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薬剤師が解説★熱中症対策に経口補水液の正しい使い方

熱中症警戒アラートが連日出される夏

暑い季節になると、連日のように「熱中症」という言葉を耳にします。「小まめな水分補給と塩分に注意すれば大丈夫」と軽視してはいませんか。熱中症による死者数は、夏の暑さにも左右されますが、1,500名を超える年があります。
身体に占める体液(細胞外液)の割合は、小児で約70%、成人男性で約60%、女性、高齢者で約50%といわれます。体液は、脂肪組織にはほとんどなく、主に筋肉に存在し、水分のリザーバー(貯蔵庫)としての役割もあります。成人では、脱水症により細胞外液が喪失しても、細胞内液から体液が移動して、細胞外液を補正します。加齢とともに筋肉量が減少して細胞内液の少ない高齢者や、体重あたりの水分量や細胞外液量が多い小児は、脱水症状に陥りやすくなります。

熱中症対策に経口補水液

熱中症(軽度~中等度の脱水症)には、経口補水療法(ORT:オーラル・リハイドレーション・セラピー)が有効です。経口的に水と電解質を補給するORTは、輸液と同等の効果があります。もともとは開発途上国において、コレラによる脱水症の治療法として開発され、死亡率を30%から3.6%に減らしました。

スポーツドリンクの注意点

電解質や糖を含むスポーツドリンクは、清涼飲料水に分類され、浸透圧により、体液(285±5mOsm/L)と同程度のアイソトニック(等張)と体液より低いハイポトニック(低張)があります。製品により組成はさまざまですが、運動前や体調不良時には栄養価の高いポカリスエット、運動後はアミノ酸を多く含むアクエリアスなどが適するようです。ただし、注意すべき点として、等張のアイソトニック・タイプは、ただの水よりも水分吸収速度が遅いことです。また、500mL当たりスティック・シュガー8本分程度の糖分を含有するので、糖尿病の人が常飲することや「ペットボトル症候群」の危険性についても注意が必要です。熱中症(暑熱環境における身体適応の障害によって起こる状態の総称と定義)や下痢や嘔吐、発熱による脱水が疑われる場合には、電解質濃度を高く、糖濃度を低くして、水分の吸収率を高めた「経口補水液」が最も適しています。

水分の吸収

経口摂取された水分は、約95%が小腸から吸収され、残りは大腸で吸収されます。小腸の表面には、Naとグルコースを能動的に吸収するポンプ(SGLT1)があり、Na濃度が高過ぎても、低過ぎても吸収が悪くなります。また、糖濃度が高いと、胃から小腸への移動時間が遅れ、高浸透圧による下痢が発現します。水の吸収量が最大となる条件は、Naとグルコースのモル濃度比が、1:1~2、浸透圧は体液より低張であることが明らかになりました(表1)

表1 スポーツドリンクと経口補水液の成分比較

経口補水液の飲み方

経口補水液の飲み方は、一気に飲むのではなく、「飲む点滴」をイメージして、ゆっくり少しづつ摂取します。健康な人は、美味しくないと感じますが、脱水症の場合は、美味しいと感じるようです。日常的に飲むとNaの過剰摂取になるので、高血圧や心臓病の持病のある人は、熱中症の緊急時以外は避けます。

経口補水液の位置づけ

経口補水液は、「病者などの健康の保持・回復などに適する」という表示ができる『特別用途食品』のなかの「病者用食品」(低たんぱく質食品、アレルゲン除去食品など)に分類されます。健康増進法に基づき消費者庁が許可します。一定の規格に適合した『許可基準型』と個別に審査した『個別評価型』があります(表2)

表2 病者用食品【経口補水液】


許可基準型は、「感染性胃腸炎による下痢・嘔吐の脱水状態の際に、水・電解質の補給」の表示、個別評価型は、「乳幼児用の経口補水液」「脱水を伴う熱中症」など、個別に審査された内容が表示できます。清涼飲料水のなかには、許可なく「経口補水液」という名称や効能・効果をうたった製品があります。「特別用途食品」と誤認される内容の表示は、健康増進法に抵触する恐れがあります。また、特別用途食品と清涼飲料水は、区別して陳列する必要があります。

<この記事を書いた人>
浜田康次
薬剤師。一般社団法人日本コミュニティーファーマシー協会理事。アポクリート株式会社顧問。