【当帰の話】
もう栽培はしていないのだけど畑には細々とひっそりと当帰が僅かに点在している。あれっというところにいたりする。もともとは山の自生種。品種改良のされていない野生種。その力強さに不思議はない。
だけどミョウガ畑で長い間自生していたたった一株の大きな当帰は4年目の今年芽を出さなかった。なんだか寂しいなぁと思いながら茶色く枯れたその姿を眺めていた。
しばらく眺めていると、はっとした。
目に入ってきたのはたくさんの当帰の子供たちだからだ。芽が出始めたミョウガと一緒の若く生き生きしたその姿に感動を覚えた。
あぁ、この子たちの母の去年のあの大きくて、たくましくて、美しい姿は最期の輝きだったんだ。子孫をここで残す為の必死の姿だったんだな
と今はじめてわかった。
自らを犠牲にしても成し遂げた、何としてもという思いで繋いだたくさんの命がそこにはいた。その姿、思いに触れたからはっとした。
それは何気ない小さな景色だ。他の誰がこのことに気づいただろうか。
畑の美しさは細部に宿る。
それは細部に気を留めているから心にとまる。