見出し画像

【高校生物基礎】第1講「生物とは何か?」

~プロローグ~
これから一緒に、生物学について、深く楽しく学んでいこう。生物学は自分には関係ない、などと思わないでほしい。何を隠そう、あなた自身が、生物物理学・分子生物学・生化学・細胞生物学・発生生物学・遺伝学・生理学・解剖学・免疫学・動物行動学・社会生物学・分類学・進化生物学・生態学・保全生物学・宇宙生物学に関する膨大な研究成果の根拠、生物なのだから。




★テストに出やすいワード
①真核細胞
②原核細胞
③独立栄養生物
④DNA
⑤代謝



要点:生物は真核生物と原核生物に分けられる。


(1)地球上の生物


● 地球では、さまざまな環境に生物が生息している。現在までに、約190万種の生物が確認されている。

● 地球上の生物は、DNAが核膜で包まれていない細胞(原核細胞)からなる原核生物と、DNAが核膜で包まれている細胞(真核細胞)からなる真核生物に分けられる。


生物は真核生物と原核生物に分けられる。


画像20




(2)真核生物


● 真核生物には原生生物(ゾウリムシなど)、植物(サクラなど)、菌類(マツタケなど)、動物(ミジンコなど)が含まれる。

植物:色々定義はあるが、高校生は、陸上植物(コケ植物・シダ植物・種子植物[裸子植物+被子植物])のことと考えてよい。

菌類:従属栄養生物で、体外消化(酵素を放出して食物を体外で消化し、栄養分を吸収する)を行う。(正確な表現ではないが)キノコ・カビ・酵母菌などが菌類の仲間と考えてよい。

原生生物:植物・菌類・動物以外の真核生物(単細胞生物の真核生物なども含まれる)のことと考えてよい。ゾウリムシ、アメーバ、ミドリムシなどが原生生物の仲間。


画像19



雑談:動物は、主に摂食によって栄養分をとる従属栄養生物。イヌやヒトと聞けば動物とわかると思う。しかし、厳密な動物の定義は非常に難しい。「動く生物」を動物と定義することはできない。ほぼすべての生物は動く。よく考えてみれば、動物の共通形質(コラーゲンを合成すること、ホックス遺伝子群をもつことなど)はそれほど多くないことに気付くだろう。




(3)原生生物


アメーバやゾウリムシは、菌類のようでもあり、動物のようでもある。ミドリムシは、ぐにゃぐにゃと動き回るが、葉緑体をもち、光合成を行う(動物のようでもあり、植物のようでもある)。生物学者は、これらを原生生物(げんせいせいぶつ)に分類した。


雑談:原生生物は、真核生物のうち、植物・菌類・動物以外の生物である(現代では、厳密な分類では用いられない用語である)。たとえばゾウリムシやアメーバやミドリムシは、植物にも菌類にも動物にも似ていない。だから、昔は、それらを原生生物に分類した。たとえるなら、原生生物は、動物でも植物でも菌類でもない「その他」または「なんでもごちゃ混ぜグループ」である。基本的に単細胞の真核生物は原生生物に分類される。非常に多様な生物が原生生物に含まれるが、テストに出る生物名は、教科書や資料集に記載されている有名なもののみである。原生生物のうち、捕食・移動を行うものを原生動物と呼ぶこともある。下図はイメージ。

ゾウリムシは原生動物である。原生動物は原生生物の1グループであり、原生生物は真核生物の1グループである。





(4)原核生物


● 原核生物には、細菌(大腸菌、乳酸菌、シアノバクテリアなど)が含まれる。

*シアノバクテリア(ラン藻とも呼ばれる)には、ネンジュモ(イシクラゲはネンジュモの一種)、アナベナ、ユレモなどが含まれる。

雑談:シアノバクテリアの分類は難しく、その分類体系は流動的である。正当な学名も少ない。

雑談:ネンジュモ(原核生物のシアノバクテリア)の一種、イシクラゲは、たまにコンクリートの上にも見られる。一見ワカメ(真核生物の藻類)のように見えるが全く別の生物。

雑談:昔、地球には遊離の酸素はほとんどなかった。今から約27億年前に、シアノバクテリアが酸素発生型の光合成をはじめた(もともと、酸素は生物にとって猛毒なので、これは生物によって行われた最初の大規模な大気汚染とも言える)。その後、呼吸を行う原核生物(好気性細菌)が現れたと考えられている。

雑談:シアノバクテリアの繁栄により、海水中→大気中に酸素が蓄積していった。やがて、酸素を利用して有機物を二酸化炭素と水に完全に分解し、エネルギーを効率よく取り出す好気性の生物(好気性細菌)が出現した。①まず酸素は、海の中で鉄イオンと反応し、酸化鉄として海に沈殿した(しま状鉄鉱層[しまじょうてっこうそう]になった。現在、鉄鉱石は、しま状鉄鉱層から供給されている)。②やがて大気中にも酸素があふれ、大気の組成が変わった(酸素が増加した)。③酸素は紫外線によりオゾンに変わり、オゾン層が発達した(オゾン層は陸上に降り注ぐ有害な紫外線を減少させた。紫外線はDNAに損傷を与える)。④オゾン層の形成により、生物の陸上化が可能になった。

雑談:シアノバクテリアは単細胞生物であるが、細胞分裂をしても細胞はそのまま接着しており、ビーズのネックレスのように細胞が連なった集合体を形成している(下図はイメージ。光合成をする細胞、窒素固定をする細胞[異質細胞という。窒素固定とは、空気中のN2を用いてアンモニウムイオンをつくることである。後に学ぶ]など、機能の分担が見られる)。

シアノバクテリアの一種。細胞の機能の分担が見られる。




発展:菌


「菌」という漢字が付いても、それは菌類(真核生物)か細菌(原核生物)かわからない(両者は生活スタイルが似ているため、同じ「菌」という名前が付いてしまっている。DNAの塩基配列的には非常に遠いグループである。菌類は、塩基配列的には、むしろ動物に近い)。以下の生物については覚えるしかない(キノコやカビは分類学上の正確な表現ではない)。

