弾丸広島紀行~指す順7th打ち上げ~

 日本列島を凍えさせた大寒波の終わり、2023年1月28日に私はひとり広島へ向かいました。待ち望んでいた指す将順位戦の打ち上げが開かれるということで、帰省以外ではコロナ禍始まって以来の宿泊旅行です。

 「指す将順位戦」というのは将棋ファンの有志がオンライン上に集い、プロの大会「順位戦」を模して遊ぶ試み。私は2019年の第4期から数えること4回連続で参加しています。例年、閉幕後に参加者の一部が声を掛け合って各地で打ち上げを行っていたそうですが、このご時世で久々の開催となりました。冬の牡蠣を堪能すべく、時節をずらして冬に行うのが広島オフの特徴。久しぶりの新幹線にもわくわくする早朝でした。

雪残る旅路、降り立つ広島の街。

姫路駅手前ぐらいで撮影。市街を少し外れると雪も多い。

 現地の「将棋ひろば」への集合時刻は13時。入りの時間は自由に決められるので、途中まで在来線に乗って交通費をケチる案もあり悩みました。結局仕事の疲れが取れず、新幹線にフル乗車することに。この週はひどい寒波に襲われていて、関西では数日前に広域で鉄道がストップする事態にもなっていました。在来線・新幹線ともに元気に動いている様子で一安心。
 久々の新幹線。改めてその速さに驚きます。東京方面への利用は何度かありますが、山陽新幹線は人生で初めて。新神戸着が早すぎてびっくりしましたね。在来線だとまあまあかかるのになぁ。

旅人を迎え入れるはマツダスタジアム。そういえば新幹線が近いのが有名だった。

 1時間半ほどで広島に到着。見慣れぬ車窓を眺めていればすぐに時間は流れます。駅に降り立ち最初に向かったのは駅構内のお土産屋。翌日の帰りで迷っていては時間がかかるだろうと思い、あたりをつけるために物色します。お土産物って本当に選ぶのが難しい。尾道ラーメンに少し惹かれつつも、甘い系が無難かななどと思いながらお菓子コーナーを見回るのでした。

路面電車って風情があるなぁ。

歩道橋が良い感じに架かっていた。

 改札を出て、まず目についたのが在来線のきっぷ売り場。遠出先の駅の運賃表って、見慣れない路線図や知らない地名があって僕は好きです。見てみると地元と同じJR西日本なので、路線は違えどフォントやデザインが一緒で少し感動したのを覚えています。
 そこで思い出したのが遠縁の親類に会いに行った数年前の富山旅行。富山駅がJR西の青い駅名標をしていて、東海道新幹線のあのオレンジとは違う!とびっくりしたんですよね。そんな記憶もよぎりつつ、外に出ると路面電車の広島駅がお出迎え。あれはテンションが上がりますねえ!すぐに乗りたい気持ちをグッと堪え、チェックインのため先にホテルへ向かいます。路面電車に出くわした衝撃で、逆方向に歩きだしてしまったのも良い思い出。

昼食、急ぎ足で集合場所へ

 ホテルにリュックサックを預け、オフ会を主催されるのののさんとDMでやり取りしつつ広島市街を歩きます。お土産屋でラーメンを見て麺類の口になっていましたが、せっかくなので広島らしくお好み焼きを食べることに。あなごめしと迷いましたが夜がごちそうなのでね。予算的にもリーズナブルなお好み焼きはランチにぴったりというわけです。

やきそば入りの「肉玉そば」を注文。ボリューミー!

 グーグルマップで何軒か調べつつ、市街を歩き回って「そり家」というお店に入ることに。おススメの食べ方がモダン焼き風だったので、それに倣って注文。カウンター席で隣に座ったお客さんが牡蠣玉を注文していた様子で、それを見て手拍子の悪手だったかとちょっぴり後悔。でも夜が牡蠣だからね、楽しみは取っておくのが良いに違いない。結果的には力を溜める好手だったと思います。このそり家、店主の方がとても気さくで、お客さんと楽しそうに世間話をしています。常連さんなのかなぁと思って聞いているとどうやらそのお客も遠方からのお客さん。自然と僕も混ざって、この寒波の大変さを分かち合っていました。後からきた常連さんとも仲良くお話されていて聞くだけでとても楽しい。ただゆっくりしている時間もなく、名残惜しい気持ちを抱えながらも路面電車の道順を調べてお店を飛び出します。ああ、もう一度広島へ行く機会があれば今度はゆっくり夕食で頂きたいお店だった。

0次会は将棋ひろば


1枚だけ盤面の写真を残してあった!

