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そろそろ、当店(BOOTH)の「オレオレライセンス」ことxRCLについて語ろうか

先ごろ、VN3ライセンスのバージョン1.0が正式リリースされました。おめでとうございます。スタッフの皆様、お疲れ様です。

と言うのはさておき、ただ、私は自分の用途において自分が許可・禁止したいことを簡潔に書くには1から書いたほうがユーザーのために良いと考えたし今もそれは変わらないのでオレオレを継続していきます。

当店の利用規約についてなぜか批評をいただいていることだし、うちのオレオレライセンスがどう言う意図があるのかを語りたいと思った次第です。

3Dモデルの中でもVRoidは既に独自文化を形成している

BOOTHの登録商品中、「VRoid」のキーワードでのヒット数は8000アイテム以上にものぼりますが、これは他の3Dモデルとは販売形態からして異なっていて、衣装テクスチャや髪などの素材形態で販売されることが多く、ユーザーがいろんなお店の素材や自作素材を好きに組み合わせてモデルを仕上げることを前提に配布・販売しているというのは、共通認識だと思っているのです。

完成品の3Dモデルだと、改造自体を許さないライセンスにしている作者が多々いますが、そこから数歩進んで「着替え」として各ユーザーオリジナルのコーディネートを楽しむVRoid独自の文化に馴染んだライセンスが必要だと思っているのです。そして、それが私が一般的な3Dモデルを想定したVN3ライセンス等(使えなくはないが無駄がある)ではなく、私が一から整理したライセンスを用いることの最大動機になっています。

GitHubで運用する意図とフォークの副次的効果

変更履歴を明確にするためにGitHubで運用することを前提にしていますが、Gitの仕組み上、1人だけで管理しているレポジトリの改訂履歴は1人でどうにでも書き換えようがあるのも事実です。更新履歴の証拠能力を高めるためには、思うに、第三者が監視する必要があるのです。

他人の管理下に複製されたレポジトリは、少なくともその変更履歴の期間分は派生元のレポジトリの記録を改竄する余地がなくなるので、ある意味では他の人にフォークされたほうが、改訂履歴の証拠能力を担保する上では都合がいい(逆に誰もフォークしてない状態だと、ローカルでコミット履歴を改竄してあげなおすなどのインチキをする余地が生じる)面はあります。

したがって、一人で複数のバリエーションを作って他人に提供するなんてことは、むしろ避け、積極的に他の人に派生バージョンを作ってもらったほうが改訂記録の証拠能力を高める意味では都合がいい面すらあるのです(ブロックチェーンとよく似ていますね)。

それでなくとも、誰でも任意のタイミングでコピーでき改訂履歴にもアクセスできる状態にしておくことで「踏み絵」としての機能は意識していて、別に他のショップ主が使ってくれないことで不都合が起きるような運用をしてるわけではないのです。

コミット差分から文言の変更を可視化しやすい点においては、お客様の納得を得やすいかなという思惑もあります。なんなら「うちの店だけでしか使ってない利用規約」でも別になんら支障がない(そもそもの話、法的適合性の担保などの観点でみても法律の専門家ですらない他人が使うか使わないかは判断材料にもなりえない)し、自分が実際に運用しないルールにまで責任が持てるなんて主張は欺瞞でしかないと考えるので、必要にかられるまでは、複数のバージョンを用意してまで他のショップに使ってもらおうと積極的に動く気すらありません。

全ての消費者に全文読ませることなんて最初から目標にしていない

どうせ全ての人が全部読んでくれることなんて期待できない。そんなことはわかってます。裁判沙汰になったときに利用者さんに過失が問えるだけの意思表示をしたエビデンスがあればいいんで、全員に確実に全部読ませることの法的責任なら最初からないですよ。裁判官が「読んだとみなす」条件を満たせれば十分です。「読み飛ばしたから知らない」って言い訳は裁判じゃ通用しません。

もちろん、訴訟に持ち込まれたら互いに消耗戦で不毛なんで、そもそもトラブルにならないように特に大事な部分だけでも読んでもらうよう、一応、工夫はあるのです。たとえば許可不許可の重要部分を1条〜2条に簡潔にまとめているんです。間の文章ってあんまり目をとおしてもらえないから、そこは一番最後の文章でインパクトを放って読み返してもらうようにする。最後の準拠法と管轄裁判所がそうですね。これは法治国家における相手方への最大限の意思表示です。

厳密に「何ができる」「何ができない」がわかりやすいライセンスという印象を受けました。あと、私は"カタい文書"をコンテンツとして消化するという趣味があるんですが、私と同じ趣味の人はこういう感じの文書が好きだと思います。

そこはまあ、日本のベテランの弁護士さんが契約書の作成業務で好む体裁の、オーソドックスな約款の書き方に倣っています。契約業務のプロが出してるこの手のHow To本などを読んでみると、どうしてそれが良いのかの根拠など学びはあります。

とはいえさすがにそれだけで目を通してもらえる確率をあげるのは難しいので、BOOTHの個別ページに規約のダイジェスト書いてます。その上で該当のページへのリンク貼ってますね。

UVライセンスの改定案からスタートしている

完全に0からスタートしてるわけでもなく、「UVライセンス」をスクラップアンドリビルドするところから始まってます。

UVライセンスの何が使えないかって、まず第3条の「無償」がまず嘘だし、「第三者に無償で委託できる」も、責任の所在の観点から考えてあり得ないのです(このあたりは複数の批判意見があったかと思います)。

