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【高校生物】動物生理④「ヒトはどのように刺激を受容するのか?」

~プロローグ~

「どのようにして動物の身体がかくも精巧に作り上げられたのか、そしてその諸部分は何の目的のためにあるのか?眼は光学の技巧なくして作られたのだろうか、耳は音響についての知識なくして作られたのだろうか?身体の運動はいかにして意志に従うのか、また動物の本能はどこから生ずるのか?」ニュートン『光学』より

「複雑な器官や本能がその複雑さをよりいっそう高めてきたのは、人間の理性にも似た超人的な手段によるものではない。それは所有者の利益となるごくわずかな変異が、数限りない段階を経て少しずつ蓄積した結果である。多くの人がまず最初に、私のこの主張をまさかと思うことだろう。」ダーウィン『種の起源』より





★テストに出やすいワード
①適刺激
②視細胞(錐体細胞・桿体細胞)
③黄斑
④基底膜
⑤聴細胞



要点:生物は、受容器で刺激を受容する。


(1)受容器と効果器


● 多くの動物では、刺激を受け取る目や耳などの受容器(じゅようき)と、刺激に応じた反応を起こす筋肉などの効果器(こうかき)と、その間の連絡にはたらく神経系とが発達している。

● 受容器にはそれぞれ受け取ることのできる刺激の種類が決まっており、それを適刺激(てきしげき。適当刺激ともいうという。

*適刺激とかぎ刺激(動物の行動の単元で学ぶ)を混同しないように!

受容器にはそれぞれ受け取ることのできる刺激の種類が決まっており、それを適刺激という。




● 平衡覚のように自分の体の姿勢や動きを感知するような受容器を自己受容器(じこじゅようき)という(しつがい腱反射で働く筋紡錘が自己受容器の例)。対して、外部の刺激(音・光など)を感知する受容器を外受容器という。

● 鼻の嗅上皮(きゅうじょうひ)では主に気体の化学物質の情報を、舌の味蕾(みらい。味覚芽ともいう)では主に液体に溶けている化学物質の情報を受け取っている。それぞれ受け取れる化学物質が適刺激となる。

● ヘビは、ピット器官という赤外線(赤色光よりも波長の長い光)を感知する受容器をもつ。

● 受容器にある刺激を感知する細胞を感覚細胞(受容器細胞)という。視細胞などが感覚細胞の例である。



発展:様々な適刺激と受容器


眼と耳以外の受容器はあまりテストに出ない。
*平衡感覚は平衡覚ともいう。




● 刺激に応じて受容器に発生する電位変化を受容器電位(じゅようきでんい)という。ほとんどすべての場合、受容器電位は脱分極として測定される(ただし、例外として、網膜の視細胞では、光刺激により過分極を示す)。この脱分極は、多くの場合、受容器の細胞の細胞膜における陽イオン(Na+やCa2+など)の透過性が増大することによる。下図はイメージ。
*脱分極(だつぶんきょく):一般に細胞内部において、細胞膜を境として外部に対して生じている負の分極が減少すること(通常、細胞は、静止時では、細胞膜の内側が、外側に比べて負[マイナス]に帯電している。これを、「外部に対して負の分極が生じている」と表現する。[陽イオンが細胞内に流入するなどして、]この「負の分極」が減少することを、脱分極と言う[細胞内がプラスの方向に変化するイメージ]。脱分極とは反対に、負の分極が増加することを過分極[かぶんきょく]と言う[過分極は、脱分極とは反対に、細胞内がもっとマイナス方向に変化するイメージ])。





雑談:一般に、受容器電位が閾値を上回れば上回るほど、脱分極が大きくなる。その結果、軸索に発生する活動電位の頻度が増す。活動電位の発生頻度の情報は、軸索末端(神経終末)まで伝わる。軸索末端において放出される神経伝達物質の量は、活動電位の頻度によって決まる。下図はイメージ(活動電位の波形など、あまり正確ではない。あくまでイメージ)。

一般に、放出される神経伝達物質の量は、活動電位の頻度によって正確に決まる。




雑談:教科書によっては、たとえば眼を「感覚器」とし、そこにある網膜を「受容器」としていることもある。しかし、高校生は、受容器=感覚器としてよい(たとえば数研出版の高校教科書は、受容器と感覚器を同義としている。また、ほとんどの教科書には「感覚器」の語は出てこない)。『岩波生物学辞典 第5版』(岩波書店)では、「受容器[receptor]」を「動物体が外界からの刺激情報の受け入れ口としてそなえる特別な構造の総称」とし、「古典生理学用語としての感覚器(sense organ)にあたる」としている。『生物学辞典』(東京化学同人)では、「感覚受容器[sensory receptor]」を「受容器(receptor)ともいう」としており、それについて「さまざまな物理的・化学的なエネルギーのなかで、ある特定の種別のものにだけ敏感に反応し、電気的な信号(受容器電位)を発生するように特殊化した細胞小器官・細胞、あるいは器官」と定義している。『南山堂医学大辞典 第20版』(南山堂)は「感覚器 sense organs」について「体内、体外の環境の変化、すなわち刺激を感知するために、特別な構造へと発達した器官を感覚器という」としており、さらに、「感覚器は、受容器とそれに続く求心性神経を中心に、刺激の受容を効率的、能率的に処理するための付属器とともに構成される」としている。『キャンベル生物学 原書9版』(丸善出版)では、「感覚の経路は、感覚受容にはじまる」とし、「感覚受容器(sensory receptor)」という語を使っている。また、感覚受容器という言葉は、「感覚細胞か器官について用いられる」としている。








