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華金 Vol.53 11th ANNIVERSARY イベントレポート 12.06

 夏〜秋に移り変わる頃から関西ではイベントが現場に戻りつつあった。今年5月から配信に切り替わった華金も、会場をオンラインから通常の現場であるstompに戻して11周年を満を辞して祝うはずであった。しかし、前日に事態は急変した。世間では第3波が迫っていて、いつかの緊急事態宣言を越す世情の余波から逃れる事はできなかった。日程変更により、Draw4やTERU、KBDやWe La Worksなど本来出番のあったメンバーの変更も余儀なくされた。それでも中止を選ばなかったこのイベントに賛辞を送りたい。5月から積み重ねたからこそ急な事態でもすぐ切り替えられたのだ。
会場は馴染みの場所となったyellow base。華金の11周年の宴が始まる。

エンジニアであるCosaquのすべらない話から始まり、トップバッターはDJ SPI-K。今年、11月にMIX CD「MARZEL」をリリースしたDJ SPI-K。昨年から始まったツアーや配信での全員集合イベントを経て、梅田サイファーのバックDJとして確実に定着した。
リリースした「MARZEL」でも伝わるSPI-Kの人間味やアイデンティティを大いに感じることの出来るDJプレイで記念すべきパーティの幕開けを告げた。「MARZEL」に収録されている”未來と現実 feat.ふぁんく,peko,tella”は普遍的なメッセージがアーティストとしての輪郭を映し出していて、今の彼らの活動を見ていく上で欠かせない一曲となっているので要チェックだ。


2番手はillr。数々の賞レースのファイナリストや優勝の経験を持ち、トラックメイカー・ラッパーとしての確かな実力を備えるillr。音楽活動の他にも、JR千里丘駅前にあるカフェ「KOMOLEBI」のオーナーも務めている。
卓越したスキルでMPCから刻まれたビートを軸に、自身のラップやメロディでイベントを彩っていく。先日、Burning36°CのYouTubeにその幻想的な世界感を模したライブ映像が公開された”深海(Blue in memories remix)”も披露された。

3番手はK'z one。今年は4月に自身の所属クルーであるFreak's'から「THE FREAK’S’HOW」をリリースしたK’z one。本日は本来出番のあったKyonsの代役での登場。過去の華金にもソロとして度々出番のあった彼。そのspitで全てのしがらみを切り裂いていく。Freak's'から”UZA”やDJ SPI-Kの「MARZEL」にも収録されている、”空の飛べない僕たちは”などでクルーの一員として、何よりソロとして個の強さを見せつける。リリースの告知も交えながらピースフルに締めくくった。次作が非常に楽しみである。


4番手はミステリオ。今年は自身の所属クルーであるFreak's'から「THE FREAK'S'HOW」、ソロとして「TERIO FRIENDS」をリリースしたミステリオ。昨年リリースされた自身初のフルアルバム「ライフイズギャグ」から”ドラマティックベイベー””また会える”を披露した。
MCバトルでのイメージが先行しがちな彼だが、そのイメージであるユーモア全開な楽曲から繊細な自身の内側を表現する幅もとても魅力的である。ミステリオ唯一無二の個性でもある、リスナーの普遍的な感情を揺さぶる哀愁や明るさで中盤に差し掛かるイベントを確かに盛り上げた。


5番手はKZ。今年は9月に自身4枚目となるアルバム「GA-EN」、EP「I gotta」をリリースした。そしてコロナ禍にも関わらず、姫路〜梅田歩道橋間の100km徒歩や自身初のワンマンライブを行った。
今回のイベント延期、会場から配信への変更を余儀なくされた経緯を、オーガナイザー、アーティストとしてあらゆる感情を滲ませながら語るKZ。
”Breathless",”Phantom Thread","Liful is…”など自身の中でも人間賛歌として響く曲が並ぶ。2020年の最後の最後まであるゆる逆境やネガティブに反抗し続ける姿勢をリスナーに見せ続けたKZ。絶望の渦中にこそ優しく輝くアーティストを私はこれからも信用していたい。今日も今日とて、"norito"が世界に鳴り響く。
最後に、2021年2月21日に渋谷WWWにて今年あえなく配信で行われた「すくわれろ」というワンマンライブの振り替え公演が行われる事が発表された。"俺らまた笑ってる"で締めくくられたライブにはこれからの確かな道標が沿えられた。

