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肝性浮腫・腹水の機序と治療薬


以前、心不全による下腿浮腫について説明しました。

https://note.com/yakuyakutyanpon/n/n2efe74acb505

https://note.com/yakuyakutyanpon/n/n9ac8a5ab9236


一方の肝不全患者における浮腫・腹水では、心不全で起こる下腿浮腫と似た機序・異なった機序が混在しており、改善のための治療薬の選択の考え方が少し変わってきます。

今回はそんな肝性浮腫と腹水の発現機序とその治療方針について説明していきます。


低アルブミン血症ルート


肝不全における低アルブミン血症は有名ですね。
肝機能の低下によってタンパク合成能が低下して血漿蛋白濃度が下がります。
それによって血管内の血漿浸透圧が低下することで、血管外に水分が移動して浮腫の原因となります。

循環血液量減少ルート

一方、循環血液量の減少による機序の浮腫もあります。
この要因は主に2つ挙げられ、門脈圧亢進と血管拡張因子の増加によるものがあります。

まずは門脈圧亢進についてです。
主に肝硬変等の肝臓が繊維化した状態に多いですが、それによって門脈圧の亢進が起こります。
これによって腸管から肝臓に向かう門脈血流が滞り、水分が漏れ出てしまうことにより腹腔内に腹水として溜まります。

循環血液量が減少→腎臓への血流減少→RAAS系の亢進→水・Na貯留が亢進→浮腫
の流れが起きます。
これは心不全によるRAAS系の亢進と似たような機序ですね。

また、肝硬変等ではエンドトキシンなどの血管拡張因子が増加します。
この因子の増加により、末梢の血管が拡張して各臓器へ血流を届ける主な動脈内での循環血液量が減少するため、上記のようなRAAS系の亢進を促します。

これらの低アルブミン血症による血漿浸透圧低下による浮腫と、循環血液量とそれに伴うRAAS系の亢進による浮腫(+門脈圧亢進における腹腔内への水分漏出)が複雑に絡み合って肝性浮腫・腹水を形成しています。


肝性浮腫に対する第一選択はスピロノラクトンかフロセミドか?


低アルブミン血症においては、タンパク合成が不十分になっているため、
血液検査にてAlb低値になっている場合には、分岐鎖アミノ酸製剤の投与を行います。

一方、循環血漿量の低下に伴う浮腫においては利尿薬が有効だろうと考えられますね。

心不全急性期〜においてはフロセミドが第一選択とされていましたが、肝性浮腫に対してはスピロノラクトンが第一選択となります。


まず第一に、スピロノラクトンの方がフロセミドよりも予後改善に対する成績が良いことが過去の研究よりわかっています。

心不全では、心機能の低下によるうっ血が急激に起こるため、即効性のあるフロセミドが急性期治療において有効となってきます。
一方の肝性浮腫においては、急激な循環血液量の減少というのは起こりにくく、RAAS系の亢進がメインの原因となっているので、スピロノラクトンが効果を発揮しやすいとされています。

心不全では大元の血液ポンプである心臓がコントロール不全となるので急な血液循環の変動に対応できるようなフロセミドが、
肝性浮腫では長期的にみて原因の大半を占めているRAAS系の亢進を抑えることが大事となるのでRAAS抑制作用のあるスピロノラクトンが、
治療薬として使われやすい、というのはイメージしやすいかと思います。


まとめ

肝性浮腫・腹水においては、
低アルブミン血症・循環血液量の減少(+門脈圧亢進)がメインの原因となってなります。

また、その治療薬においては、
分岐鎖アミノ酸製剤(低アルブミン血症あれば)を併用してRAAS系亢進抑制のためにスピロノラクトンが第一選択薬とされます。

急な体液量コントロールを要する心不全治療とは異なり、腰を据えて大元の原因に対処できるような治療方針となります。


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