画像25



講義動画【細菌と菌】

(予習内容も含まれるので、まだ見なくてもよい)




発展:原核生物の2つのグループ


原核生物には、細菌の他、古細菌(超好熱菌やメタン生成菌など)というグループが含まれる。






要点:すべての生物に共通する性質がある。


画像19






● すべての生物に共通する性質

①細胞からなる。

雑談:あなたも細胞でできている。あなたのほおの内側をこすると、簡単に細胞が剥がれ落ちる。ドラクエのモンスター、ゴーレムが生物だとすると、レンガ1個が細胞である。多細胞生物では、多くの細胞同士は、様々な仕組みで接着している。

②DNA(デオキシリボ核酸)に遺伝情報を持つ。

雑談:(例外を除き)すべての細胞は内部にDNAをもつ。それでも、人類が「DNAが遺伝子の本体だ」と気づくまでには、長い時間がかかった。多くの生物学者は、長い間、タンパク質が遺伝子の本体だと思っていた(タンパク質には莫大な種類があり、様々な機能を持つ)。

③代謝を行う。

*代謝の過程で、エネルギーの出入りや変換が起こる。これをエネルギー代謝という。代謝については、後の講義で詳しく学ぶ。

雑談:代謝は、分解反応(異化)や合成反応(同化)の総称である。あなたは食べ物を食べ、それを分解することで、食べ物から化学エネルギーを取り出している。また、あなたは、食べ物から手に入れたアミノ酸を使って、タンパク質を合成している(自分の体を組み立てている)。

④恒常性(体内環境を一定に保つ性質)をもつ。

雑談:あなたはサウナの中で、汗をかく。それによって体温を一定の範囲に保っている。多くの植物は気孔を開閉させることで体内の水分量を調節する。

(⑤~⑦は生物基礎では深くは扱わない)

⑤刺激に反応する。

雑談:多くの動物は、眼や耳で刺激を受容し、筋肉を動かす。しかし、「刺激に反応する」という性質は、動物のみがもっているものではない。たとえば、生物基礎では習わないが、植物は、光などの刺激に反応し、自らの成長を調節したり、気孔を開閉したりする。多くの原核生物は、周囲の環境に反応し、鞭毛によって一定の方向に(たとえば栄養物質のある方向に)移動する。

⑥進化する。

雑談:進化の定義は難しい。DNAの塩基配列の変化、タンパク質のアミノ酸配列の変化、表現型の変化、種分化など、様々なレベルについての議論がある。なお、進化に関して、未だ確定した説はない。

⑦生殖を行う。

雑談:親個体と遺伝的に同一の遺伝情報を持つ新個体を作る無性生殖(アメーバの分裂、酵母の出芽、植物の栄養生殖など)や、配偶子(精子や卵など)の合体による有性生殖がある。「自己増殖する」ということは、生命にとって非常に重要な性質である。


すべての生物がこれらの特徴を持つのは、すべての生物が共通祖先から進化してきたからである。




雑談:生物の特徴には、上記①~⑦の他にも「秩序だった構造である」「反応の制御」などが考えられる。

雑談:上記の①~⑦の特徴は、一般に、すべての生物がもっているとされている特徴である。しかし、生物を「①~⑦の特徴をもつもの」と「定義」することはできない。生物と非生物の境はグラデーションであり、生物学者の間でも、何を生物と見なすかについては意見が分かれている(たとえ、すべての生物が、例外なしに所有する特徴を発見できたとしても、それがそのまま定義となるわけではない。たとえば、すべてのヘアスプレーが円柱状であるという特徴を持っていたとしても、ヘアスプレーを「円柱状の物体」と定義していいわけではないのは明らかであろう)。

生物と非生物は連続している可能性がある。







発展:ウイルス


ウイルスは、感染性の微粒子であり、宿主となる細胞に、自身のDNAやRNAを注入し、増殖する。『細胞構造をもたない、代謝を行わない、遺伝子の本体として、DNAではなくRNA(DNAとは別種の核酸)を使っているものもいる』など、生物とは異なるの性質を持ち、ふつう生物とはよばない(ただし、ウイルスを生物に含めてよいとする意見もある)。


雑談:生物とは何か?バイクを考えてみよう。バイクは動く。音を発する。刺激に反応する。有機物からエネルギーを取り出す。熱や老廃物を排出する。バイクも生物と認めてもいいだろうか?あなたは「バイクは考えない」と言うだろう。しかし、トマトも大根も考えない(中枢神経系をもたない生物はいくらでもいる)。あなたは「バイクは子孫を残さない」と言うだろう。しかし、ラバ(ウマとロバの子)は生き物ではないのか?(一般にラバは不妊である)。あなたは「バイクは細胞でできていない」と言うだろう。しかし、公園の木でできたベンチを生物と見なすのか?お風呂で剥がれ落ちた垢を生物と見なすのか?あなたのほおの内側から剥がれ落ちた細胞を生物と見なすのか?そもそも、細胞をどう定義すればよいのか?もう一度よく考えてみよ。生物とは何か?はっきりした答えは出ないだろう。生物の学習を続けて、考えを深めてほしい(もちろん、木でできたベンチの話はたとえ話で、ふつう、細胞膜より内部の構造が残っているものを細胞と呼ぶ。ただし、もともとcell[細胞]という用語は、フックがコルク片の死んだ細胞の細胞壁を観察して名付けたものであることに注意)。

雑談:雌ウマと雄ロバの異系交配による一代雑種をラバという。一般にラバの雄は完全に生殖不能である。雌は、ウマあるいはロバの雄と交配により子を産む場合があるといわれている。ちなみに、雌ロバと雄ウマの子をヒニーという。

雑談:(これは生物学とは離れた議論であるが)突き詰めて考えていくと、我々が「定義を一点の曇りもなくはっきり述べられる」物事は案外少ないことに気付く。たとえば、「犬」「電子」「経済」「学校」について、全人類が納得するような明確な定義を決めることはできるだろうか?



