見出し画像

Paddle

 2021年7月31日・21:00
 🐄FARMHOUSEが作成した”Paddle”視聴会🐄がYouTubeで開催された。
 僕はこの日、初めて音楽を聴いて泣いた。


 僕を泣かせた張本人は、上下ピンクのジャージ姿に身を包み、間が持たないからと言って楽しそうにマラカスを振っている。
 彼の名前はFARMHOUSE(ファームハウス)。
 SUSHIBOYSというグループのメンバーで、ソロとしても活動しているラッパーだ。
 
 
 視聴会開始から8分が経ち、いよいよPaddle(アルバム)に収録されたミュージックビデオをみんなで視聴することに。
 この視聴会は、笑って泣ける短編映画のようだった。

 
 雄大な自然風景の映像にFARMHOUSEが「火星のみなさんこんばんわ」というナレーションをしている、なんともぶっ飛んだ世界観からスタートした。
 一瞬、オーシャンズやライフ(自然のドキュメンタリー映画)のチャンネルに切り替わったのかと錯覚してしまった。
 どうやら視聴者は火星人になって、生きることに必要のない無駄なものを作り、その無駄なもののために悩み苦しんだり、時には幸せを感じて涙を流す人間という生き物を観察するという意味が込められているようだ。

 そしてナレーションが終わり「RAP RAP RAP」のミュージックビデオが始まった。

 FARMHOUSEが洗面台の前で歯磨きをして、唾を吐き出す。
 吐き出された唾にRAP RAP RAPの文字が記されていく。
 そして独特なイントロが流れ、その音にFARMHOUSEのテクニカルなフロウがバチッとハマる。
 「歌詞書いて消して書いて消して書いて消して繰り返しで変わってく景色」
 リズミカルなフロウで、映像を見ながら気づいたら首を振っていた。
 視聴会の一曲目にピッタリな曲で、一気にFARMHOUSEの世界観にグッと引き込まれた。

「決して金持ちではないけど好きなことで生きていけてる 派手な生活全然ないけど今は最高に楽しめてる ライブ来てくれてるヤツ 曲を聴いてくれてるヤツ ありがとう お陰様でSUSHIBOYSは元気です」

 最初はスキルで見ている人を虜にしようとしているのかと思った。
 しかしこの歌詞を聴いて、SUSHIBOYSのファンに日頃の感謝を伝えるために「RAP RAP RAP」を視聴会の一曲目に選んだのかなと勝手に推測した。
 友人と恵比寿のライブハウスで開催されたSUSHIBOYSのライブに行った日が懐かしい。
 またSUSHIBOYSのライブに行きたいな。そんなことを思いながら聴いていた。 

 そして二曲目「KIRA KIARA」が始まった。
 ネオンカラーのライトに照らされたFARMHOUSEとポールダンスおじさんの芦田良貴さん。
 7月29日、FARMHOUSEはキティーちゃんの顔が刺繍されたピンクのパーカーを着て視聴会が行われることを宣伝していた。
 そのキティーちゃんのパーカーを芦田さんが着ている。
 これは伏線と言えるのか分からないが、見事な伏線回収だ。

 「いつまでもKIRA KIRA KIRA」
 「いつでも今が一番 最高 言える生き方一番 最高」
 「戻れない昔より今を光らせる」
 「暗いところだからこそ光る才能 自分が自分を信じる他ないっしょ 外の世界より広がってる inside」

 ぶっ飛んだミュージックビデオかと思いきや、外の世界より自分の内側(心の世界)のほうがキラキラと輝いている。そしていつまでも輝き続けていたい。
 そんなことを表現しているのだと感じた。

 そして芦田さんがスポットライトに照らされ、ポールダンスを披露。
 73歳になろうとしている今でも輝き続けるその姿は「KIRA KIRA」の象徴だ。
 
 
 3曲目の「Sunflower」はFARMHOUSE、サンテナ、Jeterがメリーゴーラウンドを楽しんでいる場面から始まる。
 後ろに座っているサンテナがメリーゴーラウンドの一部となったのかと思うくらい固まっているのがシュールすぎる。