その上許諾事項と禁止事項がとっ散らかりすぎてて見通しが悪いし、日本の著作権法や民法と矛盾するし、全体を通して「ああ、これ素人が書いたな」って結論に至り。

じゃあ国外法はどうかというと、初歩的なところでまるでダメです。

アメリカ合衆国著作権法(和訳)
第401条 著作権表示:可視的コピー
(a) 総則-本編に基づき保護される著作物が著作権者の権限により合衆国その他の場所で発行される場合には、直接または機械もしくは装置を用いて著作物を視覚的に覚知できる公に頒布されたコピーに、本条に規定する著作権表示を付加することができる。

(b) 表示の形式-コピーに表示がなされる場合、以下の三つの要素を含まなければならない。
 (1) C記号(丸の中にCの文字)、または「Copyright」の語、または「Copr.」の略語。
 (2) 著作物が最初に発行された年。既発行の素材を含む編集著作物または二次的著作物の場合、当該編集著作物または二次的著作物が最初に発行された年で足りる。絵画、図形または彫刻の著作物(付属する文章を伴う場合を含む)がグリーティング・カード、はがき、文房具、宝飾品、人形、玩具その他の実用品に複製される場合、発行年を省略することができる。また、     (3) 著作物に対する著作権者の名称、または名称を認識できる略称、または当該著作権者を示す広く知られた他の表示。

(c) 表示の位置-表示は、著作権の主張につき合理的な告知を与える方法および位置に配置しなければならない。著作権局長は、例として、様々な著作物における上記要件を満たす表示の添付および配置の特定の方法を規則により定めなければならないが、これらの特定は限定的なものと解釈されてはならない。

(d) 表示の証拠能力-本条に定める形式および位置の著作権表示が、著作権侵害訴訟の被告が入手することのできた既発行のコピーになされている場合には、被告の善意の侵害に基づく抗弁は、第504条(c)(2)最終段に定める場合を除き、現実損害賠償額または法定損害賠償額を減殺するために一切考慮されない。

そしてUVライセンスのサイトの右下を見てみましょう。

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常識的に採用はありえませんね?

ただ、UVライセンスの、商用利用可のオプションにある「購入者同士で改変を委託できる」というのは私の利害相反しないのでそのまま採用しています。
おそらく残しても不都合はないし、ココナラとかで「VRoidのセットアップ代行します」とかやってる人にも使ってもらったほうがより間口広がると思ったのですね。UVライセンスは使用権を無償の改変代行のために貸与できる規約になっていますが正直リスクの方が大きいし、私がBOOTHで有償販売してるテクスチャって300円とか500円とかの単位なんですよ。委託者と非委託者の2ライセンス購入分必要になってもそんなに高くないようにしてるので、そこで敬遠される理由はないと思ってます。

そして、両方がユーザーに該当するなら、委託した側された側の連帯責任をとらせやすいからね。民法のルール上も(VN3Lを主導したあしやま氏もここは共通の認識でした)。

無償・二次創作自由のデータはCC*を採用してる

また、xRCLはライセンスの対象が「有償で販売している3Dモデル」であることを前提にしているので、無料配布のアバターや素材にはマッチしない条項がある点には注意です。

これはその通りで、そもそも無料の素材にはわざわざ新しいライセンスは基本的には要らないと思ってるんですよ。Creative CommonsやGFDLなどの既成の有名どころではない別のライセンスを適用する理由が、見当たらないです。ましてそれを他人に薦めようと言う気もないです。

更には「もうクレジット表記すら要らないから好きにして」って思ったらCC0(Public Domain)ですね。たとえばこういう素材向けです。

(これはこれで裏があって、ぶっちゃけ、VRoidのヘアプリセットを合成するツールって今のところBOOTH上で私しか公開してなくて基本無料だけどプロプライエタリなんで、そのソフトの配布権を私が独占している以上は、ヘアプリセットを無料でばら撒いて再配布とか改変とかされようが自分の店に集客するのに別に困らないんです)

それはともかくとして圧倒的買い手市場となったBOOTHでいかに消費者の心を掴むかってのは大事だと思いますね。

ピクトグラムの有効性は議論が必要

気になる点は…カジュアル層にはとっつきにくいというところですかね。他のライセンスは図やアイコンなどでわかりやすく表記したりしていますが、xRCLは完全にザ・文書なので、普段からライセンスとか仕様書とかバリバリ読むタイプの人でないと読むのにだいぶ抵抗がある感じがします

これは私もより簡単な表現で理解してもらうために配慮していきたいところで、活字より絵のほうがわかりやすいってのは漫画のほうが一般書籍より読まれる理屈考えれば確かにそうなのですが、許可もしくは禁止のピクトグラムの意味解釈が各自で統一されているかどうかという問題が生じると思ってて、規約を問わず全ての3Dモデル共通で規格化されたものって未だないと思ってるんですね。

そこはわかりやすければイラストでも良いかなとは思うのですが、今後の課題かなと思ってます。

自分の頭でよく考えてライセンスを選ぶことが最大の自己防衛である

そんなところでしょうか。
いずれにしても、少なくとも「赤信号をみんな渡ってるから自分も渡ってしまおう」みたいな集団心理こそ危険で、自分の頭で考えたライセンスを選ぶべきだと思います(なにが赤信号なのかは深く言及しません)。


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