講義動画【生物とは何か?】

(動画中の下線部が生物基礎範囲)






要点:地球には様々な生物がいるが、それらの生物は共通祖先から進化してきた。



● 人類は地球上の生物を分類してきた。昔は姿かたち(色や、形状など)に注目して分類していたが、現在では遺伝情報に基づく分類が行われている。

● 生物が進化してきた道筋、さらには、それによって示される生物間の類縁関係は系統とよばれ、系統樹として示される。下の図は系統樹のイメージ(系統樹の枝の長さや、分岐の位置は正確ではない)。

画像3
系統樹のイメージ。原生生物、植物、菌類、動物は真核生物である。




発展:生物の分類


高校教科書では上の図のように、真核生物を①原生生物②植物③菌類④動物のようにまとめている。しかし、現在、塩基配列を比較することにより、真核生物の分類の大改訂が行われている。現在では真核生物はおおよそ8つのグループに分けられると考えられている。
原核生物は、細菌と古細菌という2つのグループに分けられる(古細菌の発見も、生物学における衝撃的な事件であった。古細菌と他の細菌との類縁性は、細菌と真核生物との類縁性と同程度に小さかった)。
以下の系統樹は最新の系統樹のイメージ(様々な説があり、確定していない)。雲のようになっている部分は未知の部分。

画像18
系統樹の形を決定するのは実際は難しい。細菌と古細菌は原核生物。






要点:光合成を行う植物や、シアノバクテリアは、独立栄養生物である。


● 従属栄養生物(じゅうぞくえいようせいぶつ):他の生物がつくった有機物を獲得して生きている生物。動物、菌類、多くの原核生物が含まれる。我々が定食屋で食事をするのは、我々が従属栄養生物だからである。

● 独立栄養生物(どくりつえいようせいぶつ):光エネルギーや化学エネルギーを利用して、環境中の無機物から有機物を合成することで栄養を獲得している生物。光合成を行う植物(真核生物)やシアノバクテリア(原核生物)が含まれる。植物が定食屋に行かないのは、植物が独立栄養生物だからである。

発展:いろいろな独立栄養生物


光合成を行う光合成細菌(植物のもつクロロフィルとは違うタイプのクロロフィルをもつ)や、化学合成(光エネルギーではなく化学ネルギーを用いて無機物から有機物の合成を行う)を行う化学合成細菌も独立栄養生物である。


画像21


講義動画【独立栄養生物・従属栄養生物】






要点:生物には、1個の細胞からなる単細胞生物と、複数の細胞からなる多細胞生物がいる。


(1)多細胞生物と分化

画像23



● 複数の分化した細胞から構成されている生物を多細胞生物という。


*分化:細胞が特定の形態や機能をもつこと(分化は、簡単に言うと、細胞の役割分担である。細胞は分化すると、いろいろな形になったり、いろいろな機能をもったりするようになる。たとえば、ヒトの細胞には、神経細胞や筋細胞など、いろいろな分化した細胞がみられる。ヒドラなどの単純な多細胞生物にも、細胞の分化が見られる)。

*卵と精子が受精して生じた受精卵は、体細胞分裂を繰り返す(細胞数が増えていく)。そして、それぞれの細胞は、徐々に様々な細胞(神経細胞、筋細胞、血球など)に分化していく。その結果、あなたの体が出来上がる(下の図はイメージ。なお、筋肉のイラストが描いてあるが、筋肉は、筋細胞[筋繊維]と呼ばれる細胞が集まってできている)。

細胞は分化する。




雑談:たとえば、ヒトの神経細胞は以下のような特殊な形態をもつ。覚えなくてよい。「変わった形になってるなー」と感じてくれればよい。

画像23
神経細胞の構造。




雑談:たとえるなら、分化は「就職」である。みなさん高校生は、まだ何にでもなれる可能性を秘めている(まるで、まだ分化していない、分化全能性をもった細胞のようである)。そして、様々なシグナルを受け取りながら、特定の職業についていく。特定の職業についた社会人が「分化した細胞」である(ちなみに、生物界を広く眺めれば、「退職」「再就職」のような現象も知られている。それぞれ、「脱分化」「再分化」という)。
*冗談です。当たり前ですが、分化は就職ではありません。

雑談:分化は、一般に、形態的・機能的に特殊化が進行し、特異性が確立される過程を指す(ただし、分化には様々な定義がある)。そのような分化の背景には遺伝子発現の変化がある。分化の仕組みは、特定の細胞で特定の遺伝子が発現する選択的遺伝子発現によって説明される。選択的遺伝子発現については以下の資料で少し詳しく解説している。



雑談:受精卵は、1つの細胞から分裂を開始し、すべての種類の細胞を産出することができる(筋細胞や神経細胞など、すべての種類の細胞が生じてくる。あなたも、かつては、受精卵という、1個の細胞であった)。覚えなくていいが、この受精卵のもつ能力を「分化全能性」という(どんな細胞にも分化できる能力、というイメージ)。受精卵はまさに全ての可能性を秘めた細胞である。なお、分化には、多くの段階があり、徐々に特定の形態・機能を獲得していくのがふつうである(まず理系コース・文系コースにわかれ、さらに理系コースが数学系コース・物理学系コース・生物学系コース・化学系コース・地学系コースに分かれる・・といったように、徐々に分化が細かく進行していく)。

雑談:現在では、分化多能性(様々な種類の細胞[すべての種類とまでは言えない]に分化することができる能力)をもつ細胞が研究・医療に使われている。そのような細胞には、ES細胞(胚性幹細胞:胚[赤ちゃんになるずっと前の状態]の細胞の一部を採取し、培養してつくる)やiPS細胞(人工多能性幹細胞:分化した細胞にいくつかの遺伝子を導入し、未分化な状態に戻すことで得られる)がある。ES細胞やiPS細胞を、様々な細胞に分化させ、研究・医療に用いることができる(一般に、組織や臓器の欠損を再生し機能を回復させるような治療方法の総称を再生医療という)。

雑談:ヒドラは刺胞動物(クラゲの仲間)である。ヒドラの体は刺細胞(しさいぼう)で武装されている(刺胞細胞は防衛・獲物の捕獲に使われる。刺激を受けると刺細胞から細い糸が射出される。その糸で獲物を突き刺し、毒が注入する)。脳(中枢)はもたないが、ヒドラの体には神経網が張り巡らされており、様々な方向からの刺激に反応できる。まあ、高校生は細かく知らなくてよい。「ヒドラは分化した細胞(いろいろな種類の細胞)を持つんだな」くらいに思っておけばよい。