発展:温度受容器


脊椎動物では、一般に、皮膚に温度受容器があるとされる。ヒトでは、ルフィ二小体(ルフィニ終末)が温受容器、クラウゼ小体が冷受容器と推定されている(いずれも皮膚にある)。

語呂「ルフィは熱い男、クラウドは冷静な男(ルフィ二小体が温受容器、クラウゼ小体が冷受容器)」

雑談:クラウゼ小体は、長い間、上述したように、冷覚の感受装置であると考えられてきたが、現在では、機械的刺激を感受するという説が有力である。

雑談:下図はルフィニ小体のイメージ。

ルフィ二小体。







発展:触覚


触覚は、皮膚などに弱い機械的刺激を与えたときに生じる感覚である。圧覚と区別しにくく、同一感覚の程度の差とする考えが一般的である。触覚の受容器としてマイスナー小体が、圧覚の受容器としてパチニ小体(パチーニ小体)が知られている(いずれも皮膚にある)。

語呂「パチっと叩くと圧を感じる(パチニ小体は圧覚に関与)」

雑談:下図はパチニ小体のイメージ。

パチ二小体。











発展:嗅覚

(細かくは知らなくてよい。まずは嗅上皮という語だけチェックしておけばよい。)
匂い受容の分子機構は以下の通り(下図はイメージ)。
①匂い分子が、嗅上皮(きゅうじょうひ)にある嗅細胞の嗅繊毛(高校では嗅繊毛と書くが、嗅線毛と書くことも多い)の嗅覚受容体(におい受容体、嗅受容体)に結合する(空気中を飛んできた匂い分子は、粘液に溶解し、嗅繊毛にある嗅覚受容体に結合する)。
②嗅細胞内でcAMPが増加する(匂い分子が嗅覚受容体に結合すると、Gタンパク質がアデニル酸シクラーゼを活性化し、cAMPが増産される)。
③陽イオンチャネルが開口し、Ca2+、Na+の流入量が増加する(脱分極)。
🄬Clーチャネルが活性化され、Clーが細胞外へ出ていく(さらなる脱分極)。
⑤脱分極が閾値を超えると、嗅細胞は活動電位を発生する(嗅細胞自身がニューロンである。嗅細胞の興奮の情報は、嗅細胞自身の軸索である嗅神経により、脳の嗅球[嗅覚神経系の中枢]へと運ばれる)。

匂い分子は嗅上皮にある嗅細胞の嗅繊毛の嗅覚受容体に結合する。



雑談:高校では、受容器の例として、眼と耳を重点的に学ぶが、鼻も、驚くべき受容器である(たとえば、良い香りのする[ただし、においの感じ方には個人差がある]バラ園の空気は、バラ園の外の空気と、ほとんど変わりがない。ただ、バラ園の空気には、1億molにつき1molだけ、バラの香りのもととなる成分が含まれているのみである。それだけでヒトはバラの香りを感じることができる)。

雑談:におい分子を認識する嗅覚受容体は、ヒトの場合約350の遺伝子で構成されているとされる。しかし、1万を超える匂い分子を、それほど少ない種類の受容体でどのように特定しているのだろうか。リンダ・バック(2004年ノーベル賞受賞)は、個々の匂い分子に応答する受容体の組み合わせのパターンの違いで匂いの識別が起きていることを明らかにした。

雑談:ヒトは、1万以上の揮発性の化学物質を検出できるともいわれる。各嗅細胞はただ1種類の受容体(嗅覚受容体、嗅受容体、におい受容体などと呼ばれる)を発現しており、各受容体は、複数のにおい分子を認識する。(一つの受容体は複数のにおい物質を受容できるが、一つの嗅細胞には一つの嗅覚受容体が発現する[一受容細胞一遺伝子説])。
*嗅細胞は鼻の奥にある(鼻腔の最上部を覆う)嗅上皮に存在する。
各におい分子は、複数種類の受容体に認識される。におい分子を認識する受容体(嗅覚受容体)の組み合わせ(その組み合わせは各におい分子に固有である)によって、特定のパターンの信号が発生し、その情報が脳へ伝えられると考えられている(嗅細胞の軸索は集合して、嗅球の特定の部位に投射する)。
*投射:情報を遠く離れた部位に送り出すこと。






