見出し画像

Lビザで渡米から2.5年でグリーンカード取得に至ったメモ

2013年にアメリカ企業の東京オフィスに転職して、2019年にアメリカのオフィスに異動、そして2021年にグリーンカードを取得したので、その経緯をまとめてみます。

自分の職種はソフトウェア開発のエンジニアリング・マネージャーで、某テック企業の検索システムを開発するチームで仕事をしています。簡単な自己紹介はこちらの記事を見てもらうとして、もともと海外暮らしが長かったこともあって日本国外に生活環境を移したかったのと、会社での仕事のやりやすさを考えて、4,5年ほど東京のオフィスで働いた後でアメリカのオフィスに移りたいとボスにリクエスト。社内のリロケーション制度を利用してL-1Aビザを取得して渡米しました。

ずっとアメリカに住むかどうかは別として、アメリカで暮らすにあたって労働ビザに縛られ続けるのはリスクだと感じていたので、渡米して早々にグリーンカード取得のリクエストを提出。会社がサポートしてくれる体制が整っているので、移民弁護士事務所とやりとりを続けて書類を準備したりしてグリーンカード取得に向けて動き出しました。取得までに至る時間軸は以下の通り。

1/10/19 渡米
3/6/19 会社でGC取得プロセスをリクエスト
11/27/19 I-140を提出
4/28/20 I-140 RFE
6/12/20 I-140 RFEを提出
7/30/20 I-140 Approval
1/28/21 I-485を提出
3/1/21 I-485のReceipt発行
6/4/21 Biometrics
8/24/21 I-485 RFIE (I-693を要求)
9/1/21 I-693を提出
9/8/21 "New Card Is Being Produced"
9/16/21 グリーンカード到着

EB-1での申請

最初の関門になったのはEB-1かEB-2かの選択肢と書類の作成。雇用主がスポンサーするグリーンカード申請にはいくつかのカテゴリーが存在しますが、多国籍企業のマネージャーをしていると手続きを最も有利に進められるEB-1カテゴリーでの申請が可能になります。

雇用主からのスポンサーを受けて申請する場合、EB-2やEB-3では「同等の仕事ができる人をアメリカで探しましたたけど見つかりませんでした」という証明を行うPERMという手続き(半年くらいかかる)を追加で行う必要があります。また、グリーンカード取得の最終ステップでは、国ごとに設けられている移民の人数制限によって移民局が申請の処理を開始する日付が決まってきます。例えばEB-2で申請中のインド出身者の場合、10年以上前に提出した書類がようやく処理される…みたいな状況で、EB-1だと待ち時間が劇的に短く済みます (最新情報はこちら)。

どっこい、EB-1カテゴリーは有利な特性があるため、マネージャー業務をしていないにも関わらずL-1Aで渡米してEB-1でグリーンカード申請…という抜け道を利用しようとする人が跡を絶たず、書類の審査がやたらと厳しくなっているという現実もあります。移民弁護士がEB-2で進めようとしたので「PERMいらないし有利だからEB-1で頼む」とお願いして申請を進めましたが、書類の準備が大変になった上にRequest For Evidenceが来て追加書類が必要になって…と、なかなか大変でした。

アメリカに引っ越しして、仕事を始めて、家族との生活を落ち着かせて、とドタバタしていたこともあって最初のステップのI-140(移民審査)の書類をまとめるのは半年くらいかかりました。移民弁護士からの質問に答えて、現マネージャーや昔のマネージャーと協業しながらサポートレターをまとめて、必要な書類を集めて、移民弁護士から指摘を受けた箇所を提出・補強して、という地道な作業ですが、ここでもう少し気合いを入れてやっていたら手続き開始からI-140の提出までを2-3ヶ月に短縮できていたのかなとも思います。

I-140のRFEの準備

RFE=Request For Evidenceとは、要するに「証拠を出せ」という移民局からの追加の資料要求です。EB-1での手続きだったのでRFEが来る可能性はそこそこあるだろうとは覚悟していましたが、ちょうど某大統領が移民を制限する政策をあれこれ打ち出す動きがある中で、RFEが出る確率も上がっていたようなので運/タイミングも悪かったかもしれません。