(2)細胞・組織・器官


● 動物などの多細胞生物では、同種の細胞が集まって組織を形成し、複数の組織が集まって器官を形成している。



*動物の組織:①表皮組織②神経組織③結合組織(血液や骨など)④筋組織

*動物の器官:胃や肺など



(3)単細胞生物


● 1つの細胞だけから構成されている生物を単細胞生物という。

例)ゾウリムシ、ミドリムシ、アメーバ(これら3つの生き物は真核生物)、大腸菌(原核生物は基本的にすべて単細胞生物と考えてよい)

● ゾウリムシ



①大核、小核:大核は通常の代謝に関与。小核は生殖に関与。
②収縮胞(しゅうしゅくほう):水の排出に関与。
③繊毛(せんもう):運動に関与。
④食胞(しょくほう):食べ物の消化に関与。
⑤細胞口(さいぼうこう):食べ物の取り込みに関与。

画像16
ゾウリムシは単細胞生物。繊毛で動く。核が2つある。




発展:収縮胞


ゾウリムシは、細胞内液の方が外界の溶液より濃い。すると、水がゾウリムシの中に入ってきてしまう。そのため、何もしなければ破裂してしまう(たとえば、ヒトの赤血球を水の中に入れると、赤血球は吸水して破裂[溶血]する)。ゾウリムシは、収縮胞で余分な水を排出している。収縮胞は、見方によっては、ヒトの腎臓に相当するとも言える(ヒトは腎臓によって体液の濃度を適切に保っている)。


雑談:収縮胞(中心胞[収縮胞の中央にある袋のようなもの]と、それを放射状に囲む周辺水管から構成される。原生生物にみられる液胞の一種)は、細胞内に流入した水を細胞外に排出し、細胞内の浸透圧を調節する役割を持つ。収縮胞は拡張期(細胞内から水を集める時期。周辺水管によって水は集められ、その後、中心胞に移動する)に膨張し、収縮期(集めた水を体外に放つ時期。中心胞は細胞膜と融合し、内部の水を外界に放出する)には一時姿を消す。収縮胞による水分子の吸収には、アクアポリンが関与していることが示されている。

収縮胞は水を排出する。






雑談【ゾウリムシぞうり】





● ミドリムシ



①鞭毛(べんもう):運動に関与。(ミドリムシは鞭毛を使ってぐにゃぐにゃと動き回る。したがって細胞壁を持たない。細胞壁なんて持っていたら、ぐにゃぐにゃと運動できない。)
②葉緑体:光合成に関与。
③収縮胞:水の排出に関与。
④眼点(がんてん):光の受容に関与(覚えなくてよいが、実際は光受容に働く光受容体が眼点とは別にあり、眼点は光を遮蔽することで光受容体に一方向から光が当たるようにしている)。

画像16
ミドリムシは単細胞生物である。葉緑体をもつ。べん毛で動く。細胞壁はない。





雑談:ミドリムシは未来の食料として注目されている(ミドリムシは細胞壁をもたないので、細胞内に入っている栄養が細胞の外に流出しやすいと考えられている)。図は昔友人と食べたミドリムシラーメン(ラーメン屋『山手』)。数億匹のミドリムシが入っているという。まるで「野菜まし」のトッピングのように、「ミドリムシまし」があった。


画像2
ミドリムシラーメン




● 繊毛・鞭毛・仮足


ゾウリムシは繊毛で、ミドリムシは鞭毛(鞭毛の「べん」の字はムチ[鞭]という漢字。ムチのように見えるから)で、アメーバは仮足(かそく=アメーバ運動に関与する突起)を使って移動する。

画像14


雑談:アメーバ運動=仮足とよばれる細胞質の突起を伸ばし、細胞全体の形を変えながら、這うように移動する移動形態。アメーバだけでなく、脊椎動物の白血球もアメーバ運動によって移動する。仮足の内部にはタンパク質でできたアクチンフィラメント(細胞骨格の一種)が支持骨格として存在し、アクチンの重合・脱重合によって仮足の運動が制御されている。

雑談:ゾウリムシ(真核生物)の繊毛の断面も、ヒト(真核生物)の気管の表面にある細胞の繊毛の断面も、電子顕微鏡で見ると、同様の構造になっていることがわかる。これは、ヒトもゾウリムシも、真核生物という同じグループに属することをあらわしている。

雑談:鞭毛(べん毛)は鞭(ムチ)のような形をした運動器官である。原核生物もべん毛をもつ(原核細胞にあるものを「べん毛」、真核細胞にあるものを「鞭毛」と書き分ける場合もあるが、絶対の約束ではないので高校生は気にしなくてよい)。なお、原核細胞にあるべん毛と、真核細胞にある鞭毛では、構造や運動のメカニズムがまったく異なる。

雑談:原核細胞のもつ「線毛(せんもう)」と、真核生物のもつ「繊毛(せんもう)」は、どちらも細胞外に向かって突出した繊維状の構造物(細かい毛のような構造)である。ただし、両者の構造はまったく異なる。



Q&A



Q.ゾウリムシの小核と大核って何?…ゾウリムシには2個核があり(これはゾウリムシの面白い特徴の一つ)、小さいほうを小核、大きいほうを大核という。役割が異なる(大核は摂食、老廃物の排出、水分バランスの調節などの機能は、大核のゲノムが担っている。小核は有性生殖に関わる)。覚えなくてよい。

Q.収縮胞って何?…体に入ってきた水を排出する特殊な液胞(膜で包まれた構造)。ゾウリムシの周りの溶液が薄ければ薄いほど細胞内に水が入って来るので、1秒あたりに収縮する回数が増える。

Q.鞭毛=繊毛と考えてよい?…だめ。違いは「1本長いのが生えてる(鞭毛)」か「たくさんの短いのが生えてる(繊毛)」かである。なお、その基本的な構造はすべての真核生物すべてで共通している(これは驚くべき共通性である。すべての真核生物に共通する性質はそれほど多くない)。

