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将棋観戦記#6~A1A3団体戦第6局 hastoさんvsひややっこさん~

 みなさんこんにちは、やきそばです。スローペースでお送りしております本団体戦の観戦記シリーズ。まだまだ道のりは長く、本局で全12局中の6局目。ようやっと折り返し地点までやってきました。あの頃の熱闘が遠い昔に感じられますが、だからこそ味わえる感慨がそこにはあるはず。なんて遅い更新に自分で言い訳を作ってみたり。なにはともあれ81マスに詰め込まれた戦いを見ていくとしましょう。
 この団体戦は昨年に第5期が終了したオンライン将棋大会「指す将順位戦」のスピンオフ企画でしたね。本家「指す将順位戦」は現在第6期が募集中!ぜひぜひ大会へのご参加もよろしくお願いします!

棒銀党が強敵に挑む

A1A3団体戦第6局
令和3年2月7日22時00分
於・将棋倶楽部24 大阪道場「自由対局室」
▲ひややっこ △Hasto(持ち時間各15分、秒読み60秒)※敬称略
▲2六歩 △3四歩 ▲2五歩 △3三角
▲5八金右△8四歩 ▲7六歩 △2二銀
▲3三角成△同 銀 ▲8八銀 △8五歩
▲7七銀 △6二銀 ▲3八銀 △7四歩
▲6八玉 △6四歩 ▲2七銀 △6三銀
▲2六銀 △1四歩(第1図)

 本局の先手番はA級3組のひややっこさん。B級2組からコツコツと昇級を重ねてきた古参の棒銀党です。A級3組初登場となった今期は混戦のリーグにおいて6勝5敗と勝ち越し、A級でも自力が通用することを示しました。さらに上位となるA1相手にも得意の棒銀を繰り出して、果敢に勝負を挑みます。それを受けて立つのが後手番のHastoさん。他棋戦では最上位クラスに在籍経験のある強豪です。初参加となる指す順ではA級1組の層の厚さを前に4勝7敗と苦しみましたが、入れ替え戦に勝利してA級1組の座を死守。ここ一番で踏ん張る勝負強さを見せました。
 本局は5手目▲5八金の立ち上がりが印象的でしたが、進んでみれば正調角換わりになりました。真っ直ぐと棒銀を志向するひややっこさんに対して、Hastoさんは△6三銀型と構えてじっくり迎え撃つ作戦。△1四歩と銀の進出を一旦止めて第1図ですが、ひややっこさんが▲7八金を手抜いて速攻棒銀に打って出ているのが特徴的ですね。▲3三角成と先手から角を換えるようになった最序盤の手順が影響しているのでしょうか。同じ正調角換わりでも、歩や金銀の配置、角交換のタイミングによって最序盤の雰囲気に違いが現れるのが将棋の面白さですね!

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突進する銀、異筋を通す角

第1図以下の指し手
▲1六歩 △3二金 ▲1五歩(途中1図)△同 歩
▲同 銀 △5四角 ▲3六歩 △同 角(第2図)

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 先手は▲1六歩~▲1五歩(途中1図)と端から攻めていきます。いわゆる端棒銀と呼ばれるもので、香車を残す事で端を突破する破壊力抜群の攻め筋ですね。棒銀というのは数の力で敵陣を破る、いわば将棋の基本的なセオリーを教えてくれる存在です。それが端棒銀では駒損しながら攻めを繋げるという、半ば例外的な指し方が登場します。基本と例外を同時に教えてくれる棒銀には、将棋のエッセンスが詰まってるのでしょう。そのわかりやすさと奥深さで、初心者から熟練の猛者まで幅広く将棋ファンを魅了してきたのでしょうね!
 端棒銀は先手が香車を走ってから後手にうまい切り返しがあるか否かという将棋になるイメージ。しかし後手のHastoさんは▲1五同銀と出た瞬間に切り札を披露しました。それが△5四角です。2七の地点、1八の地点両方を遠く睨む自陣角。棒銀の攻めを根元から止めてしまおうというのが狙いなのでしょうか。実際△5四角に▲2四歩△同歩▲同銀とするのは、△2七歩と止められると飛車銀両取りが掛かってしまいます。
 先手は▲3六歩△同角(第2図)の交換を入れるのが工夫。▲3八飛の転回を角当たりにしようという狙いなのですね。このあたりにひややっこさんの経験の深さが感じられます。

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捌きを受け入れる

第2図以下の指し手
▲2四歩 △同 歩 ▲同 銀 △同 銀
▲同 飛 △2三歩 ▲3四飛 △4五角
▲3五飛 △4四銀(第3図)

 先手は先述の切り返しを用意できたので▲2四歩を決行。後手のHastoさんにとっては悩ましい展開が続きます。しかしひるんではいられないのも事実。△2四同歩から総交換の手順に進み、▲3四飛には△4五角~△4四銀(第3図)と徹底して飛車を狙います。
 第3図は棒銀が捌けてひと目には先手が良さそうな局面。しかし先手陣も未整備といえば未整備。ひとたび攻めを誤れば、その分大きな反動も待ち構えていそうです。

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やったか!?

