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#島ぐらしと魚たち 7月

星降る夜空とゴマフエダイ

屋久島に来て感動したことは数えきれないほどあるが、そのうちのひとつは、天の川が肉眼で見えること。流星群でもないのにたくさんの星が降ること。それもただの流れ星ではないのだ―。

屋久島の梅雨明けは意外と遅く、例年だと7月中旬頃だ。しかし今年は何やら様子がおかしい。GW明けから雨が降り続き、6月下旬には梅雨明け宣言が出たが、その後もまた雨が降ったりして、夏と梅雨のはざまの時を過ごしている。
いよいよ梅雨が明けると、夏のお楽しみ「夜釣り」である。
潮の良い日は、定時きっちりで帰宅する。ダッシュで家事と入浴を済ませ、軽く食べられるものを持って夜のピクニックへ。

「ぶっこみ」と呼ぶシンプルな仕掛けにキビナゴを丸ごと1匹掛け、ポイントに「ぶっこむ」。糸の張りを調整したら、魚がかかるまでのんびり待つ。

ターゲットはゴマフエダイ。
我々がシマヒクと呼ぶこの魚は、朱色の魚体にゴマのような斑点があり、大きなひれは王者の風格だ。刺身で食べると香ばしい脂のカプセルが舌の上で弾け、究極の美味とも賞される味わいであるが、成長が遅い上に警戒心が非常に強く、なかなかお目にかかれないレアな魚だ。
竿先には夜光ライトと鈴が付けてあり、魚がかかると音と光で教えてくれる。
竿先がちょっと曲がって「チリリン♪」なんて可愛い音は、小物が餌をついばんでいる証拠。
シマヒクは「シャシャシャシャーン!!!」と激しく鈴を揺さぶり、一瞬で竿先をグワンッ!と曲げるのだ。そうなったら全力で竿を持ち上げて針を食い込ませ、背中や腹に力を入れ、竿尻を腹にあてて支えながら糸を巻く。やり取りを終えた後に腹が黒紫色に内出血していたこともあるほど、良型のシマヒクは力が強い。
墨に緑を混ぜたような薄暗い海面に、シマヒクの鮮やかな朱の色が見えたときは、心臓がドックンと強く脈打つ。冷静さを保ちつつ無事釣り上げる頃にはもう胸がいっぱいで、ほ~とか、へぇ~とか、意味のない言葉をあげていろいろな方向から王者を眺めまわし、写真を撮り、そしてまた眺めるのだ。

だがしかし、私自身もう2年もシマヒクに出会えていない。大体はおにぎりなんかを食べながら、星空を眺めて終わってしまう。
願い事を言えないぐらいあっという間に消えてしまう流れ星、やたらとなが~い流れ星、彗星のように炎の尾をなびかせる流れ星、流れた瞬間2つに割れていく流れ星。実に様々な流れ星を見ることができて飽きない。
星が降り注ぐ夜空と涼やかな夜の匂い、今にも魚がかかりそうなドキドキ感。今の言葉でいうならば、夏の夜釣りはエモいのだ。お星さま、今年はシマヒクが釣れますように。

…………
川東繭右(かわひがし まゆう)

東京都目黒区出身 
島の魚に魅了され、2011年屋久島に移住
学校司書補として勤務する一方で、魚の面白さや美味しさを普及する活動を行なっている
趣味は魚の耳石集め
好きな魚はクサカリツボダイ ヒトミハタ
お魚マイスターアドバイザー
水産庁魚のかたりべ
鹿児島県指導漁業士