大杉らの虐殺は、個人の犯罪なのか、軍の組織犯罪なのか?

 10月23日の朝日新聞デジタル静岡版に、「関東大震災100年 「宇佐美の奇跡」後世へ 卒業生が本を寄贈」という記事が出ていますが、今日触れたいのはそちらではなく、この記事の一番最後に出ている9月16日に行われた大杉栄のおいである歴史研究者大杉豊氏の講演会での発言についでです。

 大杉豊氏は講演会で、「大杉らの虐殺は「甘粕ら個人が殺したのか、組織犯罪なのか、歴史研究者の間でも共通認識になっていない」、「個人の犯罪なのか、軍の組織犯罪なのか。少なくとも、研究者の間では共通認識にならないといけない」」と述べられたということなのですが、指摘されている通り、高校の日本史教科書の記述には、「甘粕事件」として憲兵大尉の甘粕正彦が主導したとする教科書と、首謀者が憲兵隊や軍隊とする教科書があるわけで、執筆者、つまり研究者によって認識が違うので、教科書の記述が違っているわけです。
 個人的には、確かに一般的には「甘粕事件」と称されていますが、あのいい方はその場にいた人物のなかで甘粕が一番階級が上であった(憲兵大尉)ことからそう呼んでいるだけであって、大杉らを連行する際の様子や、軍法会議の内容、その後の甘粕の処分の軽さなどから、その実態は組織犯罪だと思っているのですが、これがはっきりしていないことの根本は、同じ関東大震災の時に起きた朝鮮人らの虐殺について、政府が公式に認めないという態度につながるものだと思います。

 100年経っているのですから、本来ははっきりしていてしかるべきことが、不明確などころか、逆に修正するような動きも見えるのは、問題であるどころか、それ自体が犯罪なのではないでしょうか。もちろん過去のすべてが明確になるなどということはあり得ませんが、時代時代の重要な出来事をはっきりさせることで初めて、我々は過去を教訓として活かすことができるのではないでしょうか。それができなければ、未来への希望を描くことは難しいのではないかと思わずにはいられません。そのような意味で、大杉豊氏の指摘は、非常に重要なものだと思ったわけです。


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