Q.ミドリムシの眼点って眼?…眼点は、私たちの眼のように、たくさんの細胞からなる器官ではないが、光の受容に関与している。実際は、光受容体という部分(鞭毛の基部付近にある)が眼点とは別にある。眼点は遮蔽機能をもつ色素顆粒からなり、特定の方向からの光のみが光受容体に届くようにしていると考えられている。覚えなくてよい。

Q.原生生物って原核生物と同じ?…違う。原生生物は真核生物の1グループ。原生生物のうち、捕食・移動をおこなうものを原生動物と呼んだりする。

Q.どうしてDNAではなくRNAに遺伝情報をもつ持つウイルスがいるの?…わかっていない。ウイルスは、生物が生まれる前の構造体ではなく、生物が、多くの形質を失ってできたものとする考えが主流。ウイルスは一般に生物に含めない(←DNAに遺伝情報を持たない者がいる・細胞構造を持たない・代謝を行わないから)

Q.独立栄養生物=植物って考えていい?…よくない。シアノバクテリアは原核生物で、葉緑体をもたないが、光合成色素や光合成に関する複数の酵素をもち、光合成を行う。シアノバクテリアも独立栄養生物である。生物基礎では習わないが、紅色硫黄細菌などの光合成細菌や、硝酸菌などの化学合成細菌なども独立栄養生物である。

Q.食虫植物は従属栄養生物?独立栄養生物?…食虫植物のような生物は、独立栄養と従属栄養を同時に行うので、「混合栄養」と呼ばれる場合があるが、覚えなくてよい。

Q.「死」って何?生物は「死ぬものである」と定義できるんじゃない?…死の定義について厳密に決定することは難しい。死は、一般には「生物が生命を失うこと」と定義されるが、やはりこの場合も、「生物・生命とは何か」という難問にぶつかってしまう。現代の生物学においては、死は、個体だけでなく、器官・組織・細胞など、いろいろな階層において考えることができる(たとえば、脳死[一般に、脳の全機能が不可逆的に停止した状態を指す]、細胞死など)。ヒトの死については、それぞれの国において、法律上で定義されている。日本では、「臓器の移植に関する法律」の成立以前においては、医学的・法律的に統一されたヒトの死の定義はなかった。かつては、心臓・肺・脳の不可逆な停止をヒトの死と見なしていたが、医学の進歩とともに、心臓や肺は人工臓器で代用可能となった。現在の日本では、ヒトの死は、脳死と(従来の)心臓死の二本立てで定義されている。こうした現状は、死について、科学的な視点のみで議論することはできないということを意味している。

Q.結局、生物って何なの?…未だ、人類は、生物を定義できていない。これから生物についてしっかり学んで、考えを深めてほしい。





講義動画【植物の体について】

(動物のからだについて少しだけ触れている。基本的に生物基礎範囲外。)





発展:動物のからだ


● 動物のからだの成り立ち
細胞ー組織ー器官ー器官系



● 動物の組織には以下の4つがある。

①上皮組織:上皮細胞の集まり。上皮細胞同士は密着結合によって結合しており、病原体の侵入や水の損失を防いでいる。

②神経組織:神経細胞の集まり。

③筋組織:筋細胞の集まり。

④結合組織:広い細胞間隙を、コラーゲンなどの細胞間物質が埋めている組織の総称。一般に、細胞間物質の中に、まばらに細胞が分布する。中胚葉由来の組織。血液・骨・軟骨など。

*血液では、細胞成分として血球が含まれる。細胞間物質に相当するものは血しょうである。

*骨では、骨芽細胞という細胞が骨基質(細胞間物質)を合成・分泌する。骨基質の成分の50~60%はカルシウムやリンなどを主体とした無機質である(その他の細胞間物質としてはコラーゲンなどが含まれる)。骨芽細胞は、骨形成が進行した状態では、自らが形成した骨組織の中に埋め込まれ、骨細胞となる。なお、骨には、ハバース管という血管や神経の通路がある(ハバースHaversはイギリスの解剖学者)。

*骨芽細胞は、自らが分泌・形成した骨基質に埋没し、骨細胞に分化する(骨細胞に分化した後は基質の分泌を行わない)。

*軟骨には、細胞としては軟骨細胞が、細胞間物質としてはコラーゲンが含まれる


Q.コラーゲンを多く含む結合組織をたくさん食べると、お肌にそのコラーゲンが運ばれて、肌に弾力が出るのですね?…そのようなことは起こらない。コラーゲンはタンパク質なので、口から摂取すると(他のタンパク質と同様に)アミノ酸にまで分解される。コラーゲンたっぷりの鍋を食べてお肌が潤ってきたように感じるのは、汗をかいたか、顔表面に水滴が付着したからだろう。ふつう、食べたタンパク質がそのまま生体に取り込まれ、働きだすということはない(そのようなことが起こらないようにするためにも、我々は食べた物を分解する)。たとえば、食べられたブタのタンパク質が、そのままの状態で生体内に配置され、働きだすとすれば、極論、ブタを食べるとブタになることになる(まるで『千と千尋の神隠し』の世界である)。無理矢理、他の生物のタンパク質をヒト細胞内に導入しても、もともとヒト細胞にあったタンパク質と協同して働くとは考えにくい(むしろ代謝を混乱させる原因になるだろう重要な反応が阻害される可能性もある)。


● 動物の器官:胃、肝臓、肺など。複数の組織が集まったもの。たとえば、小腸という器官には、4つの組織(上皮組織・神経組織・結合組織・筋組織)が含まれてる。

● 動物の器官系:(機能的・解剖学的に共通性をもち)協同して働く器官をまとめて器官系という。一般に動物にしか使わない用語である。器官系の例としては、消化系(口・食道・胃・小腸・肝臓などをまとめたもの)、呼吸系(肺・気管などをまとめたもの)、循環系(心臓・血管・血液をまとめたもの)などがある。