第3図以下の指し手
▲4五飛 △同 銀 ▲1一香成△1九飛
▲2一成香△2九飛成▲8四香(途中2図)
△5二飛 ▲8三香成△4二玉(第4図)

 先手は意を決して▲4五飛と飛車角交換に切り飛ばし、▲1一香成と香車を拾います。ここで小駒を拾い上げる一手に先手の次なる狙いが秘められていました。対してHastoさんは手番を握って△1九飛。遠く成香を狙うことで手順に△2九飛成と龍作りに成功。縦横から飛車を効かせて、ひややっこ陣にプレッシャーをかけますが・・・。

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 その瞬間を先手は逃しませんでした。▲8四香が目の覚める一着でしたね!取れば当然▲9五角の準王手飛車があり、△8三香▲8四角△同香▲8二飛となれば一転先手から挟撃形となりたちまち先手勝勢になります。飛車取りを受けるなら△8三桂の間駒ですが、これも▲9五角と打てば次に▲9三香成と空き王手の狙いが残りそうです。本譜は△5二飛と逃げる手に▲8三香成とするのがまた好手。私ならついつい▲8一香成と桂を取って喜んでしまいそうなところですが、成香を8三に配置することで効率よく後手玉を挟み撃ちにしていくのですね。
 ひややっこさんはこの辺りを一手一手確かめるように時間を使いながら指し進めます。ギャラリーからは火の手が上がり始めた後手陣を前に、ついにA1の連勝を止める時がきたのではとざわめきが聞こえ始めました。

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確実な寄せ

第4図以下の指し手
▲1一角 △5一飛 ▲3三歩 (途中3図)△同 金
▲3一角 △同 飛 ▲同成香 △3二歩(第5図)

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 △4二玉の早逃げに▲1一角が玉を包みあげる丁寧な一手。持ち駒に乏しい後手は粘る手段を求め、△5一飛と成香に当てます。1一にいるのはあくまで生角。一瞬ヒヤッとしますが▲3三歩(途中3図)と投入するのが冷静な攻めで勉強になります。△2一飛には▲3二歩成△同玉▲2三銀△4一玉▲4二金で詰み。3三の地点で清算を目指さないのが寄せのコツなのでしょう。私ならつい▲3三銀と投入して、入玉模様にしてしまいそうです。
 本譜の△3三同金への対応が気になりますが、▲3一角と取られそうだった成香を土台に打ち込むのが見事な一手。玉が逃げれば▲3三角成で分かりやすく勝てそう。そこで後手は△3一同飛▲同成香の清算模様に対して△3二歩と支えます。易々とは倒れるわけにはいかない。手順を間違えようものなら攻めを切らしてしまおうとHastoさんは粘る姿勢を崩しません。

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A級3組に1勝のランプが灯る

第5図以下の指し手
▲4一飛 △5二玉 ▲3三角成△同 歩
▲4四桂(途中4図)△同 歩 ▲4三金 △6二玉
▲4二飛成△5二桂 ▲5三金
まで69手でひややっこさんの勝利
(消費時間=▲11分、△4分)

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 ひややっこさんが棒銀と共に研ぎ澄ませてきた終盤力は、確実にHastoさんの玉を追い詰めていくのでした。▲4一飛~▲3三角成の手順から、決め手に迷いそうなところで▲4四桂!詰めろ詰めろで迫っても先手勝ちは揺るがない局面ですが、しっかり即詰みを読み切りました。▲4三金と先に金から投入し、一間龍を活かした▲5三金を見てHastoさんが投了。棒銀からひややっこさんが攻め切り、A3が待望の1勝目を挙げました!

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 本局は終始ひややっこさんの技巧が光った1局でしたね。Hastoさんの工夫を咎め、力を出させない指し回しは本当に強者のそれ。遠くの観戦席(?)から1手1手に歓声を上げておりました。Hastoさんとしては実力を発揮できない悔しい将棋に。Hastoさんがリベンジの思いを指す順にぶつける日は少し遠くになりそうですが、その日が訪れるのが今から楽しみですね!いつ起こるかと期待されていたジャイアントキリングは、6局目に成し遂げられたのでした。
 これにて折り返しとなりますA1A3団体戦観戦記シリーズ。本当に指す順の開幕までに終わるのか怪しくなってきたので、更新予定日を公開する手筋でうまくスピードアップを目指していきたいと思います。もちろん、それより遅くなっても大丈夫!(根拠の無い自信)一番大事なのは完走させることですからね。相変わらず無責任な文章で、対局者の皆さまにご無礼を働きながらこのシリーズは成り立っております。どうかどうか、生暖かい目でこれからもお読みいただければ幸いです!では次は遅くとも4月29日の間に!

令和3年4月18日 やきそば

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