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将棋観戦記#5~A1A3団体戦第5局 えびてんさんvsKitchieさん~

 みなさんこんにちは、やきそばです。数々の熱戦が繰り広げられたA1A3団体戦。終幕からしばらくの時が経過し、この観戦記シリーズも更新が遅れてあっというまに3月後半ですね。本稿では遡ることひと月以上前、2月7日に行われた第5局の模様をお届けして参ります。
 観戦記は自分の将棋ではないだけに、しっかり指し手の意味を読み解く必要性があって勉強になりますね。盤上に何を思い、どのようにして戦ったのか。勝利の道筋をどのように描き、あるいは敗北の運命にどう抗ったのか。その全てを語ることは私にはできませんが、振り返るべき点はきっとたくさんあるように思えます。本格的な春の到来を感じる今、晩冬に火花を散らした戦士たちの足跡を辿っていくことにしましょう。

先手三間飛車

A1A3団体戦第5局
令和3年2月7日21時00分
於・将棋倶楽部24 大阪道場「自由対局室」
▲Kitchie △えびてん(持ち時間各15分、秒読み60秒)※敬称略
▲7六歩 △8四歩 ▲7八飛 △8五歩
▲7七角 △3四歩 ▲6六歩 △6二銀
▲6八銀 △4二玉 ▲4八玉 △3二玉
▲3八銀 △6四歩(第1図)

 本局の先手はA級3組所属のKitchieさん。今期は苛烈な残留争いにあって4勝7敗で入替戦に。その後惜しくも降級が決まっています。前回企画ではB3のファンタさんと対戦。ファンタさんの得意形を受けて立ち、逆転させない指し回しで勝利を収めています。後手番にはA級1組のえびてんさん。レート1900台の強豪ですが、並み居る強敵がひしめく今期A1では苦戦を強いられました。2勝9敗の成績で降級となっています。奇しくも辛苦を味わった2人が盤上に相まみえることとなりました。

 Kitchieさんが3手目に▲7八飛。ぐるりと回って戦型は三間飛車に決まりました。Kitchieさんといえば、私のなかでは二枚銀が得意な居飛車というイメージ。角道を止めるノーマル三間というのは当時意外に思っていた記憶があります。対して△6四歩と突いた第1図の時点では双方よく見かける序盤戦。ですがこの直後、戦いは激流に呑まれていくことになります。

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超・超急戦!!

第1図以下の指し手
▲5八金左△6五歩(途中1図)
▲同 歩 △7七角成 ▲同 銀 △2八角
▲6八飛 △1九角成(第2図)

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 いきなり△6五歩!!本局はわずか16手で戦端が開かれました。入城していない美濃囲いに対して突く形ではありますが、これは超・超急戦と呼んで差支えの無い早仕掛けではないでしょうか。後手からは力でねじ伏せてしまおうといった意気を感じます。しかし実際先手は対応が難しいところ。ここで▲6五同歩は角交換から△2八角が見えており、それを越える良さをどこに先手が見出すか。穏やかに行くなら▲6七銀と立つ手もあったでしょうが、本譜は角の打ち込みを受け入れる▲6五同歩。玉不在の美濃を狙った角打ちには、▲6八飛と寄って歩切れの6筋を攻める作戦を選択しました。激しいやり取りが行われ、盤上は突如として決戦の様相を呈します。

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不退転の突進、翻る金

第2図以下の指し手
▲6四歩 △5二金右
▲6三角(途中2図)△同 銀
▲同歩成 △4二金寄(第3図)

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 先手は敵陣に目がけ6四まで真っ直ぐに歩を伸ばします。△5二金右と好形から数の論理で受けきってしまおうという後手。決して焦らず、攻め合いを選ばない強かな立ち回りが感じられます。それでも攻めの炎を絶やすなと言わんばかりに▲6三角(途中2図)。この角はきっと駒音高く打ち込まれたことでしょう。
 さて清算して先手も龍を作り、本格的に攻め合いムードになってどうか・・・と思いきや、ここでえびてんさんが柔軟な指し手を見せました。△6三同銀▲同歩成に△4二金寄(第3図)がなるほどの一手。標的となる金駒を逃がす好判断が光ります。先手としては美濃が健在の間にどこまで攻めの手段を講じられるか。ひらりとかわされると、手を探すのがなかなかに難しいですね。こうして攻め合いまでのカウントダウンが始まります。

