ビンテージという考え方①
以前、大阪のある百貨店でブランデーケーキを販売しているときに、こんなことがありました。
自称ブランデーケーキにはうるさいというお客様でした。
50代くらいの男性で、日曜日だったこともあり、結構お休みモードの服装。
とても興味津々にうちのブランデーケーキを見ておられました。
何度も何度も、パッケージを見比べては、POPの情報に目をやって、ゆっくり深くうなずいておられました。
「僕、かなりブランデーケーキ好きなんよ。最近、あまりなくて、美味しいブランデーケーキ探してるのよ。」
とのこと。
ほほう、それはうれしい。
「このブランデーケーキっておいしいの?」
そのお客様から、そんなストレートな質問がとんできました。
作り手ですので、その答えに「美味しいですよ」なんて中身空っぽの返しはできないので、丁寧に、このブランデーケーキがいかにおススメかという話をご説明しました。
ご迷惑もかえりみず、いつものごとく10分以上熱を込めて。
お客様も真剣に聞いてくださいました。
本当にブランデーケーキが好きな方なんだなって、その受け答えに、好き好きオーラがあふれ出ていました。
昔ながらの製法で、丁寧にひとつひとつ手酌でブランデーシロップをかけること。
このスポンジの作りが若干粗目に仕上げてあり、水分移行がしやすくなっていて、1~2週間を目安に箱の上下を返すことで、その水分移行が進むこと。
生地の中をブランデーシロップが通っていくことで、生地全体にブランデーの香りと美味しさが染み渡っていくこと。
これがブランデーケーキの最大の特徴「熟成」の仕組みであるということ。
お酒の影響を受けやすいので、お酒の銘柄、ランクを変えると、そのお酒の特徴をしっかり表現できること。
などなど・・・。
私が話す一言一言に、大きく真剣にうなずいてくださっておりました。
『なんて、ブランデーケーキ愛の強い人だ!』
さすが食い道楽の大阪、こんなお客様がいる街に来てよかった!!!
そのお客様は、特に「熟成」に興味を持たれました。
お客様:「ということは、賞味期限ギリギリのものが一番おいしいんとちゃうの?」
私:「はい、そういう方が圧倒的に多いです。特にハイクラスのものは。」
お客様:「美味そーやな。」
私:「おすすめです。」
私は、誇らしげに伝えた。
お客様:「で、その賞味期限ギリギリのハイクラス、この売り場にあるの?」
私:「・・・。 え? ないです・・・・。」
お客様:「 え、えっ~! ないの~??? 」
「お兄さん、商売っ気ないなぁ~。」
「ああもったいなぁ~」
「また今度来た時、それ買うし、また今度な。」
「絶対持ってきてや~」
と言って、そのまま去って行かれました。
私はちょっと唖然として、そのお客様を目で追いながら、自問自答が始まりました。
「あれ?まずかった?」「どうすべきだった???」「普通、百貨店って、賞味期限がかなり短くなったものって売れない・・・。」「長い方が喜ばれる」「お客様の需要に合ってない・・・?」「持ってきとかなきゃ・・・。」・・・・・。
「・・・・・。」
「あれっ・・・・。これってチャンス?」
熟成したものに、需要がある。
当然、それをおいしい条件として掲げているのだから。
これは、新しい価値観!
「よし、やってみよう!」
私は、すぐさま百貨店の方々と話をしました。
皆さん「それは面白い」と、それができる方法をひねり出してくれました。
最近の百貨店などの物販(特に食品)は、たくさんのコンプライアンスチェック、危機管理対応をクリアしなければ、原則としてお客様に提供できません。
新しいものが世に出にくい、本当に面倒な世の中の仕組みになっています。
結果として、皆様の協力によりそれをクリアし、次回のイベント販売の時に、熟成をしたブランデーケーキを売ることになりました。
そして3か月後、大阪の百貨店、次のイベント販売の日が来ました。
〈次回に続く〉
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?