 走って路面電車の駅(バス停よろしく電停っていうんですってね。)まで向かうと、そこには発車直前の電車が。ですが将棋ひろばのある方面には向かわないようで、慌てて降りることに。あわあわしつつも無事に正しい路線の電車に乗り込み、車内をキョロキョロ見渡しながら到着を待ちます。道中、「原爆ドーム前」駅に停車。そんなナチュラルに世界遺産が出てくるんだ!?とびっくりしながら車窓の外をのぞき込みます。観光客感丸出しですね。遺構とはいえ元々市街地の建物ですから、まあ電停になっているのも自然な話です。
 最寄り駅を降りて、大通り沿いに向かうとビルに「将棋ひろば」の文字を発見。2階にあるらしく、入り口の前でみんなの集合を待ちます。しばらくすると、参加者の一人にして今期同クラスのB2を戦った”よ”さんが現れてまずは一安心。直後にひろば内で待機されていたB級1組のあおまさんにお声がけ頂き、ひとまず3人で広場の中へ向かいます。
 中には子どもとご老人が十数名といった様子。対局に打ち込んでいる姿や、休憩所のようなところで棋書に読みふけっている姿も目に入ります。あおまさんから将棋ひろばについて教えてもらっていると、やがてそこに兜さんがいらっしゃいました。偶数人になったところで対局開始。将棋が始まると一気にスイッチが入るのがいかにも指す将という感じ。対局に感想戦に花を咲かせつつ、一人、また一人と参加者がじわじわ集まっていくのもまた楽しい光景でした。
 やはりというか、印象的だったのはのののさんですね。普段から通話で仲良くさせてもらっていたこともあって、声を聴いて一瞬で誰だかわかった。互いに初対面同士が多く、少し緊張気味なところを、のののさんのひょうきんさでみんなどんどんほぐされていきました。今回のメンバーでは島ノ葉さん・和さん以外は初めてお会いする方ばかり。逆に島ノ葉さんに対しては気心知った感をとみに覚えてめちゃくちゃ馴れ馴れしくしてしまった気がする。僕は途中で休憩もとい抜け番に回ったのですが、皆さん長旅を物ともしない集中力で大熱戦を演じておられました。ドラキーさんと兜さんが2時間近いんじゃないかという激戦を繰り広げていたのが忘れられません。みんな将棋が好きなんだなぁ。

牡蠣うめー!飲み会たのしーーー!!


お刺身って幸せ。

 夕方までひとしきり将棋を指して、それから交通手段ごとに別行動をしつつ予約の居酒屋へ。海鮮系中心でどの料理もおいしかったですね~~。お酒の弱い僕は翌日を考えてノンアルビールとコーラを連打。ずっと素面でしたけど、みんなでワイワイ酒盛りをしているあの空気感こそが楽しいので大満足ですね。あと意外にもアヒージョが出てきて、それがおいしかった。あんまり食べたことなかったけど美味しいですね。旅館の小鍋よろしく用意されてたのがアヒージョ、というのもちょっとツボ。

牡蠣がうめーんだわ!

