夢の12

 サンタクロースの正体を知ったのはいつだったろう。その時のわたしは嫌に冷静にそれを受け入れた気がする。それ以来、枕元のプレゼントに一喜一憂することは無くなった。

 今年のクリスマスイブは、2人とも仕事だった。何もこんな日に出勤させなくても。恨み言を言いながらなんとか片付けて部屋に帰ると同棲中の彼がすでに晩ごはんを作っていた。

「あ、おかえりなさい」
今日のメニューは?
「唐揚げでーす」
うわ!チキンじゃん!
「まあ…一応そう。デカいの買っても食べきれんでしょ。」
えー、デカいヤツの方が雰囲気出るよー。
「じゃああなたは唐揚げは食べなくてもいいです。」
ウソウソウソ!ごめんなさい!

 ついこのあいだ慌てて出したこたつに入りながら唐揚げをつつく。テレビではクリスマス特番が流れている。どうせ明日からは年末特番に切り替わるのにどうしてこんなに浮かれられるのか。かろうじて鶏肉を食うくらいのクリスマス度合いの我々には理解ができない。そんなことを話しながらぼーっと見ているとヒートテックのCMが目に止まった。

あー、コレあったかそう。
「あ、ヒートテック?」
うん。今日ほんとに寒くてさぁ。
「ああ、そうね」
あーあ、サンタさんが持ってきてくんないかなぁ
「え」
え、何?
「あ、いやもっと良いもの貰いなさいよ」
いやあ、でも今一番欲しいのヒートテックだわ
「本当に?」
うん。むしろヒートテック以外もらってもイマイチまであるかも
「あー、そうかぁ…」

「いやいや…」

 お風呂に入って、寝室へ。ちょっとイイ雰囲気に…ということはなく。むしろ、
「早く寝なさい」
えー、なんでよ。明日は休みだもん
「早く寝ないとサンタさん来ないよ」
もう早く寝ても来ないじゃん
「はいはい、とにかくおやすみ!」

もっとアレコレしたいんですけど!しかし身体は正直で、やはり疲れていたのだろう、わたしはすぐに眠ってしまった。

 翌朝。目が覚めると彼はもうベッドにはいなかった。起きようと伸びをすると、片手の先に何か当たった。ん?と思い目をやると、

「おはよう」
お、おはよう。っていうか何コレ!
「あ!早く寝たからサンタさんが来てくれたんだなぁ」
いやいやいや、ていうか箱デカいし!
「デカいね。腰くらいまであるね。」
え、開けるよ?
「いいですよ」
何コレ…え、何コレ!クマちゃんだ!

そこにあったのは、人の子供くらいの大きさのテディベアだった。とても柔らかくてフワフワの毛並み。ぎゅっと抱いてみると、なんとも安心する。しばらくそうしていると彼がゆっくりと口を開いた。

「…ヒートテックじゃなくて残念でしたね」
…バカっ!

 わたしは彼をぎゅっと抱きしめた。あの時知ったつもりになったサンタクロースの正体は嘘だったらしい。本物のサンタクロースは、目の前で照れくさそうに笑っていた。


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