RFE Responseを作成するにあたっては、既存のSupport Letterに情報を追記すると同時に新たな証拠資料を提出してして申請が正当であることを証明する必要があります。自分のI-140に関して言えば、日本とアメリカでのマネージメント経験が焦点だったので、それを証明できる資料を移民弁護士と相談してまとめた上で、現・旧マネージャーにもお願いしてサポートレターを補強しました。そこそこ急いでやったつもりですが、あれこれやり取りが必要になって提出までに2ヶ月くらいかかってしまったようです。

I-140のRFE提出後は割とすぐに承認が出ました。RFEが出ている間は処理が中断される分、レスポンスが提出された暁には早々に資料を確認してもらえる段取りになっている印象です。

I-485の提出のタイミング

I-485 (Adjustment Of Status)とは、在米外国人が滞在ステータスを「永住者」に変更する手続きで、実質的なグリーンカード発行がここに含まれます。ビザの種類によってはI-140と同じタイミングで出すこともできるようですが、自分の場合は移民弁護士事務所の判断でI-140が承認されてからI-485を出しました。

I-485の提出が大幅に遅れてしまったのは、2020年の夏から冬にかけて日本に行く都合があったことと(長男のパスポート更新を伴う一時帰国)、提出する書類のフォーマットが変更になったこと、とかいった理由だと思います。AOSの申請中、特に最初期はその次のステップであるbiometrics (写真撮影と指紋採取)を受ける必要があるため、数ヶ月単位でアメリカを離れるのが難しくなります。特定のビザだとAOSの提出に伴ってビザが無効化されてアメリカへの入国ができなくなる制限もあるようなので、AOSに進むタイミングには注意が必要となるようです。

I-485の提出の際には、過去の居住履歴や経済的にやっていけるかの確認資料(銀行口座の残高とか)、それに過去数ヶ月の給与支払いなどなど、膨大な量の書類を準備する必要があり、さらにサインする紙の量もめちゃくちゃ多いので、一気にやっつけようとするとめげそうになります。

2020年の3月に1回やろうとしたもののタイミングがあわず、夏から冬までの帰国を経て、2020年の年末から書類の準備を再開して2021年の3月頭にようやく提出が完了しました。担当してくれた移民弁護士事務所の人も大変だったと思います。AOS申請中の再入国をリクエストするI-131(advance parole=AP)と、労働許可(EAD)を求める I-765も一緒に提出しました。

カオスなbiometrics

I-485を提出すると、その次のステップがグリーンカード取得に向けたbiometrics (写真撮影と指紋採取)です。I-485を提出して1,2ヶ月後に移民局から唐突に「6/4にbiometricsのappointmentを入れたからここに行け」と連絡が来ました。このappointmentは簡単には変えられないので、確実にスケジュールを確保して臨む必要があります。

なお、申請を提出すると、書類の内容が簡単にチェックされて移民局が申請を受け付けましたよ、という「レシートID」が発行されます。I-485に関わらず、何かしらの手続きにはレシートIDが発行されますが、I-485の場合は半年から複数年に渡る申請になるため、レシートIDをしっかり保存して申請ステータスをチェックできるようにしておくとよいです。

我が家の場合、アメリカ生まれの次男は永住権の申請の対象ではなかったですが、家族4人でbiometricsに行ったらなかなか大変でした。移民局のフィールドオフィスは小さなショッピングモールの片隅にある普通のオフィスで、予約の時間よりちょっと早めに行ったら外に人が並んで待っています。受け取った書類とパスポートを準備していると、受付担当者が書類を確認してオフィスの中で待つように言われます。1歳半の次男は静かにしていることができず、静かなオフィスの中で多いに騒ぎまくり、いつ放り出されるか冷や汗をかきました。

順番が来ると、一人ひとりがブースに入って本人確認をして、写真を撮ってから指紋採取が行われます。この指紋がアメリカ国内の指紋情報と照合されて、犯罪歴がないことなどがチェックされるようです。また、撮影された写真は10年有効なグリーンカードに使われるので、気にする人はよい写真になるように注意したほうが良いかもしれません。Biometricsが無事に終わると、I-485の申請ステータスは"Finger print was taken"に変わります。

I-693の健康診断

Biometricsが終わって2ヶ月ほどしてI-485の申請ステータスがRequest For Initial Evidence (RFIE)に変わりました。I-485の申請においてRFIEをもらう可能性があるのは、I-693 (Immigration Medical Exam=健康診断)の提出要請か、出生証明に不備がある場合のみであると聞いていたので、これはI-693がくるぞとすぐに近所のメディカルオフィスで健康診断の予約を入れました。最寄りのI-693に対応したドクターは移民局のウェブサイトから探すことができます。I-693をやってくれるドクターを探して予約を入れて、ステータスがRFIEに変わった翌日にオフィスを訪問しました。

