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【mt.Akimoの「山になりたい」】 ④山を識ること、山岳調査(後編)

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他者のセンサーを借りることで
思いもよらぬ山の姿を発見する


――調査ってどういった部分が楽しいですか?

Akimo
 さっき「線じゃなくて面で山に当たれる」のが楽しいっていうのは話しましたけど、他にもう一つ自分の中でハッキリしてる楽しさがあって。なんとなく山頂を目指して、ただなんとなく歩く山行ってあるじゃないですか。

――多くの登山はそうだと思いますよ。

Akimo
 ええ。その時って「なんとなくずっと楽しい」感じでその山行を終えるんですよね。もちろんそれも楽しいんですが、もう一歩踏み込んで山を知りたいって思った時に、もっと具体的な目的があったほうが、グッと踏み込めると思うんですよ。
 僕の場合、調査っていう仕事で入ることが、一番楽しめるんじゃないかって思ってて。調査は調べる対象が決まってて、目的が明確で、何をどうやって調べるかが具体的に細かく決まってるんですよ。つまり山の一側面に対してすごく集中してフォーカスを当てて取り組むわけです。そこから得るものは範囲は狭いんですけど、ものすごく濃いんですよね。しかも、知れば知るほど色々な調査項目があるんで、なんとなく山を歩いて楽しんでいた時に比べると、どんどん解像度の高い情報を得られるようになるんです。

――森林調査は林業にまつわる実利的な項目が多いだろうし、動物調査だと基礎研究のためのデータって感じだから、かなり多角的ですよね。

Akimo
 そうなんです。あと、僕は「誰が山で何を知りたがっているのか」っていう情報それ自体がすごく面白いんですよね。
 彼らの多くは、僕が山にいて暮らしてるだけでは絶対に思いつかないようなテーマに対する探究心を持って山に来てるんですよ。山で土を採ってきて、成分を全部調べたいなんていう需要があるとか、知らないじゃないですか。自分が普通にしてたら、それは抱かない好奇心や欲求なんですよね。だから、そういった方向性で山に取り組むことってなかったと思うんですけど、これが仕事として請け負うと、自分もその一面に触れることができるんです。

――前言ってた「山集め」だ。(※第2回参照)

Akimo
 そうです。もう全部そうなんです。
 しかも、元々僕の中には無かった好奇心のはずなのに、一緒に調査や研究に携わると、僕もそれがすごく知りたい事になるんです。そういう山があるって分かっちゃうと、知らずにはいられない。
 人間の感受性って、スイッチが入れば色んな事を感じ取れるようになると思うんですけど、多くの場合はそのスイッチは入ってなくて。自分で自然になにかしらの欲求を抱ければ、そのスイッチは入れられるんですけど、なんというか……僕は色んな事を感じまくりたいんです。それも、最高感度でビンビンに感じまくりたくて。でもそれには自分の想像力では限界があるんです。積み上げてきた人生から飛躍したことは考えづらくて、今までの延長線上にしか物事が想像できない。そこで他者の力が必要なんです。突拍子もない事に対して変なスイッチが入ってるヤバい人らが山にはたくさんいるんで、その人達と一緒に行動すれば、僕もそのスイッチが入ると思うんですよ。こと、調査を仕事にしてる人らは、「まだ分からないこと」「知りたいこと」に対して貪欲なスイッチが入りまくってる人種なので、最高ですよね。


「山になるのにまだ足りない」が、
主体的な調査のスタート地点


――最後にひとつ、質問させてください。Akimoさんの目的は「山になりたい」で、それには山のすべてが知りたいみたいな側面があるんだと思うんですけど、今関わっているのは全て人から頼まれたものを、人から頼まれた項目で調べる、主体的ではない調査ですよね。

Akimo
 そう。そうなんですよ。まだ主体的な調査ではないんです。

――自分が主体的にテーマを設けて、自分主導で調べたいこととかはあったりするんですか?

Akimo
 たぶんなんですけど、自分の中にそういうものが芽生えるのを待ってるんですよね。おそらくいつか、芽生えてくると思うんです。誰から頼まれなくても、調べずにはいられない対象や、好奇心が。でも、今はまだその段階じゃない。というか、僕が今の段階で知りたいと思うような山の情報って、既にそこへの好奇心がバリバリに働いている人らが既に居て、調べ尽くされたりしてるわけです。
 もし自分が心の底から知りたいと思うような山があって、それがまだ世の中で全然調べられていないなんてことがあったら、きっとそれを調べることだけやってたいって状態になると思うんですよね。でも、そういうものを見つけることってすごく難しい。それにたどり着くためには、今いろんな山を調べて取り組んでいる人たちと、一人でも多く接して一緒に働かせてもらうってのが重要なのかなって思ってますね。

――何が既に分かっていて、何がまだ未知のものなのかの情報を蓄積する段階ってことですね。

Akimo
 自分が知りたいって思ったものが、調べてみたら既にかなり調べ尽くされていたなんてことはよくあることじゃないですか。もちろん自分が最初に思いついた未知のテーマにたどり着いたら、それは最高だと思うんですけど。でも、無くても全然困りはしないですね。
 結局、「山になりたい」という僕の謎の目標というか欲求があって、その実現のための材料が集まっているうちは前進してるわけで、その材料が自分独自の何かではなくても、特に困ったことはないですね。

――じゃあ、「山になるのに足りない」ってところまで突き詰めた時が、主体的な模索が必要になるスタート地点なわけですね。

Akimo
 ええ、そうですね。



 如何だっただろうか? 次回は「登山道整備」をテーマにお送りする予定だ。お楽しみに。


第4回 山を識ること、山岳調査 了
『ヤクのあしあと』2019.冬号(2019.11.25刊行)収録分より転記

取材対象:Akimo
@nature1118_life(生活用)/@nature_1118(仕事用)
http://mount-akimoto.com/

インタビュアー・編集:まだら牛
http://yaku-no-koya.com/


※第5回は『ヤクのあしあと 2020.春号』に掲載されています。
 (noteへの転載は6月ごろを予定しています。)


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