 飲み会ではうぃるさんの陽気な語り口が印象的でしたね。”若くて明るいお兄さん”という会う前のイメージを覆して、”若くて明るいお兄さん”な姿を知ることができました。一緒だって?いや違うんだなぁ~。
 みんなとひとしきりいろんな話をしましたね。それぞれの将棋のこと、指す将順位戦のこと、地元のことetc…。リアルの事を深く話しすぎないオフ会独特の距離感。これがまた居心地が良いんですね。将棋仲間って身近なところでは少なくて、だからこそ好きな棋士やら戦法やら、将棋にまつわる話に大いに盛り上がれる場が楽しいよねと。これはみんなが口を揃えていたことでした。そして皆さんそれぞれ種類の違う優しさを感じましたね。口調やしぐさ、さり気ない気配りであったり、一人ひとり違う魅力が引き出されていくような、楽しい語らいの場でありました。みんなのことをもっともっと語りたいけど、あの場だからこその楽しみもあるので残りは内緒ということで。

牡蠣おかわり。夜が更けて。

すんげーうまかった(小並感)

 酔っ払いたちの勢いに任されて2軒目へ。事前に決めていたわけでもなく、その場の流れで入っていくことになったお店でしたが牡蠣がすんごく美味しかったですね、焼き牡蠣・生牡蠣・牡蠣フライと思い思いに堪能しました。僕は生食にビビって(別に当たる物でもないとは知ってるんですけど!)もっぱら焼き牡蠣でしたが、いやいや香りも味わいも濃厚でおいしかった。生食向けにと提供された「レモスコ」が焼き牡蠣にも合いましたね。写真のものはかき醤油で頂きましたが、それもまろみがあってとてもよきよき。ここでもいろんな話で盛り上がりましたが、一番覚えているのは牡蠣のうまさかも・・・。
 何名かは3次会と称してカラオケに向かいましたが、既に遅い時間だったので僕はホテルへ戻ることに。ただホテルについてからもしばらく眠れなかったから、それならカラオケも行っちゃってよかったかもなぁ。

広島の朝はまぶしかった

朝日に照らされる原爆ドーム。

 1時就寝6時起床。夜にお風呂に入り損ねたのはずいぶん久しぶりのこと。朝シャワーを浴びてホテルの朝食へ。時世柄なのか使い捨てのお弁当箱に取り分けていく形式だったのが、フタの部分をメインの皿と勘違いして周囲の倍量をよそってしまい、後からそれに気づいて一人で勝手に恥ずかしくなったのは内緒。
 この日は地元で妻と買い物に行くので、それに合わせて朝から広島を発つ予定。ところがすんでのところで思い立って、せめてここだけでも見ておかねばと原爆ドームまで向かいました。朝とはいえ日曜日。まばらに観光客もいましたね。川を挟んで向かいに佇む、という印象が強かったものですから、建物のすぐ近くでは市街地のなかの施設というイメージが新たに刻まれました。有名な場所へもっともっと旅したいなと思う朝の帰り道でした。

会いたい人に会うよろこび

なんでもない道端の写真。広島市のマークを納めたくて。

 とんぼ返りで広島駅に戻り、結局ベタにもみじまんじゅうを買って、妻の待つ地元のショッピングモールへ。合流してカフェに入り昼食をとりました。結婚して以来初の旅行が一人旅というのに躊躇いがあり、参加を悩む気持ちもありましたが、楽しそうに土産話を聞いてくれる妻の姿に救われました。二人で一緒に経験を分かち合うのが大切だと思っていたけれど、それぞれの出来事を共有する尊さも人生を豊かにしてくれますね。帰宅してから急にさみしくなって、それから2,3日は旅を思い出しては独特の寂寥感を噛みしめていました。今これを書きながら、もう一度旅情に思いを馳せているところ。
 出不精なはずの自分の、旅好きな側面に触れた広島旅行でした。少人数が好きなはずの自分の、人好きで賑わい好きな側面に触れた打ち上げでした。身近な人を大切にするのは当然のこと。けれども、その狭い世界から踏み出して、外に鮮やかな経験を求めることの良さを改めて味わいました。学生時代や、新卒すぐの頃に知っていたはずなのになぁ。いつの間にか忘れていた気がします。頻繁には遠出もできないけれど、会いたい人に会いに行く、見たい景色を見に行く人生を歩んでいきたいものです。
 最後になりましたが、今回の打ち上げを企画して下さったのののさん、楽しい時間を共有できた参加者の皆さんに感謝の気持ちを改めて述べて結びとします。幸せな時間でした。

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