見出し画像

【フェアンヴィ】第64話~2024年創作大賞応募作品~

#創作大賞2024 #ファンタジー小説部門

爆発

「生きていたのか」
 ユリがホッとしたように呟いた。
 サーブ王はディーブ達を一瞥し、ククク、と笑った。その様子をみてケディが一歩前に出る。
「離れろ」
 ユリがケディの背中を掴み、引いた。
「みんな、離れるんだ」
 ユリはサーブ王の動きを見ながら全員を出口を押し始める。
 サーブ王はゆっくりと窓枠に手を伸ばし、何かを取った。取り出した途端、それは火花を小さく出していた。全員が大きく身を引く中、ユリはその場に留まった。
「お前はここにこれがあることも知っていたのか」
「それは大した爆破はしない。見せかけだ」
 サーブ王は愉快そうに口元を緩めた。
「お前らはここで死ぬ」
 サーブ王は笑い出した。可笑しくてたまらないといったようなその笑い声は、この場に不釣り合いだった。ユリも困惑したようにサーブ王を見つめる。手に持っている爆弾がまだ火花を散らしている最中、塔が地響きを立てて揺れた。大きな地震のような、いや、爆発だ。爆発は同時多発的に行われているのか、時折大きく傾く。
「みんな、逃げろ!」
 ユリは叫びながら自分はサーブ王のもとに走った。
「逃げるか…!」
 ディーブとトーマンも同時にユリの後を追いかけ駆け出す。ユリの攻撃をかわそうと横にずれたところをディーブとトーマンが立ちふさがる。サーブ王がそこに剣をふりかざすが、ケディが受けた。
 天井や壁にひびが入り、粉砕された石が落ちてくる。すぐそこの階段の方でも大きな爆発が起こり、煙が部屋にも入ってきた。まだだれ一人そこから逃げることなく窓際に集まる。人が密集して上手く剣を裁くことも困難になっていた。
 その間にも爆発は続き、ぐらついたタイミングでまるで自分から剣を受けたようにユリの左肩にサーブ王の剣が入ってしまった。
 ユリはうめき声をあげながらも、引き抜こうとしたサーブ王もろとも窓におしつけ、そのまま窓の外に体を押しやる。ちょうど続けて起こった爆発もその体重移動を助ける形になった。
 ユリの肩から剣が抜けると同時にサーブ王の姿も窓枠から消えていく。
 ところが全員が見守る中、窓の近くにいたディーブが突然窓に引き寄せられた。いつのまにか、窓の外からのばされた綱がディーブの両足に絡みつくように巻きついていた。あっという間にディーブは足元から窓枠に引き寄せられた。
 全員が一瞬の出来事に出遅れる中、トーマンは機敏に反応しディーブを救うため駆け出していた。目の前でディーブがつかまり引きずられ、命を奪われようとしている。
 ユリも綱を止めようと引っ張る。窓辺にいたユリはその綱をつかむサーブ王の姿も見えていた。左腕が動かず右だけの力で綱をつかむが滑っていくのは止められない。勢いを増し、ディーブの体が浮かんで窓の外に運ばれる。
 トーマンの指先がディーブの指先にわずかに触れたが、それは一瞬の出来事だった。ディーブの胸元に掛けられたネックレスがきらりと太陽光に反射して、視界からディーブとともに消えた。
 トーマンが窓から飛び出そうとするのを仲間が止める。そこに足をもつれるようにしてルービスが到着し、窓にもたれるように崩れた。ショックでうまく体が動かない。この窓からディーブは姿を消してしまった。現実だとは思えないほど一瞬の出来事だった。
 
 
「殿下!」
 トーマンがなおも窓から飛び出そうとしているのをぼんやりと見て、ルービスも気づいた。
 奇跡だ。嘘のようだ。
 ルービスも思わず窓から落ちそうになった。
 ディーブは塔から突き出た旗を飾る棒に両手をしっかりと掴んで生きていた。塔が続ける爆発の振動に今にも手を外しそうにしている。顔を歪ませ苦痛に耐えているのは、足の綱がそのままで、下のサーブ王との2人分の体重がかかっているからだろう。
 状況を知ったユリが矢を構えた。
 
 爆発は断続的に続いている。次第に塔のぐらつきが大きくなっている。
ルービスは鎧を脱ぎ始めた。
「早く、早く矢を放ってください!」
 ユリの左手が震えていた。左肩からは血が滴り落ちている。なかなか矢を放たないのに焦れたトーマンがユリを見上げ、絶望的な顔をする。
 口を結んで矢を構えているユリの肌にじわりと汗がにじんでいる。すでに綱に焦点は合っていた。あとは矢を放つだけだ。
 矢はディーブとサーブ王を繋ぐ綱を見事に切った。サーブ王は無言で、こちらを見つめながらその体を落としていった。その顔には恐怖も怒りも悲嘆も、なにも認められなかった。その瞬間、ユリが体を崩した。予期していたようにケディがその体を支える。
 悲鳴が上がったのは、その綱の切れる衝撃でディーブがバランスを崩し、片手を離してしまったからだった。
「ケディ、タオ、あとお願い」
 ルービスはそう言って窓枠に足をかけた。
 
 


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?