「ポスティング選手」は古巣球団に復帰するべきなのか?

どうも、やまけんです。2023年も、何卒よろしくお願いいたします。

1月6日、福岡ソフトバンクホークスがテキサス・レンジャーズからフリーエージェント(FA)となった有原航平投手の獲得に動いていることが報じられました。有原投手は2020年オフにポスティング・システムを利用し、古巣の北海道日本ハムファイターズからメジャーリーグ挑戦を決意。レンジャーズと2年契約を結ぶも、今オフにFAとなっていました。

特に深い考えはないものの、かねてより「ポスティングで移籍した選手がポスティングを容認した古巣以外の球団に行くのはおかしくないか?」と思っていた自分が今回の報道を受けて以下のようなツイートをしたところ、予想外に多くの反応をいただいたので、今回は自分の考えを整理するためにもnoteにまとめたいと思います。

(何年やっていても、Twitterはいつ「バズるか」わかりませんね…)

大前提

1月6日18時現在の報道では正式に契約を締結する前段階ではありますが、今回、ソフトバンクや有原投手、MLB(レンジャーズ)側、古巣の日本ハムに何らかのルール違反があったわけではございません。現在のNPBにおいては、ポスティング・システムを利用した選手が古巣球団に復帰する義務はなく、国内他球団で復帰しても何のルール違反にも該当しません。実際に、有原投手以外にもポスティング・システムを利用した選手で古巣以外のNPB球団に復帰したケースは少なくありません。

そして、今回のタイトルにもなっている【「ポスティング選手」は古巣球団に復帰するべきなのか?】という問いに対して、本文に先立って【必ずしも古巣に復帰する必要はない】と結論を書かせていただきます。

冒頭のツイートはあくまでも自分自身の考えとしてのツイートであり、以下にまとめる内容も自分の考えに過ぎませんので、それらを大前提としてご了承ください。

ポスティング・システムとは?

ポスティング・システム(以下「ポスティング」)とは、現在、NPBからMLBに移籍する際の手段のひとつです。現在のNPBでは、選手が海外球団と自由に交渉できる「海外FA権」を取得するために一軍登録年数が9年を超える必要があります。ポスティングを利用することで、海外FA権取得を待たずして海外球団との交渉が可能となります。2022年オフには、オリックスバファローズの吉田正尚選手がポスティングを利用してボストン・レッドソックスと契約しました。

ポスティングを利用してMLB球団への移籍が決定した場合、当該選手が所属していたNPB球団側にはMLB球団側から譲渡金が支払われるシステムとなっています。上述の吉田選手の場合、レッドソックスからオリックスに1540万ドルの譲渡金が支払われる見込みであるとのことです。

一方で、ポスティングの利用には所属する球団の承認が必要となります。選手自身がMLBへの移籍を志望しても、所属球団の承認が得られなければ、海外FA権取得までMLB球団と交渉することはできません。

実際に、今オフにニューヨーク・メッツへの移籍が決まった千賀滉大投手は数年前から所属するソフトバンクに対してMLBへの移籍願望を伝えていたものの、球団側がポスティングの利用を認めなかったため、今オフの海外FA権行使までMLB移籍が叶いませんでした。

ポスティングのメリット・デメリット

海外(MLB)志向のある選手にとって、ポスティングは海外FA権取得に要する「9年」という長い年月を待つ必要がなくなるという大きなメリットがあります。
デメリットとしては、選手の権利ではなく球団の権利であるため、球団にポスティングを認められなければ海外FA権取得まで待たなければいけないという点が挙げられるでしょう。

一方で球団にとっては、FA権取得前の主力選手がチームを離れることによる「戦力低下」という大きなデメリットがあります。譲渡金が支払われることはメリットかもしれませんが、支払われる金額は選手の契約に左右されるため、必ずしも上述の吉田選手のケースのような大量の譲渡金を見込めるとは限りません。