 「Sunflower」はFARMHOUSEとJeterのコラボ曲となっている。
 ひまわりの花言葉は「憧れ」・「情熱」・「崇拝」など様々な意味がある。
 僕がこの曲を聴いてイメージした花言葉は「あなたを幸せにします」という言葉だ。
 視聴会が始まる前に「みんなの期待を裏切らない映像集できたよ」と語っていたのでそう感じた。

 もしくは、ゴッホの代表作「ひまわり」を意味しているのだろうか。
 ゴッホには「アルル(土地の名前)に画家仲間を呼び、芸術家の共同体を作りたい」という夢があったらしい。
 ひまわりは、ゴッホが「共同体(ユートピア)」の象徴として選んだ花。 
 この「Sunflower」には「音楽家のユートピアを作りたい」という意味が込められているのだろうか。
 
 今までの雰囲気とは違うこの曲によって、アルバムにグッと深みが増したような印象を受けた。

 
 「今日も世界中には眠るためだけに数えられている羊たちがいます。 そんな数えられていく羊の世界を覗いてみましょう」
 FARMHOUSEのナレーションが終わり、4曲目「SLEEP SLEEP SLEEP」が始まる。

 FARMHOUSEの個性的な着眼点を感じるこの曲。
 眠るためだけに数えられている羊の気持ちを考えたことなんて、この日までなかった。
 こんなドープ(最高、病みつき)な子守唄を作れるなんて流石すぎる。
 この曲を聴いて眠れるのはボス・ベイビーくらいだろうか。

 眠ろうとしている主人公に数えられるのを心待ちにしている172番目の羊。
 柵を越えようとしたその時(数えられる直前)主人公は眠ってしまった。
 どこか哀愁を感じる一曲となっている。

 25番目の羊と172番目の羊は彦星と織姫のような関係性だと感じた。

 個性的なミュージックビデオはFARMHOUSEの脳内を覗いているような感覚になる。
 この映像を作ったNEO YOSHIKAWAさんに最大限のリスペクトを送りたい。

 5曲目は「knock knock knock」。
 歌い出しで、ドアのノック音に音ハメしていて最高に聴き心地が良い。
 この曲の魅力は無音を巧みに使っていることだと思う。
 無音があることで、曲に緩急が生まれFARMHOUSEのテクニカルなラップのスキルが際立っているように感じる。

 個人的に「」という歌詞から、SUSHIBOYSの「ルーモス牧島」との関連も感じて、それぞれの曲の解釈が広がったような気がした。

 
 6曲目は「東京フラットシート」。
 この曲名を訊いたとき、なんて癖がスゴい曲名なんだと思った。
 その由来が今回の視聴会で明かされた。

 2年前なんやかんやあって、FARMHOUSEが家に帰れなくなってしまい、池袋にある神社の一角でホームレス生活を送っていたらしい。

 東京に来てもやることがなかったため、ひたすら疲れるまで歩き、歩いた先の漫画喫茶のフラットシートで休憩をしていたらしい。
 歩いていた時に見た景色や思ったことを書いて完成したのが     「東京フラットシート」。
 

 「まぁ多分ね、そういう気持ちのやついると思うんだよね、そん時(ホームレス時代)の俺と同じような、未来にあんま希望がないみたいな そんなこともないんだけどさ」 エピソードが終わり、「東京フラットシート」が始まる。 
 このエピソードを知ってから「東京フラットシート」を聴いたら自然と涙が溢れてきた。

「墓場の様に並んでるビルの横 汚い顔して寝そべるベンチの人は憂鬱そうにあの空を描いてる あいつも同じ 違いを探し 空を見てる様な気がしたあの日 ビルに隠れて見えてない未来 あるとするのなら探しにもう少しだけ歩こう もしダメでも 同じ景色見てるよりマシだろ このビルに背を向け 歩いてく今日 昨日より空が広い東京city」 