自分が予約を入れたドクターは、オフィスの雰囲気から察するにImmigration Medical Examをメインでやってる様子で、必要に応じて予防接種を打ち、検査は外部機関に発注して結果を受け取ってからI-693を埋める…というビジネスモデル。紹介された検査機関を訪問して血液検査と尿検査を行い、検査結果が出たら3日くらいでI-694ができると言われましたが、結果的に書類の完成までに5営業日くらいかかりました。

我々夫婦はダメ元で母子手帳を持っていきましたが、対象となる予防接種のワクチンは最後に打ってから10年経っていると打ち直しになるとのこと。子供の予防接種証明(Vaccination Record)はきちんとカウントしてもらえて、予防接種が必要な大人は$380/person、子供は$250/personかかりました。保険は使えないのは知ってましたが、現金/キャッシュ払いという謎仕様なのはちょっと不便でした。

「書類ができたら連絡する」と聞いていたので最初はおとなしく待っていましたが、予定を過ぎても連絡がないので「どうなってんじゃ〜」とこちらから連絡すると「オフィスに来い」というので訪問すると、書類が未完成。こちらからも必要な情報を出しながら2時間くらいかけて書類を完成してI-693を入手。これを移民局に送り返してRFIEを突破しました。

"New Card Is Being Produced"

グリーンカード申請では最後の最後にインタビューがあって、I-693が未提出の場合はインタビューに他の書類と一緒に持っていく…というのが通常プロトコルだったようですが、パンデミックになってからはEmployment Basedのグリーンカード申請でインタビューが免除されることが多くなっているようです。

なので、I-693の提出が求められたタイミングでインタビューが免除されるっぽいことは分かっていて、I-693を移民局に出して問題なければ1ヶ月以内くらいにグリーンカードが発行される…というざっくりとしたタイムラインも予想することができました。そして、その日は意外にも早く、I-693を提出した7日後にやってきました。どういう訳か分かりませんが、USCISの申請ステータスでは、"Your case is approved"になる前に"New Card Is Being Produced"となって、それから"Your case is approved"になって、そこからさらに数日すると「カードを送ったよ」というステータスに変わるようです。

法律上のステータスとしては、グリーンカードが手元になくてもAOSの申請が承認されたタイミングで「合法的な永住者(Lawful Permanent Resident)」になるようですが、気持ち的にはグリーンカードをもらうまでがグリーンカード申請。9/16に無事にカードがUSPS経由で配達されて、2.5年間に渡るグリーンカード取得の旅が終わりました。

まとめ

生まれ育った国を離れて違う国で暮らすことはリスクを伴った挑戦であり、新たな機会を得るチャンスでもあります。ほぼ確実に元いた国に戻ることが分かっているのであれば労働ビザによる滞在でもよいとは思いますが、移り住んだ国に住み続ける選択肢を得るという意味で、永住権やそれに準ずる資格を得ることにはとてつもなく大きな意義があります。

実を言えば、自分は2013年に日本国外に出てみようと思い立ってオーストラリアの永住権を取得した経験があります。実際に訪問してみて「自分たちにとって今は動くべき時ではない」と判断して日本国内で外資系企業に転職。社内異動を利用して、動きたければ動ける状態にしておいて、仕事の面でも意義のある状態で2019年にアメリカに引っ越した…という経緯があります。

オーストラリアの永住権を取得したいきさつや、(当時の)詳細なステップについては↑のKindle本にまとまっていますが、今回アメリカでの永住権を取得してみて、いわゆる移民国家における移民政策やその実態についてあれこれ思うところは多かったので、それについてはまた改めて記事にまとめられたらと考えています。

今回の永住権の取得では、いくつかの記事・サイトを参考にさせてもらいました。移民弁護士に質問しても反応が遅かったり、彼らの都合優先で動いてるところもあったりするので、移民局の公式情報で正確な情報を掴んだ上で、ネット上での情報収集をすることで全体的なタイムラインや次に何が起きるかといったことが予想しやすくなるかもしれません。例えば、パンデミック中のグリーンカード取得体験記や、Redditの掲示板("I-485"で検索するとあれこれ出てくる)などは、自分も参考にしました。この記事がアメリカに暮らしたいと思う人の参考になれば幸いです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?