#島ぐらしと魚たち 5月
狂喜乱舞のアジンコ釣り
5月。
黒潮に乗ってやって来る流れ藻は、さまざまな稚魚たちの絶好の隠れ家。
この「藻」につく「雑魚(ザコ)」の中から、養殖用のブリの稚魚を獲るのが「モジャコ漁」である。
漁師たちはブリ以外の稚魚を海に戻す。
この海に戻された稚魚をカゴサビキ仕掛けで狙うのがアジンコ釣りである。
メインターゲットはアジの稚魚だが、サバやカンパチの稚魚も釣れる。
仕掛けを海に落とせば数秒で魚がかかる。
ブルブルッ!とした竿の振動に、釣れた釣れた!と騒いでいるうちに、
仕掛けの針すべてに魚がかかって、あっという間にこいのぼり状態になる。
入れ食い状態に興奮したヒトは、もっともっととコマセを撒き、海の中ではサカナたちが超高速で餌の中に突進してくる。
ヒトもサカナもまさに狂喜乱舞。野良猫たちもおこぼれをもらおうと、必死の形相。
この時期は島の釣具屋からカゴサビキ釣りの仕掛けが売り切れてしまうほど、我々にとっては年に一度のお楽しみなのだ。
おすすめの食べ方は、なんといっても唐揚げ、天ぷら。
揚げたての熱々を口に運べば、サクッとした軽い食感ののち、ほのかな甘みが広がり、ハフハフ言いながら次々と箸がのびる。猫舌の私はいつも出遅れてしまう。
「100匹は余裕で食べられる!」と思うのに、「そんなに食べられるかーい!」と胃袋が拒絶する。余ったものは玉ねぎやにんじんなどと共に甘酢に漬けて、南蛮漬けにリメイクする。お酢の効果で背骨までほろほろと崩れていくアジンコも、これまた美味なのである。
ある春の日の我が家の食卓は、アジンコの唐揚げに南蛮漬け、トビウオの押し寿司、カメノテの出汁煮、イソモン(イボアナゴなど磯にいる貝類)、ヤコウガイの刺身と大変賑やかであった。いつまでもいつまでも、この豊かな恵みが続きますようにと願って、屋久島を代表する胃腸薬、恵命我神散をゴクリとやった。
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川東繭右(かわひがし まゆう)
東京都目黒区出身
島の魚に魅了され、2011年屋久島に移住
学校司書補として勤務する一方で、魚の面白さや美味しさを普及する活動を行なっている
趣味は魚の耳石集め
好きな魚はクサカリツボダイ ヒトミハタ
お魚マイスターアドバイザー
水産庁魚のかたりべ
鹿児島県指導漁業士