当帰芍薬散 ≒ 四物湯 + 五苓散となる理由
【当帰芍薬散の構成生薬】
当帰、芍薬、川芎、茯苓、白朮、沢瀉
生理痛を始め主に女性によく見られる頭痛や腹痛、浮腫、冷えなどを改善する薬です。
全身が浮腫みっぽく色白な女性に使われやすいです。色白は漢方的には血が足りていない状態と考えます。美白とか美肌的な色白というよりは血色が悪い系の色白というイメージです。
役割をザックリ分類すると
・当帰、芍薬、川芎
⇒ 補血、活血作用(四物湯のうち3つ)
・茯苓、白朮、沢瀉
⇒ 健脾、利水作用(五苓散のうち3つ)
ここから当帰芍薬散の役割は
『足りない血を補って温め、身体に溜まった余計な水を排出する薬』と考えることができます。
血が足りないと貧血症状を起こし、手足は冷えます。
水の巡りが悪いと全身が浮腫み、溜まった水が頭に滞留すると頭痛や頭重感、めまいなどを引き起こし、余計な水が胃に溜まると消化不良になります。
当帰芍薬散は
四物湯と五苓散から3ずつ取ってきた処方と言えます。
*四物湯:
当帰、芍薬、川芎、地黄
川芎は活血、当帰・芍薬・地黄は補血作用がメイン
*五苓散:
猪苓湯、沢瀉、茯苓、白朮(or蒼朮)、桂皮
猪苓、沢瀉は利水がメイン
茯苓、白朮は利水に加え健脾や鎮静作用も
当帰芍薬散は
四物湯と五苓散を足したものから
地黄、猪苓、桂枝を抜いたもの
ここから各種生薬の作用の違いを見ていくと当帰芍薬散が向いている人、向いていない人が分かると思います。
【当帰芍薬散の補血・活血薬】
川芎は活血作用により特に頭痛の改善作用に優れる。補血効果はそこまで無い。薬性は温性。
当帰は温める補血薬で活血作用も併せ持つ。鎮痛鎮静作用にも優れる。
芍薬は微寒性で補血の他に消化管の痙攣を抑えて腹痛を治す。
これら3つを並べると四物湯のうち温める生薬メインで配合されてるのがわかります。芍薬は少しだけ冷やしますが補血だけでなく鎮痛効果に優れるので当帰芍薬散には必要と思われます。
【当帰芍薬散の利水薬】
白朮(または蒼朮)は温性の利水薬で健胃作用で湿邪を除去
茯苓は強い利水作用でめまいや浮腫の改善に加え健胃作用や鎮静作用もある⇒イライラにも有効
沢瀉は利水薬の中でも尿の異常や胃への水分滞留を改善する
四物湯と五苓散の構成生薬のうち
【当帰芍薬散に入ってない補血薬】
地黄:
補血作用の他に滋陰作用(潤す作用)
薬性としては寒性というのもあり、温めたい当帰芍薬散からは除去されていると考えると理にかなっている。
また当帰芍薬散の適応となる人の特徴として全身の肌が浮腫みっぽいこと、というがある。この状態で更に潤す必要は無いので当帰芍薬散に地黄は必要ないとも考えられる。
地黄も浮腫に使うが、地黄が使いやすいのは主に高齢者などの、肌はシワシワで水分は無いが、足には水が溜まって浮腫んでいるような状態。地黄と附子や利水薬と併せた牛車腎気丸などがこの例。
【当帰芍薬散に入ってない利水薬】
猪苓:
利水薬の中でも抗菌作用を有するため、膀胱炎などの泌尿器の症状メイン。つまり守備範囲がほぼ膀胱〜尿道なので当帰芍薬散には必要無さそう。
【その他】
五苓散には桂枝も入っている。
桂枝も温める生薬だがどちらかというと気を巡らせる役割(気逆や気鬱などに使う)
例)気が余剰になってのぼせている、気が一部でつっかえている(主に首や喉、胸など)
当帰芍薬散では気逆や気鬱などの気の乱れの改善は特に期待しなくていい。むしろ気は足りてないぐらいの人に使う。
ただし気が足りなさすぎて食欲不振や胸焼けなどの消化器症状が出ている場合(裏の気虚)は当帰や芍薬などの補血薬が逆に消化管への負担になるため、四君子湯や補中益気湯など、裏に働く補気薬で食欲を改善してから当帰芍薬散を使った方が効果的。
【参考資料】
現場で使える薬剤師・登録販売者のための漢方相談便利帖 わかる!選べる!漢方薬163/杉山卓也
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