見出し画像

【フェアンヴィ】第63話~2024年創作大賞応募作品~

#創作大賞2024 #ファンタジー小説部門

協心

「ユリ!」
 サーブ王の張りのある声がフロアに響き渡った。ユリは身を固くして鬼の形相のサーブ王を見つめた。
「やはりお前だったか。…死にぞこないが。シオンには会わなかったか」
 サーブ王は大きくユリに距離を保ったところで立ち止まった。
「答えろ! この裏切りはどうしたことだ!」
 腹の底に響くような声だ。ユリはまだなにもされていないというのに体を震わせ息を乱した。認めたくないが恐ろしさで足が震えている。
「私の質問に答えろ!」
 明らかにサーブ王の表情は変化した。憤怒の色に顔は染まり、美しく整った顔立ちは醜く歪んだ。
 サーブ王は激しい怒りを隠しもせずユリの元に走り込んで来た。渾身の力を込めて剣を振りかざしてくる。
(とうとう殺される)
 右手に持った剣を握り直すが、剣を持ち上げることができない。体が恐怖ですくんでしまったのだ。幼少の頃からの厳しい折檻がユリの身体には染みついていた。
 
 目の前に何かが飛び込んできたかと思うと、激しい金属音が響いた。
 身をすくめたユリの前に立ちはだかったのはサーブ兵だった。ユリに振り下ろされた剣を盾で受けている。次の瞬間兵士2人がさらにユリを守る様に立ちふさがった。
「何の真似だ」
 その言葉に応え、3人は兜を外した。
 その姿にサーブ王は大きく目を見開いた。
「お…お前は!」
 大きな動揺を見せたのは盾で自分の剣を受けた兵士の姿だった。
「ルービス!」
 そこには美しい女性の顔があった。柔らかな栗色の髪、透き通る肌、優しげな瞳に整った目鼻。一目でわかる。
「女だったか。ルービス」
 サーブ王は今にもルービスを抱きしめようとでもいうような慈愛に満ちた表情に様変わりした。反対にルービスは混乱していた。目の前に立っている長身の男はサーブ王に間違いがない。ユリに瓜二つだ。いや、正確にはユリがサーブ王に似ているのだ。まるで年の離れた双子のように。なのにユリを殺そうとしていた。
「なぜユリを殺そうと…」
 ルービスは緊張を保ったままサーブ王に尋ねた。サーブ王は微笑みを保ったまま眉だけひそめた。
「ユリ…? ああ、ユリか。ユリは悪いことをした。だからお仕置きをしなければいけない。殺そうとなんてしていない。誤解があったようだな」
「死んでいた」
 ルービスはサーブ王の言葉が終わらないうちに重ねるように言い放った。
「あの角度、あの勢いであのまま剣が振り下ろされていれば、ユリは死んでいた」
 ルービスはなかなか剣を収める気になれなかった。自分の中の奥深くにある本能が危険信号を送っている。
「…タオ、ケディ、援護を頼む!」
 ルービスはサーブ王に向かって走り込んだ。タオとケディもそれに続く。
足元にルービスが滑り込んでくるのを見て、サーブ王はルービスに迷わず剣を振り下ろした。ルービスはそれでも滑り込むのを止めなかった。サーブ王の口元が緩んだ時、タオがサーブ王の剣を払った。ルービスは滑り込みながらサーブ王の太ももに刀を入れた。
 大きくサーブ王の体が傾いたが、傾きながらもケディとタオの攻撃を防御するのを忘れなかった。ルービスはその隙に立ち上がり、俊敏に背後からの攻撃を開始する。
 完全に背中を捉えたと思ったが、刺さったのはマントだけだった。躱され脇に剣が抜けていく。剣を抜き取ろうと身体の重心を変えた時、左からサーブ王の足が迫ってきていることに気づいた。足を回してきたのだ。剣にこだわっている場合ではなかった。ルービスは剣を手離し、迫ってくる足を両手で受けた。タイミングを合わせ衝撃を殺す。
 そして動きが止まった足を両腕と体で抑え、そのまま反転させる。関節を押さえこみ、体を回して転倒させるのだ。どんな大男でも、いや大男だからこそこの技は成功する。
(うまくいく!)
 手ごたえを感じた。サーブ王の体が回転するのがわかる。そのまま床に叩きつける。そう思った時、自分の顔にサーブ王の刀が迫っていることに気づいた。
 両手はふさがっている。避けようがない。
 覚悟を決めたその時、ユリの剣がその刃を止めた。
 そのままサーブ王は床に叩きつけられた。その首にケディの剣が突きつけられる。すかさずタオがサーブ王の右手を踏みつけ剣を離そうとした。
「だめだ!」
 ユリが叫んだ時には、タオの足首はサーブ王の右手につかまれ、バランスを崩したタオはサーブ王の信じられない腕力によって大きく体ごと振られた。タオの体がケディにぶつかり、そのまま離された体はルービスの方へ足から飛んでいった。
 残されたユリにの方に回転しながら移動し、ケディの剣を奪いながらサーブ王は立ち上がった。
「まったく生意気なガキどもだ。どいつもこいつも中途半端で相手にならんな」
 サーブ王は自分の落とした剣を拾った。両手に剣を構え4人の前に立ちはだかる。
「もう面倒だ…ルービス、お前は息さえしていればいいのだ。生意気な口が利けぬよう、反抗的な行動ができぬよう、調理してくれる」
「させるか」
 横から声がした。ルービスは声のした方を振り向いて息を止めた。
 そこには顔を腫らし、全身傷だらけのディーブたちの姿があった。
 
 
 


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?