵隊だよ」
 ケディが指を指してその方向を示す。
 ルービスは息を止めて大通りを埋め尽くす群衆を見た。ジャンプをしながら確認する。男ばかりの雑踏。チュチタ国の旗が見えた。
 確かに新兵の行進だ。
(もうここにいるなんて!)
 ルービスは一目散に駆け出した。
「ルービス! どこに行くんだよ!」
 ケディ達は突然走り出したルービスを追いかけた。が、ルービスのように小柄ではないので群衆の中を上手くすり抜けられない。ケディ達はすぐにルービスを見失った。
(このどこかにDがいるはずだ!)
 ルービスは人ごみの中を走り抜けた。ディーブを乗せた馬車はかなり後ろにあるはずだった。度々ジャンプをしながら目当ての馬車の屋根を発見する。
(もうすぐだ!)
 心臓の鼓動を痛いほど感じ、息が苦しくなるほどだ。
 やがて人ごみが晴れて、遠くを見渡せるようになる。馬車はすぐそこだ。ルービスは辺りを見渡し、店に入りかけているディーブの姿を発見した。
「D!」
 ルービスは張り裂けんばかりの声を出した。慌てて乱れた顔周りの布を巻きなおす。
 ディーブはすぐに気が付き辺りを見回し始めた。ルービスは嬉しくなって、手を振りながら近づく。
 ディーブもルービスを見つけてこぼれるような笑顔を見せた。その笑顔でルービスの体に電流が走ったのごとく喜びが駆け上がる。ルービスは力いっぱい走った。ディーブは両手を大きく広げて待ち、ルービスが飛び込んでくると強く抱きしめた。
「古い知り合いだ。下がってくれるか」
 ディーブはルービスを抱きしめながら、人払いの合図をした。兵士たちは戸惑いつつも敬礼をしてその場を離れていく。それを確認してからディーブはちらりとフードをめくってルービスの顔を覗き見た。
「ずいぶん早く会えてしまったな」
 ディーブの言葉にうなずきで答え、ルービスはディーブの胸に顔をうずめた。久しぶりに嗅ぐディーブの匂いに心が満たされていくのを味わいたかったのだ。
「もう塔には行ったか?」
「ううん」
「もう父親と会えたか?」
「ううん」
 ディーブの胸の中で思い切り深呼吸をした後、ルービスは地図を出して微笑んだ。
「マラハラ国を通って、サーブ王国にいくの。塔はサーブ王国のものだった」
「サーブ王国?」
 ディーブの顔が途端に曇った。
「どうしたの?」
 ルービスが心配そうに言うと、ディーブは気づいて微笑んだ。
「いや…、なんでもない。それよりお腹空いていないか? 今から食事なんだ。一緒に食べよう」
 ディーブが店のドアを開けようとすると、ルービスの名を連呼するケディ達の声が遠くに聞こえてきた。
「あ! いけない」
 ルービスは後ろを振り返り、雑踏の中にケディたちの姿を捜す。長身のケディの赤毛が雑踏の頭の海の中、近づいてくる。
「友だちを置いてきちゃった」
「友だち?」
 ルービスはうなずいて人ごみを見つめた。
「みんな! こっちだよ!」
 大きく手を振りながら叫ぶと、ケディ達が人ごみの中から躍り出た。
「ルービス! もう少し落ち着いて行動とれないのか!」
 ケディは青筋を立ててルービスを睨んだ。
「ごめんごめん。ついつい。…D、この人たちが私の友だち。一緒に塔まで付いてきてくれるんだ」
 ケディ達はルービスの横に立つディーブに気づいて弾かれたようにフードを取り、気を付けの姿勢をとった。
「ケディ…なにやってんの? この人は…」
「ディーブです」
 ディーブはルービスが言うより早く名乗り出た。
「ルービスに付いて行ってくれるのですか」
 ディーブは手袋を取ってケディ達に歩み寄った。ケディ達は体をカチコチにさせて敬礼する。
 そのぎこちなさと、ひどい緊張した様子にルービスは思わず吹き出してしまう。
「そう畏まる必要はないですよ。ルービスの友だちは私の友だちです」
「そうだよ、がらにもない」
 ケディ達はからかうルービスには目もくれず、相変わらず緊張を解かない。
「あの…でも王族…の方なのでは…」
 ケディは汗を吹き出しながら、ディーブを畏れ多くも眺めた。ケディ達でもディーブが王子であることは一目でわかるらしかった。その様子にルービスの心が少し痛んだ。自分はこのことをケディたちには話していなかった。
「…見ての通り、新兵の付き添いです。どうですか? 一緒に食事を…」
「とんでもない!!」
 ケディは電気ショックでも受けたかのように体を一直線にさせた。
「オ…オレ達は! 私たちは向かいの店にいますから!」
 ケディはそう言って深く頭を下げ、身を翻して向かいの店に駆けて行く。遅れてエクシードも弾かれたように敬礼をし、転がるようにケディに続いて行った。
「・・・」
「嫌われてしまったかな」
「まさか」
 ルービスは懸命に笑顔を作りながら、2人の消えていった人混みを見つめていた。
(嫌われるとしたら、それは私だ)

次話 情願 に続く…


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