球団のスタンスとしては「譲渡金で儲ける」というより、あくまでも「選手の夢を後押しする」という意味合いの方が強いのではないかと思います。

ちなみに今回報じられた有原投手の場合、日本ハムに支払われた譲渡金は124万ドル、2020年オフ当時のレートで約1億5000万円程度と言われています。

選手としての実力や価値に差があるため当然ながら一概に比較することはできないものの、過去に日本ハムからポスティングでMLBに移籍したダルビッシュ有投手の譲渡金が5170万ドル大谷翔平選手の譲渡金が2000万ドルであることを考えると、有原投手の譲渡金はお世辞にも「高額」とは言えません。
裏を返せば、日本ハムはやはり譲渡金を目当てにポスティングを認めたというわけではないと見ることができそうです。

選手にとって大きなメリットこそあれど、球団にとってはデメリットの方が大きいと言えるため、球団側がポスティングを容易に承認しない理由は十分にわかります。

「ポスティング容認≒自由契約」

最初に書いたように、現行のルールではポスティングを利用してMLB球団へ移籍した選手がNPBに復帰する際、必ずしも以前所属していた球団に復帰しなければならないというルールはありません。従って、MLB球団からFAとなった選手については、12球団平等に契約機会が与えられ、獲得の意思がある球団であれば自由にオファーを出すことが可能です。

そして、仮にNPBの他球団への移籍が決定した場合でも、元の所属球団には何らかの補償が入ることはありません。そのため現行の制度では、NPB球団はポスティングを容認した時点で当該選手を「自由契約」にすることを認めた形に近いと言えます。

自分は、ポスティングとFA権は全くの別物であると考えており、ポスティングによってMLB球団と契約した選手が、契約満了後に通常のFA権行使選手と同等に扱われている点に違和感を覚えました。

この「ポスティングを容認した選手が必ずしも自球団で国内復帰するとは限らない」という点は、ポスティングの承認判断を下す球団側にとってのデメリットに加えられるでしょう。

NPB他球団へ移籍する「流れ」がもたらすもの

現段階ではソフトバンクと有原投手との契約年数や年俸についての報道はありませんが、日本ハムとしてはFAとなった現在の有原投手の価値やそれに見合う契約条件を精査し、有原投手へのオファーを見送ったか、あるいはオファーしたもののソフトバンクに劣る条件だったのではないかと考えられそうです。

FA選手としては、オファーのあった球団、その中でもより条件の良い球団への移籍を決断することはまったくもっておかしいことではありません。また、この時点で何のルール違反でもないことは冒頭にも書きました。

しかしながら、ポスティングした選手の国内復帰時のルールについて定めておかないと、今後FA権取得前の選手がポスティング制度を利用し、海外球団との一時的な契約を経てNPB他球団へ移籍する「流れ」が定着してしまうのではないかと危惧しています。

この「流れ」についてルールが定められずに定着してしまうと、ポスティングが「抜け穴」的に利用されたり、戦力均衡の崩壊につながりかねないのではないかと自分は思います。

防止策を考える

1.古巣球団との再契約強制化

この流れを強制的に阻止するための策として、まず「古巣球団との再契約の強制化」が考えられます。文字通り、MLB球団からNPBに復帰する際には古巣球団と強制的に契約する、というシステムです。
選手にとっては、万が一MLB契約を更新できなかった場合でも古巣球団の契約が用意されているという、保険的な意味ではメリットがあるのではないかと思います。また実際に、韓国プロ野球におけるポスティングでは、古巣球団への復帰が強制化されているとのことです。

しかしながら、ポスティングを容認した古巣球団は当然ながら翌年以降のチーム編成を「当該選手抜き」で考えることとなります。強制復帰となると、その分の年俸や編成バランスが崩壊する恐れがあることや、当該選手が何年後に(何歳で)どのような状態で復帰するかが計算できないという点でリスクが大きく、NPBにおいては非現実的な策であると言えます。

2.優先交渉権の導入

次に考えたのが、当該選手が海外でFAとなった際、ポスティングを容認した古巣球団に優先交渉権を与えるというシステムです。

現行のルールでは、FAとなった選手に対してはいかなる球団も契約を提示することができますが、ポスティングを容認した古巣球団に優先的に当該選手と交渉できる権利を与えることで、不利益を抑えられるのではないかと考えます。
当該球団が必要とするのであれば好条件を提示することも可能ですし、チーム編成上マッチしないというのであれば優先交渉権を破棄してNPB他球団での復帰を容認することも可能となります。

