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クセの話

20151210 番外公演稽古 本番まであと15日

タイトルは「ピーターパン・シンドローム」
陰湿集団で初めて脚本・演出を僕以外の人が担当する。彼は団員でもないため、番外という扱いで、僕は今回演出助手、あるいは演技コーチという形で加わっている。(専門ではないのだが、音響もやることに)

演技コーチって仕事はまた面白くて、演出に関してあーだこーだ考えることなく、ただ役者を見続けることができる。

今日の稽古では、主人公大和田が、大人になれない女の子ミレイと茶番劇を繰り広げるシーン。

問題点
大和田役の俳優はここで悩んでいて、どうも、ミレイ役の女優と「なじめない」。
僕は彼らの演技を見ながら以下のように稽古を進めた。

1.大和田役の俳優に「ミレイを誘え」という指示
演劇でシーンを作るときに大事なのは会話だ。人間は日常で会話を使って生活している。この会話というのは、相手の言葉や動作を受け取り、自分の意思を伝えるという単純なもので、常に無意識に行われているため、そのメカニズムを舞台上で再現することが、意外に難しかったりする。
この指示を与えると、大和田の演技はよりミレイの返事や表情をよく「見る」ものになった。しかし、このシーンで彼はもっと自由奔放に動かなければならない。ともすればミレイがついていけないと思えるほどに。

2.「ミレイを見なくていい」という指示
我々は会話をする時に、無意識に相手のリアクションを「見ている」が、それは目で見るということではなく、時に耳でその声や呼吸を聞き、肌で振動を受けとるものでもあると思う。そしてそれは、仲がよければテキトーに済まされていく。
大和田という人物は自由奔放であり、やや自分勝手な一面もある。元俳優のアラサーという、いいおっさん、なのだが、ピーターパンの演技にとりつかれ子どものミレイや、病院の大人や老人にイタズラを仕掛ける様は子どものようだ。
この指示で彼の演技は目ではミレイを見ないものになったが、むしろ空気を読み、ギャグシーンで観客のリアクションを待つような痛いものになった。この彼の「間」はどこから生まれてくるのか。

3.ミレイを舞台から降ろして一人語りに
大和田役一人を舞台上に置くことで、対象を曖昧化して彼の演技がどう変わるかを観たかった。すると彼は、ミレイがいたときとほとんど同じ演技を始めたので、僕は彼に「今何見てるの?」と聞いた。「ミレイを」と彼は言ったので「今ミレイはいないでしょ」と返すと、なるほどといった反応。そこで次の指示を与えた。

4.「部屋で台詞を返すように喋ってくれ」
なるべく演技をしていない状態にまで持ってきた。彼が俳優として何を持っているかを見るためだ。かれは稽古場のあちこちを見ながらぐるぐると歩き回って台詞を返し始めた。彼のその「間」は、彼の息継ぎから生まれるクセで、彼はそれを自分では気付いていなかった。

5.息継ぎ(ブレス)のクセを指摘
ここまですれば、彼も自分のクセが分かる。そこで先程のシーンを、シーン通りにやってみると、独特の「間」は消え、ミレイと大和田の台詞は餅つきのようにテンポよく噛み合った。

今回はかなり回りくどいやり方で俳優のクセを指摘することで、人物間のコミュニケーションを阻害しているものを俳優自身に認識させた(演劇において、無意識を意識することはとても重要だ)。クセは時に武器になるが、武器は自分がどんな武器を持っているかを知らなければ使うことができない。

演技コーチをしていく上で僕が今大切にしているのは、この舞台を完成させることではなく、俳優が演技を本質から捉え、この先の舞台でも活かしていくことができる技術を身に付けさせることだ(そしてこの力は僕自身の俳優、あるいは演出としての今後の仕事にも役立つはずである)。

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