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美濃破れてと金在り

第3図以下の指し手
▲6二歩 △2八香 ▲3九金 △1八角(途中3図)
▲6一歩成△2九香成▲同 金 △同角成
▲同 銀 △同 馬(第4図)

 第3図からKitchieさんの決断は▲6二歩。攻め駒が少ない現状を打破すべく、垂れ歩から来るべき攻めの火力を上げていこうという狙いでしょうか。手数のかかる攻撃手段だけあって、えびてんさんもこの瞬間を好機と見て△2八香。シンプルな攻め合いにシビれますね!本譜は▲3九金と一旦受けて、△1八角(途中3図)と後手はさらにもう1枚投入。数の攻めでしっかり美濃囲いを破ろうとします。

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 個人的に気になったのは▲3九金に代えて▲6一歩成。△2九香の瞬間は銀に当たっていないので、どうにか攻め合えないかという魂胆ですが、後手に角を持たれたままなのが気になるでしょうか。えびてんさんが持ち駒を一旦使い切ったところでKitchieさんが▲6一歩成を決めます。以下は一直線に2九の地点で清算が行われて第4図。Kitchieさんのと金攻めが間に合うか、えびてんさんが玉を寄せ切るか、クライマックスが近づいてきました。

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玉の腹から銀を打て

第4図以下の指し手
▲7一角 △5五桂 ▲5六銀 △3八銀(途中4図)
▲5九玉 △4七桂成▲8二角成△4六金
▲5三と △5八成桂▲同 飛 △4七銀不成(第5図)

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 どうにか攻めを間に合わせたい先手。▲7一角から飛車取りをかけつつ5三の地点に圧力をかけます。しかしここはさすがの速度計算。飛車取りは遅いと見切って△5五桂が寄せの第一弾。ふんわりと打った桂が実に厳しいですね。▲5六銀で打った桂馬が浮いているようですが、そこで△3八銀(途中4図)が習いある手筋の一着。端から玉を追い込む腹銀は一見追いかけるようでやりにくいですが、これは△4九金までの詰めろ。玉が逃げたときに4七の地点に数がたくさん効いており、上部脱出が難しくなっているのが先ほどの桂打ちの効果。馬1枚の手がかりから急所をおさえて一気に喉元へと迫ります。
 その後の△4七桂成には▲8二角成と根性の手抜きを見せるKitchieさん。続く△4六金にも▲5三と。どうにか、どうにか反撃が届けようと敵玉へにじり寄っていきます。ですが△5八成桂~△4七銀不成が飛車を標的にした攻め筋で、えびてんさんが厳しい追撃を決めます。

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えびてんさんが押し切る

第5図以下の指し手
▲6二飛 △5八銀成▲同 玉 △5六金
▲同 歩 △同 馬 ▲4二と △同 銀
▲6七金 △4八飛
まで60手でえびてんさんの勝利
(消費時間=▲15分、△10分)

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 △5八銀成から△5六金が明解な決め手でした。歩頭に金が出る手は金銀交換とはいえ一瞬見えづらい形。しかし玉を上から押さえつけるのは寄せの基本であり、▲5六同歩も△同馬とのしかかって逃げる余地を与えません。馬の守りは金銀三枚と言いますが、寄せにおいても金駒数枚分の輝きを放ちます。最後は△4八飛と即詰みの筋に入りゲームセット。えびてんさんが急流を制しての勝利となりました!

 本局は両者の力強い指し回しが楽しい一局でした。短手数決戦らしい踏み込みが面白く、えびてんさんの華麗な寄せが印象的でした。あんな風に急所を読み取る嗅覚が欲しい!とついつい思ってしまいますね。攻めをひらりとかわす△4二金寄など、60手の中に散りばめられた好手をぜひとも吸収していきたいです。Kitchieさんとしては猛攻が不発に終わってしまったのが悔しいですが、パワフルな6筋突破の一点攻勢は非常に魅力的でしたね。もっと対局を見てみたいなあと思ってしまいます。団体戦の次は何かないんですか!?
 これで団体戦はA1側の5連勝。リーグ間を隔てる分厚い壁を感じる結果になりましたね。続いては本企画のターニングポイントになったであろう第6局。こちらもしっかり棋譜を振り返っていきたいなと思います。書き上がる頃には来期の指す順が開幕してそうなこの観戦記ですが、ゆっくりじっくり書いて参りますのでどうぞよろしくお願い致します!

令和3年3月21日 やきそば。

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