*下図は皮膚の構造のイメージ。今はほぼ問われない。表皮(上皮組織)の下に真皮(結合組織)があることと、立毛筋(りつもうきん。収縮すると皮膚面に斜めに生じている毛を直立に近い状態にする)、汗腺(かんせん。皮膚にあり、汗を分泌する)という用語くらいチェックしておけばよい(皮下組織については特に気にしなくてよい。皮下組織は、真皮と、その下にある骨や筋肉との間にある結合組織の部分を指す。真皮との間には明確な境界はない[広義には、皮下組織は真皮の深層を指す])。

皮膚の構造。表皮の下に真皮がある。汗腺は汗を分泌する外分泌腺。立毛筋は毛を立てる筋肉。








発展:植物のからだ


● 植物のからだの成り立ち
細胞ー組織ー組織系ー器官



● 植物の器官:葉や根は栄養器官。花は生殖器官。

● 組織系(そしきけい):ふつう、植物にしか使わない用語である。関連のあるいくつかの組織の集団。その分類方式は統一されていないが、表皮系(ひょうひけい)、維管束系(いかんそくけい)、基本組織系(きほんそしきけい)の3系に分けるの一般的である。


(1)表皮系


表皮系を構成する組織は、単に表皮と呼ぶことが多い。表皮系は、表皮細胞、孔辺細胞などから構成される。表皮細胞はクチクラで覆われている。クチクラには、水の損失を防いだり、病原体から植物体を保護したりする役割がある。表皮細胞には葉緑体がない(虫に食われ、無駄になることが多いためか)が、孔辺細胞には葉緑体がある(気孔開閉に関わる生命現象を活発に行うためか)。


(2)維管束系


木部と師部からなる。木部にある道管は主に水や無機塩類が移動する通路、師部にある師管は主に葉の同化物質が移動する通路である。

*木部には、道管のほかに、木部柔組織などが含まれる(知らなくてよいが、木部柔組織はデンプンや樹脂を多く含んでおり、貯蔵の枠割をもつと言われている)。師部には師管のほかに伴細胞などが含まれる。伴細胞は、被子植物において、師管に接着して生ずる柔細胞である。伴細胞は、タンパク質などの栄養を作り、原形質連絡(植物の細胞はお互いに原形質連絡[細胞膜で包まれた細長い細胞質の糸]でつながり合っている)を通じて師管要素に運ぶと考えられているが、よくわかっていない。伴細胞はふつう、「はんさいぼう」と読むが、「ばんさいぼう」と読むこともある。テストでは漢字で書こう。

*茎において、外側に位置していた師管は、葉では裏側に位置する。内側に位置していた道管は、表側に位置する(下図はイメージ)。

維管束の師管と道管の位置関係。


*葉の断面
柵状組織(さくじょうそしき):葉の上面表皮の直下にある細胞層。長い形の細胞が密接して配列する。葉緑体を最も多量に含む細胞からなる(柵のように細胞が並んでいる)。
海綿状組織(かいめんじょうそしき):葉の下部を構成する組織。海綿状組織の細胞も、柵状組織の細胞と同様に、葉緑体を含む。細胞間隙(細胞と細胞の間の隙間)に富む。葉の下部には気孔がたくさんあるので、海綿状組織の豊富な細胞間隙はガス交換の通路になる(海綿とは、スポンジのこと。スポンジのように隙間が多いことから)。
クチクラ層:体表面を覆い、乾燥を防いでいる(陸の上は乾燥が激しいので、クチクラ層[及び気孔]は、植物の陸上化に欠かせない構造であったと考えられている)。
孔辺細胞(こうへんさいぼう):気孔をはさむ一対の細胞。一般に、表皮細胞は葉緑体をもたないが、孔辺細胞は葉緑体を持つ。


葉の内部構造。柵状組織は表側、海綿状組織は裏側にある。孔辺細胞は葉緑体をもつ。




● 仮道管と道管はどちらも水を通している(どちらも、機能的に成熟した段階で死ぬ。植物は死んだ細胞を水の通路として利用しているのである)。仮道管はほとんどすべての維管束植物(シダ植物・裸子植物・被子植物)が持つ細胞である(被子植物では仮道管は道管の補助として使われている。)。道管は基本的に被子植物のみに存在する。

雑談:仮道管は長細い細胞で、水は壁孔(へきこう)という孔を通って細胞から細胞へ移動する。道管は、道管要素という、細胞壁だけからなる中が中空の死細胞が何個も連結してできたものである。連結部の細胞壁には、穿孔(せんこう)と呼ばれる孔が存在し、そこを水が通れるようになっている。下図はイメージ。

仮道管は維管束植物に見られる。道管は被子植物に見られる。これらは死んだ細胞からなる。



雑談:コケ植物にも通水細胞が存在することが明らかになっている。この細胞の獲得が植物の陸上化に大きな影響を与えたことは間違いないだろう(なお、被子植物の通水細胞は道管の細胞[筒状。上下の細胞と繋がって、管状組織を形成する]であり、裸子植物とシダ植物の通水細胞は仮道管[細胞間は連結せず、隣接する細胞間に壁孔とよばれる孔がある。この孔を通して水を輸送する]と呼ばれる組織を形成する)。

雑談:師管は被子植物に見られる、糖を輸送するための組織である(覚えなくてよいが、シダ植物や裸子植物は、師細胞という細胞を使って糖を輸送している)。師部の細胞は、木部の細胞と異なり、生きた細胞からなる。師管は師部要素という細胞がつながってできている。師部要素と師部要素の間には師板(しばん)が存在する。師板には孔(師孔という。師孔は、原形質連絡、あるいは原形質連絡の集合体と考えられている)が空いており、そこを物質が通る。師部要素は、伴細胞と原形質連絡で連結している(伴細胞は通道には関与しない)。伴細胞の役割についてはわかっていないことが多いが、伴細胞の核やリボソームは、伴細胞自身だけでなく、隣の師部要素のためにも機能していると考えられている。下図はイメージ。

