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将棋観戦記#4~A1A3団体戦第4局 夢乃マホさんvs茸さん~

 みなさんこんにちは、やきそばです。A1A3団体戦の観戦記第4弾をお届けして参ります。投稿ペースが遅れ気味ですが、時間を置いてゆっくりと振り返るというのもオツなものです。さてA1A3団体戦は前回記事の第3局までA1側が3連勝。開幕戦を含めた最初の土日はA1の強さをたっぷり味わうことになりました。本局はそれから1週間を経た2月6日に行われております。
 ここまで観戦を続けてきたなかで、クラスごとの応援の雰囲気にも違いを感じる今日この頃。特にA1の方々はチームメイトの応援というよりも、さながら検討室で読み筋を競う合うかのように局面を深く読み進めて行く感じ(完全な主観)。強者の将棋に対するシビアな姿勢に胸を打たれつつ、自身はどんぶり勘定のままに観戦記を書き続けていく次第であります。では本編に参りましょう!

のりたま対決

A1A3団体戦第4局
令和3年2月6日20時00分
於・将棋倶楽部24 大阪道場「自由対局室」
▲茸 △夢乃マホ(持ち時間各15分、秒読み60秒)※敬称略
▲7六歩 △8四歩 ▲2六歩 △8五歩
▲7七角 △3四歩 ▲6八銀 △4四歩(途中1図)
▲7八金 △4二銀 ▲4八銀 △5二金右
▲2五歩 △3三銀 ▲3六歩 △5四歩
▲6六歩 △3一角 ▲6七銀 △6二銀
▲4六歩 △7四歩 ▲4七銀 △4二玉
▲3七桂 △3二玉 ▲5八金 △9四歩
▲2九飛 △4三金 ▲4八玉 △1四歩(第1図)

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 茸さんの先手番で対局開始。A級3組所属の茸さんは初手▲7六歩党の居飛車党で、角換わり右玉を得意としています。今期の指す順では6勝5敗と勝ち越しに成功しました。何より前身企画であるA3B3団体戦で私と対局して下さった方。その強さは私自身も盤を挟んで体験しました。
 後手番の夢乃マホさんは指す順界隈に舞い降りたJC(自称)。その実力は折り紙付きで、10勝1敗と怒涛の勢いでS級への切符を手にしました。前回企画であるA3B3団体戦では中継放送にゲスト出演され、今回のA1A3団体戦のきっかけを作った1人でもあります。
 そんなお二人は24公認サークルの1つである「のりたま将棋クラブ」の所属。本企画でも、指す順でものりたま所属の方がたくさん活躍されてますね。クラスこそ違いますが、互いの棋風については知っていたのでしょうか。本譜は角換わり調の出だしからマホさんが△4四歩と角道をストップ。雁木ではなく矢倉風の駒組を見せます。茸さんは角交換が成されなくとも右玉を目指す方針で、ツノ銀雁木の形から▲4八玉と立ちました。もう1手だけ進んで第1図。嵐の前の静けさが漂う序盤戦です。

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6筋戦線異状アリ?

第1図以下の指し手
▲1六歩 △7三銀 ▲6五歩 △6四歩(途中2図)
▲5六銀左△6二飛 ▲6九飛 △6五歩
▲同 銀 △5二金 ▲3八玉 △8四銀(第2図)

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 積極的に動きを見せたのは茸さん。角のラインを活かすべく▲6五歩と伸ばします。しかしこれはいかにも反発がありそうな形。マホさんもすかさず△6四歩と仕掛けていきました。続く▲5六銀左が覚えておきたい対応で、単純に▲6四同歩では後手の銀が捌けてしまいます。続く△6二飛もなるほどの一手。こうなると△6五歩▲同銀△6四銀のぶつけを期待してしまいますが、△6五歩は相手にしてもらえず▲4五歩とするような余裕が生まれるのでしょうか。間合いを丁寧に読み解いての手の選択。この一手と決めつけない感覚と読みが勉強になります。
 先手も▲6九飛と回り、互いに自陣に少し手を入れたところで△8四銀(第2図)。向かい合う6筋の攻防を制すべく、異筋から銀を活用させてきました。先手は右玉を一路深く押しやって戦場から遠ざけ、後手は土居矢倉の好形に。互いにバランスのよい陣形を維持しながら中盤の戦いが続きます。

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歩を巡って

第2図以下の指し手
▲4五歩 △7五歩 ▲同 歩 △同 銀
▲7四歩 △6六歩  (途中3図)
▲5六銀引△4五歩 ▲6五歩 △7二飛
▲4五銀 △4四歩 ▲5六銀引△7四飛 (第3図)

