見出し画像

#屋久島の鳥たち 12月

地鳴きに耳を傾けて


 冷たい北風が吹き海も荒れる日が多くなりました。屋久島の冬到来という感じです。
 寒さを逃れて北から渡って来た鳥たちも、さらに南へ向かう鳥ではなく、屋久島で冬を越す鳥たちがたくさん見られるようになってきました。

 シロハラは11月上旬から姿が見られ始めますが、渡って来てすぐの頃は木の枝にたくさん付いている木の実を食べようと茂った梢を行き来しています。12月になると実りも減ってくるのか、道端の落ち葉を払いのけ、そこに落ちている木の実や虫を食べるようです。道端でよく見かけるようになります。
 車で走っていても、地面付近をパタパタパタと羽ばたいて逃げて行くので、気を付けないとぶつかってしまいそうです。
 夜明けの薄暗い時間帯から活動し始める、びょびょびょ!と水笛みたいな地鳴きのヒヨドリサイズの鳥です。
 地鳴きというのはさえずり以外の鳴き声のことです。

道端の落ち葉を払いのけて食べ物を探すシロハラ

 また農道を散歩する時や家の近くの藪からは、チッ!チッ!チッ!と小さな声が聞こえてきます。
 その声に似たチチチ!と鳴くホオジロが普段は見られるのですが、何となく鳴き方が違います。誰だろうかと薮の方に動きはないか見ていると、パッと飛び出てくる小鳥がいます。
 大きさはスズメくらいですが、遠目に見ても何となく黄色っぽい。それがアオジです。
 アオジはホオジロ科の鳥で屋久島には冬にやって来ます。オスは顔が黒いので、なんだかサングラスをかけたイカついヤツのように見えます。英語でBlack-faced Buntingと呼ばれるのはオスの姿から来ているのかもしれません。
 冬の間は警戒心が強くて藪の中からなかなか姿を現しません。姿を見たければ気配を消してじっと待つしかありません。

藪からひょこっと顔を出したアオジ♂

 もっと根気がいるのがノゴマです。ノゴマもどうやら冬の間は屋久島にいるようです。
 ノゴマも藪の中から声がします。普段は聞こえてこない、ぐゎぐゎぐゎとカエルのような声や、ぴよー!ぴよー!ぴよー!という甲高い声です。
 去年の冬は、この声が何なのか正体を突き止めようと藪の前でじいーーーーっと待ちました。耳を澄まし、目を凝らし、藪の中に何か動くものはないかを探すのです。
 だけどなかなか出て来ません。
 どうやらそれらの声は警戒している時の声のようです。なので相手もじっと動かないでいるのか、藪の奥の方をそそくさと移動しているのかもしれません。
 正体を知れたのは、天気のいい晴れの日、美しいさえずりを聞いた時でした。こんなきれいな声で鳴くのは誰だ?と探すと、ケタンキの枝の先の方で歌っている鳥が!でも、こちらに気付きパッと隠れてしまったのです。その後、あの警戒する声で鳴き始めたのです。一瞬しか姿を見られませんでしたが、喉の下の鮮やかな赤が特徴的な茶色い小鳥、ノゴマでした。
 姿を見られるとやっぱり嬉しいです。

晴れた日にきれいなさえずりが聞こえてきて、声の主を探すと藪の隙間に赤いのが!
喉の下の赤が特徴的なノゴマ

 森に近い道を歩いていると聞こえてくる、ひぃ!ひぃ!ひぃ!かかか!の声。ルリビタキの地鳴きです。
 同じような声が畑や家のそばで聞こえる時は、おそらくジョウビタキ。鳴き声がよく似ていますが、住む場所が違うようです。
 また、きー てぃてぃてぃ!と小さな声で鳴くのがコマドリです。コマドリは冬になると山から下りて来るようで11月頃から里の方で声が聞こえ始めます。

林縁の道を歩くと出会えるルリビタキ。雌は地味だけどほんのり尾羽が青色
冬場は里周辺で見られるコマドリ。2020.11.19椨川で撮影

 冬の間はメスにアピールする時期ではないので、さえずりはあまり聞こえて来ません。でも地鳴きに耳を傾けてみると、この時期しか見られない鳥に出会えることがあります。
 アオジやノゴマは集落のすぐそばにいたり、森の方に近付くと、コマドリやルリビタキの地鳴きも聞こえてきたりします。
 寒い日は暖かい部屋から出たくないですが、ちょっと外に出て、じいっと耳を傾けてみると冬鳥との出会いがあるかもしれません。

…………
福留 千穂/ふくどめ ちほ
 鹿児島生まれの鹿児島育ち。県内の小中学校で養護教諭として勤めていましたが、ガイドを志し2014年に屋久島へ。屋久島の自然を案内する中で、野鳥の存在は避けては通れず、野鳥を覚えるために意識して見るようになったところ、野鳥のかわいさ、美しさ、たくましさに触れ、すっかり虜(とりこ)になってしまいました。
 現在はカメラを片手に、野鳥の姿や鳴き声を探して歩く「とりさんぽ」が生活の一部になっています。
 耳を澄ますと、いろんなところから鳥の声がする。
 よく見ると、いろんな鳥が近くにいる。
 そのことに気付いてもらえ、野鳥の生活に気持ちを寄せてもらえると嬉しいなと思い、屋久島で見られる野鳥の様子をお伝えしていきたいと思います。