 この曲は等身大で歌っているように感じる。
 等身大で歌うからこそFARMHOUSEが記したリリックと歌声が心の奥底まで染み渡る(もちろんスキルフルな歌い方も大好き)。
 未来への希望を感じられるこの曲が大好きだ。
 この曲を聴いていると視界が開き、どこまでも歩いていけるような気持ちになれる。

 
 7曲目は「」。
 空には入道雲が浮かび、FARMHOUSEが空を見上げているシーンから始まる。
 「このキャンバスが白だった日は遠い」
 心のキャンバスが白だった日のことを思いながら、昔の思い出も振り返るリリックに涙腺が刺激される。
 「何気なく書いていた線は 意味を持ち始めた 重なり合い巡り絡まり合い気づけば絵になったんだ」
 意味がないと思っていた行動や出来事も、時間が経つと絵になっていた。
 時には休んだりもするけど、筆を止めることは誰にもできない。
 
 「二度書きできないLife」という歌詞から一気にラップスキルが炸裂して、音の世界へと誘ってくれる。FARMHOUSEの歌声とトラックが繋がって音の宇宙空間に踏み込んだような、そんな感覚になった。

 めちゃくちゃ気持ち悪いかもしれないが、この部分を(もっと!もっと!)と心の中で、もっと音の世界に連れていってほしいと思いながらFARMHOUSEの歌声に身を委ねながら聴いていた。
 「Paddle」の中で「東京フラットシート」と「絵」が1番好きだと感じた。

 
 そしていよいよ最後の曲「朝が来るまで」が始まった。
 以前、SUSHIBOYSはFARMHOUSE、Evidence(エビデンス)、SANTENA(サンテナ)の3MCとして活動していた。

 しかしある日、Evidenceが自身の音楽活動に専念するため脱退した。
 「Paddle」を締めくくる「朝が来るまで」という曲はFARMHOUSE(兄)とEvidence(弟)がコラボした楽曲となっている。
 「こっちは元気です。俺も自分の音楽をいっぱい作っていくぜ」と語るEvidenceを見ていると再び泣きそうになった。

 視聴会の一曲目の「RAP RAP RAP」に「SUSHIBOYSは元気です」という歌詞があった。
 「朝が来るまで」のミュージックビデオに、FARMHOUSEとSANTENA、Evidence、が地面に座りながら楽しそうに笑い合っているシーンがあって、最初の曲と最後の曲に勝手に繋がりを感じてうるっときた。

 「何も見えない日があっていい 俺は俺の足跡で生きる」
 「何かを変えたきゃ自分から動く 心が動いた分の歌詞を書く マイクの前立ち口が動く 心の動きが世界を動かす」
 「終わりたくないこともいずれ終わるけど新しいことでも始めてみるか」

 今は別々の道を歩んでいるけど、3人が元気にしている姿を見ることができてとても嬉しかった。 

 ラスト三曲「東京フラットシート」→「絵」→「朝が来るまで」の流れが完璧すぎて、感動でしばらく動けず画面を見つめていた。
 FARMHOUSEが作った最高の映像集を本人と同じ時間を共有して見ることができてとても幸せな時間だった。
 
 この「Paddle」は聴く人に希望を与えてくれる。
 どんな荒波でも水を捉え未来への推進力となってくれるだろう。

 

 👩‍🌾あとがき👩‍🌾
 視聴会の「Paddle」は曲と映像のどちらからも元気がもらえる最高の作品です。
 アルバムは視聴会とは違った曲順や既出曲も入っているので、新たな楽しみ方ができます。
 気になった方はぜひ各配信サイトでチェックしてみてください。
 最後まで読んでいただき本当にありがとうございます! 


読んでいただきありがとうございました。