師管を通って糖が移動する。師管は生きた細胞からなる。



雑談:「師管」という言葉は、孔の空いた師板が「篩(ふるい)」に似ていることに由来する(高校では「師管」と書くが、一般には「篩管」と書く)。




(3)基本組織系


基本組織系は、維管束植物について、表皮系と維管束系を除いたすべての部分を指す。柔組織、厚壁組織、厚角組織などから成る(厚壁組織や厚角組織の細胞の細胞壁は厚い)。

雑談:厚壁組織は、梨のざらざらした舌触りの原因になっている。

雑談:厚角組織や厚壁組織などの集合を機械組織という(植物体を「機械」的に支持する)。






発展:中心柱


維管束植物の根や茎を占める柱状の領域を中心柱という。根では、下図のA(原生中心柱)や、B・C(放射中心柱)が見られる。双子葉類の茎ではD(真正中心柱)が、単子葉類の茎ではE(不斉中心柱)がよく見られる。

A:原生中心柱、B・C:放射中心柱、D:真正中心柱、E:不斉中心柱





発展:形成層


裸子植物と被子植物の双子葉類では、形成層(茎および根の木部と師部の間にある分裂細胞)が発達する。形成層は、外側に新しい師部を、内側に新し木部を生み出す。これにより植物は肥大成長する(一般に、被子植物の単子葉類とシダ植物には形成層がない。よってこれらの植物は肥大成長せず、細長い)。

師部と木部の間に形成層がある。形成層は肥大成長にあずかる。


雑談:形成層の細胞が分裂して師部と木部がつくられるが、師部の方は壊され、木部の方が蓄積する。木部の部分が肥大することで、木は太くなる(木部には、"木"の本体の"部"分といった意味が込められている)。その際、季節によって増殖する細胞の大きさや数に差が出る(形成層の活動は温度などの環境要因に支配されやすいことが知られている)ので、温帯の地域の木の多くには、一般に、明瞭な年輪が見られる(明瞭な季節が存在しない熱帯の樹種には年輪が認められないものが多い)。







発展:細胞群体(さいぼうぐんたい)


●分裂した複数の単細胞生物が、離れずに生活しているもの全体を指して細胞群体と呼ぶ。細胞数が多いものでは、細胞の間で役割分担、つまり分化が見られる。

生物例)ユードリナ、オオヒゲマワリ(ボルボックス)

語呂「アイラブユードリナ。僕らの愛はオオヒゲ回り(ユードリナ、オオヒゲマワリ)」

雑談:「細胞群体」は古い用語で、今ではあまり使われない(入試でも今はほぼ出題されない)。細胞単独で生活できる細胞群体もあれば、集合していないと生活できない細胞群体もある(ただし、細胞群体の定義が明確ではないため、どこまでを細胞群体、どこまでを多細胞生物とするかの議論は非常に難しい)。





発展:顕微鏡

(1)焦点深度について


● 顕微鏡である物体にピントを合わせると、その物体の上下にある物体にも同時にピントがあう。このように、ピントが同時にあう範囲を焦点深度という。同時にピントがあう範囲が広い時、「焦点深度が深い」という。逆に範囲が狭い時「焦点深度が浅い」という。
● 低倍率で観察すると、焦点深度が深くなる。逆に、高倍率で観察すると焦点深度が浅くなる(したがって高倍率で観察している時は、ステージをちょっと動かしただけで、すぐにピントが合わなくなってしまう。)。
● 絞りを絞ると焦点深度が深くなる。逆に、絞りを開くと焦点深度が浅くなる。

講義動画【焦点深度】




問題 見たい細胞だけでなく、見たい細胞の手前の細胞にも、見たい細胞の奥の細胞にもピントが合ってしまっていて、像が重なって見にくい。さらに、視野が暗い。こんなとき、絞りをどうすればよいか。

答え:開けばよい(絞りを動かして、入ってくる光量を増やすと、焦点深度が浅くなり、ピントが合う範囲が狭くなる。なので、見たい細胞だけにピントがあう。また、絞りを開くと、視野は明るくなる[ただしコントラストは鮮明ではなくなる])




(2)ミクロメーターについての問題


問題

光学顕微鏡で細胞を観察した。

接眼ミクロメーターを接眼レンズに、対物ミクロメーターをステージにセットしたところ、下図左のように見えた。その後、対物ミクロメーターをはずし、細胞を観察したところ、下図右のように見えた。


画像4




①接眼ミクロメーターの1目盛りの長さを求めよ。

②観察された細胞の長径を求めよ。

③視野の右下にあるものを視野の中央に移動させたい。プレパラートをどちらの方向に移動させればよいか?

④焦点深度は、しぼりをしぼるほど、また、倍率を下げるほど、

(  深 ・ 浅  )くなる。

⑤倍率を上げると、接眼ミクロメーターの1目盛りのあらわす長さは

( 大き ・ 小さ  )くなる。


講義動画【顕微鏡の使い方】


講義動画【接眼ミクロメーターと対物ミクロメーター】








解答・解説

問題文に何も書いてなくても、対物ミクロメーターの1目盛りの長さは10マイクロメートル(μm)と考えて良い。

画像6



*1マイクロメートルは1000分の1ミリメートルである。

1mm=1000μm=1000,000nm
(問題で示されないことが多いので、覚えておく。)

語呂「耳真っ黒なの(ミリ、マイクロ、ナノ)」

このような問題は、必ず、接眼ミクロメーターと対物ミクロメーターの、二種類の目盛りが、ピッタリ一致するところが二箇所ある。
今回は、接眼ミクロメーター10目盛りと、対物ミクロメーター3目盛り(30マイクロメートル)が一致している。



画像7



したがって、接眼ミクロメーター1目盛りの長さは、30÷10=3マイクロメートルである。

答え:3μm(マイクロメートル)






問題の図をもう一度見てみよう。

画像7



①より、接眼ミクロメーター1目盛りの長さが分かっている(3マイクロメートル)ので、細胞の長径(楕円の長い方を測った時の長さ)は  
22目盛り×3マイクロメートル=66マイクロメートルである。

答え:66μm(マイクロメートル)