6番手はtella。今年はソロとして1月に「藻愛」、We La Worksとして「RESIC」、Japidiotとして「SPACE INVADER」をリリースしている。本来ならWe La Worksでの出番であったtellaだが、あえなくソロでの出演。
ライブが出来る事への感謝を胸に、tellaの魅力の一つでもある"Jah"などグルーブが強い楽曲が並ぶ。今年ライブでは何度も披露されている新曲をまとめた次作がもうすぐリリースされる告知も入り、ますますオーディエンスを踊らせていく。Sapiens JBeatsの心地良いトラックに、tellaの浮遊感あるフロウと情景を思い浮かべさせるリリックが染みていく。家族への想いを綴った"I'm Sorry"で締められた。

7番手はDJ Ken。今年は8月にHRKT・Scooby Jとのアルバム「Mr.Doggy Style」をリリースしている。
Schooby Jの信念を込めたリリックにオリジナルなフロウ、DJ Kenのオールドスクールに鈍く光るサンプリングトラック。正にいぶし銀が2つ重なったように、いなたくヘッズの首を振らしていく。

8番手は黒衣。今年は黒衣として久々のアルバム「RISE OF」をリリースしている。peko、KENTのアダルトにキャッチーにオーディエンスを揺らす様は華金では近年の見慣れた風景となっている。
"INTRO","THE SHOW","HOW WE DO"など新譜の曲から始まり、終盤をクールに盛り上げていく。風通しの良い"SPECIAL"では、普遍的なメッセージがこの現状にも輝いていた。MCでは過去の華金を振り返り、徐々に落ち着いた時間になり、"MAGIC HOUR"。配信でもCDでもサブスクでも、勿論現場でも、聴けばどこでもその場所はフロアに様変わり。華金やこの界隈には欠かせないマスターピースとなった一枚が鳴り響く。

9番手はKenny Does。今年は自身初のアルバム「セレブレイション」をリリースしている。そのリリースライブが1月に行われた名古屋での華金の頃には、今の現状が考えられなかったのを昨日の様に覚えている。
"Elevator","急いでる","気持ち"などKenny Doesらしい高速のspitを繰り広げ、"Dance Shit","夜は待ってる"で鮮やかにオーディエンスを踊らせていく。この幅が「セレブレイション」のオリジナルな魅力とも言える。制作中のアルバムから未発表の新曲も披露され、今後の活動の期待が伺える。"セレブレイション”で日常を祝うKennyDoesは、今日のようなパーティーでより輝きが増す。

ライブショーケースのトリは神門。今年は10月に自身10枚目の「歳月」,そしてその発売から一ヶ月後に「年月」をリリースしている。今作もこれまでの数々の作品と同様に、自身の内面の深い部分や神門から見える社会や日常の風景を切り取った曲が並ぶ。以前と違う特有な部分は、家族が1人増えた所だろう。
"1月8日"など今作を表現する上で欠かせない曲から始まる60分。MCでは、自身のライブを見る上での案内として配信ライブの些細な綻びすら神門らしい人間味のあるポジティブで温かいものに昇華していく。"詩とレンズと箱","季節","紅しょうが"。リスナーは神門の視点を擬似体験して、滲ませたその感情を全身で受け止める。そこに物理的な境はあれど、世界観に引き込まれたオーディエンスの感情は現場とさほど変わりなかったはずである。我が子の生や親しい人の死が普遍的な風景と繋がるその瞬間は、誰もの今生きている時間と大切な誰かを大事にする感情が芽生えて再確認できるきっかけであると感じた。
2ヶ月で20曲ものリリースをこなした神門が、このリリースライブの為に未発表音源として披露された"2020"、コロナ禍で行われたライブの風景やメディアが見落とす様な細かな社会の景色を切り取った"涙”。ディストピアにも映る世情の中に溢れた人々の明るさや輝きを綴りポジティブに今と未来を照らした"ところで"。続々と我々の日々の輪郭が縁取られ、掬い上げられ救われる自身の行動や感情を気づけば私は手元で見つめていた。
2年前の華金でも披露されたという童話の新作を披露した後、"成長Ⅵ"。自身という存在、自身の活動含めあらゆる人々を肯定するその姿は確かにオーディエンスに希望を与えた事だろう。大袈裟でなく、明日を生きる希望だ。

クローズDJはDJ peko。華金はDJタイムがライブショーケースと同様、それ以上に盛り上がるイベントである。昨年アマチュア8耐を経て、その中心にいるpekoのDJは毎回がスペシャル。演者もオーディエンスも一体となって盛り上がるあの景色が待ち遠しい。

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