デメリットとしては、優先交渉権を与えたからといって契約締結が保証されるわけではないという点でしょうか。ポスティングの認否は球団の権利とはいえ、選手側の権利まで考えるとやはり強制化は厳しいと言わざるを得ません。

3.国内他球団で復帰した場合の補償金の導入

FAとなった当該選手が国内他球団で復帰した場合、移籍先の球団から古巣球団へ補償金が支払われる仕組みです。国内他球団は「補償金を支払ってでも当該選手を獲得したいか」が契約オファーを提示する判断基準となるでしょう。

MLB側が置き去りにされ、ポスティングの際の譲渡金と二重収益になってしまう不自然さはあるものの、国内他球団からも補償金が得られるのであれば古巣球団としてはポスティングを承認しやすくなるのではないでしょうか。

4.FA権取得年数の短縮

ご存じの方もいらっしゃるかと思いますが、今まさに日本プロ野球選手会とNPB側で協議されている策です。

ポスティングという制度の元を辿ると、FA権取得までに必要な年数が長いという問題点が発端となり生まれた制度です。この年数を短縮することで、より多くの選手が、選手自身にとってベストなタイミングで、選手自身に与えられた権利を正当に行使してMLBへ挑戦することができます。

現行ルールでは、選手が海外FA権を行使した場合、NPB球団側に補償はありません。海外FAの場合に限らずFAの補償制度についても今まさに議論が行われており、この点は今後も注視したいポイントです。

まとめ:「.600」「.400」崩壊の懸念

今回の件で改めて自分自身の考えを整理した際、現行のポスティング・システムに自分が違和感を覚えたのは、途中でも書いたようにやはり「通常のFA選手と同じように扱われている」点でした。あくまでも球団の権利でMLBへの移籍を認められた選手が、自身の権利かのように他球団でNPBに復帰する点は、ルール上は認められてもやはり引っかかりました。そして、自身が「戦力均衡の崩壊に繋がりかねないのではないか」という点を危惧していることに気付きました。

昨シーズンのNPBにおいて、レギュラーシーズンで優勝した球団の勝率はセ・リーグのヤクルトで.576、パ・リーグのオリックスで.539でした。一方で、最下位の球団の勝率はセ・リーグの中日で.468、パ・リーグの日本ハムで.421でした。

これは、現在のNPBではどんなに強いチームでも6割以上の勝率を残すことは容易ではない、反対にどんなに弱いチームでも4割未満の勝率でシーズンを終えることはほとんどないということを示しているのではないかと思います。現在のNPBは戦力均衡状態が上手く保たれていると言い換えることもできそうです。

現在のNPBの醍醐味は、選手のプロフェッショナルなプレーの数々とともに、シーズン最終盤までどのチームが優勝するかわからないドラマ性に集約されているのではないかと思います。このドラマ性を構築している根幹こそ、戦力均衡状態であると言えます。

もちろん、レギュラーシーズン優勝を目指す球団がFA選手と契約することは正しい動きだと思います。年俸に見合う成績を残せないと判断した選手と契約を結ばないことも、球団経営上正しい動きだと思います。また「個人事業主」である選手のことを考えれば、より良いオファーを提示した球団に入団することも全くもって正しい動きだと思います。

ただし、選手の権利ばかりを認めて球団の権利を軽視してしまうと、現在の戦力均衡状態が崩壊してしまい、プロ野球が「つまらなく」なってしまう可能性を孕んでいると自分は思います。

現在の戦力均衡状態は各球団の努力によって支えられている状態です。どこまで選手の権利を、またどこまで球団の権利を認めるかの線引きは非常に難しい問題ですが、自分は今回の件で、NPBとして戦力均衡が仕組み化される施策を考え始めるフェーズに来たのではないかと感じました。

今後も今のNPBが持つドラマ性・エンタメ性を保ちつつ、12球団で、野球界全体として「面白く」なる方向に進んでいってほしいと思う一件でした。

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