補足:「どうして二種類のミクロメーターを使うんだ!面倒すぎ!はじめから1目盛り10マイクロメートルの対物ミクロメーターの上に細胞をのせて見ればいいじゃん!」
と思うかもしれない。実際、我々は、定規の上に何かを乗せて物の大きさを測ることがある。
しかし、光学顕微鏡の世界のように、とても小さな世界では、見たいものにピントを合わせるのは難しい。
実は、「対物ミクロメーター」と「見たいもの」に、同時にピントを合わせることはできないのである。
なので、一度、対物ミクロメーターで(その倍率の時の)接眼ミクロメーターの大きさを求めてから、対物ミクロメーターをはずして、接眼ミクロメーターで見たいものの大きさを測るのだ。

下の図のように、対物ミクロメーターの上に物をのせてはいけない。

画像8




補足:接眼ミクロメーターの目盛りの大きさは相対的なもので、倍率を変えるごとにコロコロ変わる(倍率を2倍にすると接眼ミクロメーターの1目盛りの大きさは1/2倍になる)。
対物ミクロメーターの1目盛りの大きさはいつだって10マイクロメートルである(当然である。対物ミクロメーターが伸びたり縮んだりしない)。





光学顕微鏡では、上下左右が逆に見える。

画像9


なので、視野の右下に見たいものがあるように見えても、実際は、見たいものは左上にある。なので、プレパラートを右下に動かせば、見たいものは視野の中央に動く。

答え:右下

Q どうして右下に見たいものがあるのに、右下にプレパラートを動かすの?
…光学顕微鏡では、上下左右が逆に見えている。
たとえば、プリントの左上の端っこのほうにある小さな文字を、自分の目の前(中央)に持っていきたいと思ったらプリントを右下に動かすと思う。
お皿の左上にある物を真ん中に持ってきてよく見たいと思ったら、お皿を右下に動かす。光学顕微鏡では、上下左右が逆に見えているので、顕微鏡を覗いたとき、右下にあるように見えているものは、実際は左上にある。だから、プレパラートを右下に動かすと、視野の中央に動く。

(本当は、顕微鏡の勉強をする時は、理科の先生に頼んで、放課後にでも光学顕微鏡を実際に使ってみるのが一番良い)


画像10


画像11







焦点深度とは、ピントが合う許容範囲と覚えておけば良い。
焦点深度が浅いとは、ピントのあっている範囲が小さい、ピントが合いにくいという意味である。
しぼりをしぼると、光量が減って視野が暗くなるが、焦点深度は深くなる(=余計な光が無いので、ピントの合う許容範囲が大きくなる。輪郭はハッキリする)。逆に、しぼりを開くと視野は明るくなるが、焦点深度は浅くなり、ピントは合いにくくなる。

画像12



答え:焦点深度は、しぼりをしぼるほど、倍率を下げるほど、( 深く )くなる。

補足:しぼりを動かす他に、倍率を変えても焦点深度は変化する。
みんなも、光学顕微鏡の、高い倍率で物を見た時、ステージを、ほんのちょっと動かしただけでピントがずれてしまった経験があると思う。それが焦点深度が浅い状態である。
逆に、低倍率だと、簡単にピントが合うように思える。ピントの合う範囲が大きいのである。専門的に言えば、焦点深度が深いのである。
倍率が高い方が焦点深度は浅く、ピントが合いにくい(実際は、焦点深度は、対象物の周りにある媒質の屈折率、総合倍率、眼の分解能などによって決定されるが、知らなくて良い)。
暗記する必要はない。光学顕微鏡の最高倍率で何かを見てみると良い。低倍率に比べて、とんでもなくピントを合わせるのが難しいはずである。それが焦点深度が浅いということである。






倍率を上げると、視野の全てのものが拡大して見える。しかし、接眼ミクロメーターの目盛りは、まるで「眼鏡の傷」、「スマホ画面のヒビ」のようなもので、倍率をどのように変えても見え方は変わらない(スマホにうつった画像を拡大しようが縮小しようが、スマホ画面のヒビの見え方は変わらない)。
倍率を上げると、見えるものの大きさは大きくなるが、接眼ミクロメーターの見え方は変わらない。

よって、接眼ミクロメーター1目盛りがあらわす長さは、倍率を上げると、小さくなる。

答え:⑤倍率を上げると、接眼ミクロメーターの1目盛りのあらわす長さは( 小さ )くなる。

画像18




たとえば、
スマホ画面にマジックで目盛りをふるとする。
そのスマホに、富士山をうつす。
俺たちがスマホに付けた目盛りの1目盛りの大きさは1000mくらいである。
そこで、富士山をめちゃめちゃクローズアップする。倍率をめちゃくちゃ上げて、富士山に落ちている十円玉がスマホ画面いっぱいに見えるくらいに、クローズアップする。すると、1目盛りの大きさは1㎝くらいになる。
倍率を上げたら、俺たちがスマホに付けた目盛り(接眼ミクロメーターの目盛り)の1目盛りのあらわす大きさが、小さくなった。これと同じ考え方である。


画像14



*倍率を2倍大きくすると、接眼ミクロメーターの1目盛りの大きさは、2分の1になる(倍率を2倍にすると、見えるものの長さが2倍になるから。なお、倍率を2倍にすると、見えるものの面積は4倍になる[試験中忘れたら四角を描いて確かめればいい。横と縦の長さが2倍になったら、四角の面積は4倍になる])。



(3)スケッチの利点について


● スケッチの利点

①焦点を移動させて観察したものを、1つの図にまとめることができる。

②全体像の中から、必要な部分だけを取り出して描くことができる(写真でも加工すれば注目部だけを切り出せるが、複雑な像では煩雑な操作が必要になる)。

● 写真の利点

①主観が入り込まない。

②形や色を正確に記録できる。



雑談:「人はいたって限られた範囲においてのみ周囲の自然現象を観察し得るにすぎない。大部分は本来人間の感覚を逃れているので、簡単な観察を以てしては到底十分でない。したがって知識を拡張するためには、特別な器械の力によってこれら感覚器の力を拡大し、同時にまた、或いは物体を分解し、或いはその隠された部分を研究するために、物体の内部に入って行くことのできる種々の器具を備えていなければならない。」ベルナール『実験医学序説』より
(ベルナールは生理学に実験的手法を導入した実験医学の創始者。内分泌、内部環境という語は彼の造語である。)





挿絵:光学顕微鏡

画像24