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雑記帖

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日々思い浮かぶよしなしごとを書いた雑文をまとめる雑記帖です。
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2019年12月の記事一覧

こちらまでおいしくなる

食堂でお昼を食べていると、隣にそのお店の常連らしいおじさまが座る。

注文した皿が運ばれてくると、「これはおいしそうだ」とおっしゃる。その様子がなんというか、心の底からそう感じているのを口に出さずにはいられない、という風でどうも聞いているこちらまでニコニコしてしまう。

食べている最中も、「うん、じつにうまい……」とつぶやき、食べ終わってからも、皿を下げにきたお店の人に「いやあ、ほんっとうにおいし

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意外と少ない

次に出す吉川浩満くんとの共著は、いよいよゲラの確認作業に進もうかというところ。

これまで2人で書いた本には次のものがある。

・『心脳問題――「脳の世紀」を生き抜く』(朝日出版社、2004)
・『問題がモンダイなのだ』(ちくまプリマー新書、筑摩書房、2006)
・『脳がわかれば心がわかるか――脳科学リテラシー養成講座』(太田出版、2016)

ときどき書いていることだけれど、『心脳問題』は赤井茂

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掟の門のように

人はいろいろな思い込みをしながら生きている。

押して開けるドアの前で迷う人がいる。あれ? ノブもなければ、手をかけるところもない。開かない。といって諦める。

押せば開きますよ、と言われてハッとする。その人は、引き戸だと思い込んでいたばかりに、押すという発想がはなから思い浮かばなかったわけである。

わけである、だなんて他人事を偉そうに寸評している私も、ドアをスライドしようとしたら手がかりがなく

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頭に乗せたい

子供のころ、おじさんたちが、ときどきメガネを頭の上に乗っけているのを見て不思議に感じていた。必要だからかけているものを、どうして頭に乗せているのか。

ただ、その仕草というかメガネの置き方はなんだかいいな、とも思った。いつか自分もメガネをすることがあったらやってみよう。といっても、しばらくその機会は巡ってこなかった。

私がはじめてメガネを使うようになったのは、大学を卒業してゲーム会社に入って何年

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因果のもつれ、餃子とビール

エレヴェーターに乗る。
他には誰もいない。

ただし、ニンニクとニラとアルコールの混ざった匂いが充満している。
誰か思うさま餃子とビールを楽しんだ御仁が降りた直後かな。

とかなんとか想像していると上昇が停まる。私が降りる階ではない。
人が乗ってくるとき、ちょっと顔をしかめた。

ね、やっぱり感じますよね。でも、これは私が乗る前から……
と釈明するのもなんだか違うような気がする。

あと二階の辛抱

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頷く男

「うん」「ええ」「はい」「うん」

対談の動画などを見てみると、私はよく相槌を打っている。聞いている人には、少しうるさいかもしれない。

他方で、会話をするとき、相手のリアクションがあるとないとでは、話しやすさも随分変わる。というのは、教師の仕事をしながら学んだことの一つ。

例えば50人なり100人なりの人を前に話す場面を想像してみよう。あなたの話を聞きながら、聴衆はみじろぎもせず座っている。頷

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数学書を探す

外を歩くとき、ぼんやりと頭のなかに置いてあるあれこれの課題を取り出して考える。なにしろ歩いているときは、他になにをするでもないので考え事にちょうどいい。

数学の本を探しにいくなら、どの本屋がよいだろう。古本なら神保町に行けばよい。新刊書店は?

種類が豊富に置いてあるのは、ジュンク堂書店の池袋店、それから丸善ジュンク堂書店の渋谷店。神田の書泉グランテも。ここを定期的に見ればいいかな。

そんなこ

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コーヒーを飲んだから

カフェであたたかいコーヒーを飲む。
外に出てぶらぶら歩く。

ジャケットのポッケに手を入れるとガムが入っている。
一粒食べようかな。

でも。
口のなかにコーヒーのあたたかみがほのかに残っている。

もうちょっとあとにしよ。
鼻唄を歌いながら歩く。

歩きキューブ

この前、ある駅でホームを歩いていると、向こうから歩きルービックキューブをしている人がやってきた。

すれ違いざま、「あっ、スミマセン」と一瞬キューブから目をあげた。

なんだか憎めない感じがした。

といっても、もとより憎む要素はないのだけれど。

きみと文芸の戦いでは……

ここ数日、1人ブンゲイファイトクラブをやっていた。

というのは言ってみたかっただけで、自分と殴り合いをしていたわけではない。
季節に一度の文芸季評を書くため、文芸誌の山ととりくんでいたのだった。

小説や詩を読むのは嫌いではない。むしろ好きなほうだが、仕事として読むのは少々しんどい。なんらかの評価をするという目的が念頭にあるので、ただ楽しむというわけにいかないからだ。

楽しみのために読むなら、

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そして人生はつづく

★このところ、長い長いブックリストをつくる仕事を続けている。リストに本を加えては、全体を眺めなおす。これはなにかに似ているな。そうか、カンヴァスに向かって絵を描くような感じだ。筆で色を置いては、離れて確認する。離れて眺めては、また近づいて続きを描く。近いままでも全体が見えないし、遠いままでも部分がよく見えない。それで、近づいたり離れたりするわけである。

このリストが完成して、書棚にこれらの本が並

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記憶の劇場

日曜日は、代々木でゲームデザイン講座だった。月に二度、毎回設定したテーマに沿って私から関連する知識や技術について説明し、参加者とともに検討する。場合によってはその場でゲームを考える。そういう講座をやっている。

講義の後は、くたびれすぎていなければ、紀伊國屋書店の南店に立ち寄る。かつてはビル全体が紀伊國屋書店だったのだが、しばらく前に1階から5階まではニトリになった。ビルに入り、書店だった頃の記憶

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