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【甲子園出場】大阪桐蔭高のドラフト候補の現在地【松尾汐恩、前田悠伍】

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2022年3月31日発売の『別冊野球太郎2022春』に掲載された記事です。

☆Profile★
松尾汐恩(まつお・しおん)
捕手・178センチ76キロ・右投右打。2004年7月6日生まれ、京都府出身。中学時代は京田辺ボーイズに所属し、ボーイズ日本代表に選出。高1秋に捕手へコンバートし、秋の近畿大会からベンチ入り。2年春のセンバツ以降、実質的なレギュラーとなる。動けて、打てる捕手だ。

★Profile☆
前田悠伍(まえだ・ゆうご)
投手・180センチ77キロ・左投左打。2005年8月4日生まれ、滋賀県出身。小6の時にオリックスジュニアに選出され、湖北ボーイズ時には日本代表に選ばれるなど活躍。大阪桐蔭高に入学すると、1年秋からベンチ入りし、安定感ある投球でもっとも多い投球回を担った。

★ ☆ ★ ☆ ★ ☆
 一般人が想像を絶するプレッシャーの中で戦いながら、毎年のようにドラフト候補が育つ大阪桐蔭高。新入生にも超有望株が揃う噂もあるが、まずは上級生。特に評価が高い松尾汐恩と前田悠伍の持ち味(ストロングポイント)、今後の見どころなどをまとめた。
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反応と〝足〞に注目の松尾

この雑誌が書店に並ぶのは順調に日程が消化されていれば、センバツの決勝戦の翌日。果たしてその時、大阪桐蔭のチーム、選手たちへの評価がどうなっているのか。
 今年も能力の高い選手が揃う中、まず、秋のドラフト候補としてより注目を集めているのが松尾汐恩だ。中学時代は遊撃を守り、打撃ではノーステップで打っていた。それが高校入学後の1年秋、新チームとなったところでチーム事情により捕手へ転向。本人は「中学2年春の全国大会の試合途中、1度だけキャッチャーを守ったことがあって、その試合を西谷(浩一)先生が見ていたので、覚えていたのかも」とコンバート理由を語っていたが、この肩、この動き。西谷監督は「メンバーを見渡して迷いはなかった」。
 大阪桐蔭の歴代捕手を振り返っても、あまり浮かばない「動きで魅了する捕手」。NPBの捕手陣、特に高校時代の姿も思い浮かべると、小林誠司(巨人)や伊藤光(DeNA)らのラインに乗ってくるタイプか。この冬は体重増も1つの目標にしていたが、バランスの取れた体型で、とにかくその動きに目を奪われる。バント処理の飛び出しや、体で止めて横へ転がったような球に対する反応が抜群。瞬時の動きで走者のスタートをためらわせる抑止力がある。加えて安易に高く浮かず、低い軌道でひと伸びする送球。きれいな球筋でシュート回転も少ない。
 昨年のセンバツ以来、出場経験も積んできた。当初は、打撃の評価をどこまで上げられるか、とみていたが、秋はインパクトも強くなり、打球に迫力が増した。1年秋から左足を上げはじめて以降、徐々に構えは今の時代に珍しいクロスになっていった。
 昨夏の4番・花田旭(現東洋大)も2年秋の段階でクロスに構えており、理由を聞いたことがあった。外へ逃げる変化球に対応しようと考えるうち、クロスになっていった、と花田は話していたが、松尾はこうだ。
「インコースは元々、体の反応で返せる自信があったので、外をしっかり打てるようにと考えていたらクロスになっていました」
 打球方向もセンターから左が大半で外寄りの球も力強く引っ張り、飛ばしていくのが今のスタイル。
 ただ、秋の試合を見たときには、相手バッテリーが内を攻めてきたケースはほとんどなく、回転のいい140キロ超えのストレートや左腕からの生きのいいクロスの球筋で攻められた時にどうか。これらを本人の言葉通り、体の回転でさばいて返せるようなら、スカウトの評価もさらに一段上がるだろう。ここはセンバツでの見どころだ。また、先に挙げた花田は3年春にスクエア、夏にはオープンとスタンスが変わっていったが、松尾はどうか。その足元にも注目していきたい。

スタミナが見どころの前田

 来年のドラフトでは目玉となっているだろう前田悠伍は、まだこの春に2年生になったばかりの左腕。当たり前だが1年前に高校入学したばかりだ。しかし、すでに実に多くの勝てる要素を備えているのだから、大したものだ。
 まずは本人が、「スピードよりも……」とこだわり、磨いてきた良質のストレート。リラックスした始動、しっかりとした体重移動を経て、リリースでは左のヒジから先が走る。無理無駄のないフォームから投げ込まれる球筋で松尾のミットを叩きつける。昨秋時点で最速145キロを計測し、本人も「夏には150キロ」と記者たちに聞かれれば返しているが、こだわってきたのは球のキレであり、回転。質が高いストレートだからストライクゾーンでどんどん勝負できる。
 まず、この投球の軸があり、その上に制球も安定している。意識的にボールから入る以外は、常にストライク先行のイメージ。本人にその話を向けると「いつも1ボール2ストライクをイメージして投げています」。投手有利のカウントで勝負が進むから、当然打ち取る確率も上がる。ツーシーム、スライダー、チェンジアップ、どの変化球でも簡単にストライクが取れるから、ボールから入っても四球の不安は皆無。すぐにカウントを整えられることは大きな強みだ。
 ストライク先行の上、投球リズムもいい。そうなると野手は乗りやすく、好守や打線の援護も多くなる。他にも、回の先頭を出さない、勝負所でギアを上げる切り替え、安定したフィールディング……。近畿大会で一発を放ったように、時には自らを助ける打力もあり、勝利を呼び込む要素がズラリ。
 秋の近畿大会は17回を投げ自責点ゼロ。神宮大会もチームを初の神宮王者に導く力投。秋の結果を踏まえ、冬は2つの課題を持って取り組んだ。1つは日程が詰まった神宮大会の後半、疲れが抜けず、本来の球を投げられなかった経験から体力面の強化。もう1つはストレートのさらなる向上だ。
 センバツの大阪桐蔭の初戦は6日目。仮に決勝まで勝ち上れば、後半8日で5試合を戦うことになる。その中で2年生になったばかりの〝実質エース〞がどんな球を投げ続けるのか。「究極は相手が狙っても打てない球を投げたい」とキッパリ。センバツ以降も注目し続けていきたいポイントだ。

続く人材も魅力溢れる

 2人以外にも楽しみを秘める選手が今年も揃いに揃う大阪桐蔭。将来打撃職人として生きていける可能性まで感じる丸山一喜。足、肩、パワーと素材は一級品の海老根優大。「これから」の面の比重は大きいが、冬を越えての成長を感じる別所孝亮、川原嗣貴。センバツが終わり、これらの選手たちの評価はどうなっているのか? さらなる新星が話題となっているのか? 大いに気になるところだ。

文=谷上史朗