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 第3図から先手は▲4五歩と待望の攻めを見せますが、この瞬間に後手から△7五歩▲同歩△同銀と繰り出す手順が成立しました。▲7四歩に△6六歩(途中3図)と垂らす手がまた面白い一着で、飛車の利きをうまく寸断して銀取りになっています。この局面で代えて△7六銀と突進するような手も見えるのですが、▲6四歩などとされると案外暴れる効果も薄いのでしょうか。小技を出すかのようにしれっと厳しい手を放つところにマホさんの強さを感じます。
 茸さんとしてもここを突破されては厳しくなることが予想されますから、手段を尽くして受けに出ます。銀を引いてから▲6五歩と蓋を閉め返す手にマホさんは△7二飛と転換。さきほど打った▲7四歩の効果で稼いだ時間をうまく使いたいところですが、ここは4筋で取り返された歩をしっかり交換しておいて次の攻撃に備えます。△7四飛と飛車筋がしっかり通って第3図の局面。さすがに左辺はマホさんが優勢と見ていいのではないでしょうか。となると後手としてはどう突破するか、先手としてはそれをいかに防ぎながら反撃の味を作るかがポイントですね。選択肢が多いと迷いが出てしまうところですが、ここまでの読み合いで既に消費時間が削れています。茸さんは少し前から秒読みに、マホさんも持ち時間が5分を切りました。時間が無いなかで、盤上の戦は止まることなくその歩みを進めていきます。

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突破口を開く

第3図以下の指し手
▲7六歩 △同 銀 ▲6六角 △8七銀成(途中4図)
▲同 金 △7八飛成▲2九飛 △8七龍
▲2四歩 △同 歩 ▲2五歩 △同 歩
▲同 桂  (第4図)

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 ▲7六歩△同銀と近づけてから▲6六角とかわす構想は部分的には有力な形で、後手の侵攻を少しでも遅らせる狙いがありました。ですがマホさんはここを決め所と睨んだか、ずばり△8七銀成(途中4図)と飛び込みます。▲7五歩も△同角となればあまり意味もなさそうで、▲7九金と引くようでは防戦一方の感があり辛いところ。バッチリ決めるマホさんの強さを目の当たりにしました。茸さんは▲8七同銀から飛車の突破を許す苦渋の決断。手の流れに乗って飛車を2筋に呼び戻し、どうにか反撃のタイミングを伺います。金を取られたところで▲2四歩~▲2五歩の継歩から▲2五同桂がその反撃。左辺から迫る敵軍をどうにか凌ごうというのが第4図の局面。マホさんはどのようにこの先手陣を攻めていくのでしょうか。

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大駒を標的にするテクニック

第4図以下の指し手
△2七歩(途中5図)
▲同 飛 △2六歩 ▲同 玉 △2六歩
▲同 玉 △2四銀 ▲4五歩 △7六龍
▲4四角 △同 金 ▲同 歩 △5三角
▲3七玉 △2八歩 ▲同 飛 △4四角(第5図)

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 マホさんが何もないようなところに打ち捨てた、この△2七歩(途中5図)がとても厳しい一着でした。指されてみるとなるほど、次に△2八金と王手飛車をかけられては終わってしまいます。かといって▲2七同飛では△8一龍がありますし、玉を逃げるようでは結局△2八金と打たれて困ります。▲2七同玉を強制させるという意味では、実質的には叩きの歩になっているんですね。何もないところから3手先のイメージを描くことが出来るか・・・糸谷八段が言ったという「読む手を思い付くための感覚」がまさに必要な一手だったのではないでしょうか。
 本譜は▲2七同玉から△2六歩とさらに叩き、△2四銀で玉頭を圧迫します。▲4五歩が角のラインを活かそうとする必死の抵抗ですが、△7六龍と先着する手がありました。▲4四角と飛び出て手番を握る茸さんでしたが、継続の△5三角が後手玉を睨む好配置。▲3七玉の早逃げに△2八歩~△2六歩とまたしても飛車を標的にして第5図。マホさんが手番を握り続けて、本局の最終局面へと移っていきます。

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A1の連勝が続く

第5図以下の指し手
▲3五歩 △同 銀 ▲3三桂成△同 桂
▲2一銀 △4三玉 ▲2三飛成△2六角
▲3八玉 △3七金 ▲4九玉 △7九龍
▲5九金打△4八歩
まで、102手で夢乃マホさんの勝ち

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 ▲3五歩と角道を止める手に△同銀と出る手が好手で、2六の地点の枚数が増えたことで最後の詰み筋への入口がはっきりしました。先手の飛車のラインが直通しますが、ここに至っては後手玉も広く寄りはありません。最後は龍もしっかり活躍しての詰み上がり。1局を通して実力を如何なく発揮したマホさんが堂々の勝利となりました。

 本局は本当にマホさんの技が光りましたね。2回あった金打ち含みの垂れ歩が実に印象的でした。ああいった間接手風の手は今の私には理解するのがやっとですので、近いうちに引き出しの中に入れておきたいなと思います。厳しい小技のレパートリーが増えれば増えるほど、目の前の局面の見え方が変わってくるんだろうなぁ・・・。いつか自戦記を書く機会があったときに、この記事(棋譜)を引用して「あの団体戦を見て勉強したやつです!」と発表できるよう頑張りたいですね。残る8局の戦いにも学びはたくさんありそうですし、やはり観戦記執筆は棋力向上にもつながる良い試みなのではないでしょうか!自分自身の飛躍にも思いを馳せつつ今回はこの辺りで。ありがとうございました!

令和3年2月21日。
やきそば

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