発展:味覚

(細かくは知らなくてよい。まずは味蕾という語だけチェックしておけばよい。)
味覚は、舌の表面にある乳頭(わずかに隆起した突起)にある、味蕾(みらい。味覚芽[みかくが]ともいう)で受容される。下図は味蕾のイメージ。1個の乳頭に多数の味蕾が存在する。個々の味蕾は、50~150個の味細胞と支持細胞で構成されている。味細胞は味物質を受容し、感覚ニューロンを介して中枢に味の情報を送る。ヒトが受容できる基本的な味の種類は塩味、酸味、甘味、苦味の4つとされてきたが、昆布やかつお節のうま味(グルタミン酸ナトリウム。食欲をそそる味)も基本味の一つとして認知されるようになった。おおよそ、甘味が感じられる味物質は高カロリーの食品と結びついており、うま味が感じられるものはタンパク質を含むことを意味している。また、苦味は、有毒分子の摂取を防ぐ手段として進化してきたと考えられている。なお、辛味(カプサイシン)は痛覚受容器(TRPV1という受容体)で受容されるため、味覚には含めない。

味覚は味蕾で受容される。





雑談:味覚や嗅覚は、化学物質に関する情報(食物の場所や、食物のもたらす危険性に関する情報など)を与える。また、多くの動物では、嗅覚系はフェロモンの検出に使われる。味覚や嗅覚に関する研究は盛んであるが、その機能、役割についてはわかっていないことが多い。







要点:眼の網膜には2種類の視細胞(明るい所で主に色覚に働く錐体細胞と、暗い所でよく働く桿体細胞)が分布している。


(1)眼の構造


● 眼の適刺激は光である。

雑談:昆虫・鳥類の多くの種は紫外線(紫色の光よりも波長の短い光)を知覚することができる)。

● 眼の水平断面を上から見てみよう(下図)。眼の水平断面を上から見ているとすると、視神経(ししんけい)が左方向に伸びていることから、この図は右眼の水平断面とわかる(視神経は脳の方へ伸びている)。

眼の水平断面。



語呂「虹彩が交際(虹彩の断面が、なんだか二つの突起が向かい合って交際しているように見える)」見えないよね、すみません。

語呂「ガラスの恋、もう、脈はない。強くなれ。(光が入る方から順番にある構造。ガラス体、網膜、脈絡膜、強膜)」



①強膜(きょうまく)


● 眼は、白色の厚い結合組織(これを強膜という)で包まれたほぼ球状の器官である。

*強膜と網膜の間には、脈絡膜(みゃくらくまく)という、血管が豊富な薄い膜が存在する(脈絡膜には豊富なメラニン色素が存在し、光を吸収している[眼球内の光の反射や散乱を防いでいる]。また、脈絡膜には、網膜に栄養を与えるなどの働きがある)。



②角膜(かくまく)


● 光は、強膜とつながっている角膜を通じて眼球内に入る。

雑談:血管は光を遮るので角膜には血管がない。




③網膜(もうまく)


● 一番内側の膜が網膜である。

● 視神経が眼の外へ出ていく部分を盲点(もうてん。盲斑[もうはん]ともいう)という。盲点には、視細胞は存在しない(視神経が貫いている)ので、ここでは光を受容することができない。



雑談:ヒトの眼はカメラ状であり、カメラ眼と呼ばれる(ただし、ヒトの眼は水晶体[レンズ]の厚さを変えてピントを合わせるのに対し、普通のカメラはレンズを移動させてピントを合わせる)。軟体動物であるタコなどの眼では、視細胞の光を吸収する場所の『後ろ(ヒトと逆)』に軸索が位置しているため、網膜には視細胞がとぎれることなく並んでいる。そのため、タコには盲点(盲斑)がない。下図はイメージ(あまり正確ではない)。

タコには盲点がない。


雑談:以下はタコの視細胞のイメージ(タコには視細胞が1種類しかない)。

タコの視細胞。




*雑談:オウムガイなどの眼には水晶体がなく、ピンホール眼と呼ばれる。

雑談:昆虫は複眼を持つ。複眼は、個眼とよばれる光検出器が数千個集まったものである。複眼は、動きの検出に非常に優れている。昆虫が映画を見る時、映像が途切れていることに気付くであろう。昆虫の複眼は一般に短波長の光にも敏感で、紫外線を感じ、偏光感受能力も認められる。

● 網膜には視細胞(しさいぼう)がある。
*視細胞には、先っちょがとがっている錐体細胞(すいたいさいぼう)と、棒みたいな形をした桿体細胞(かんたいさいぼう)がある。

雑談:高校生物では「錐体細胞」、「桿体細胞」というが、一般には、これらの細胞は「錐体」、「桿体」という(テストでは「錐体細胞」、「桿体細胞」と書こう)。錐体は英語でconeといい、桿体は英語でrodという(桿には、「さお状の棒」という意味がある)。確かに、錐体細胞は三角コーンみたいな形をしているし、桿体細胞は(錐体細胞と比べれば)長い棒みたいな形をしている。

● 網膜にある連絡神経細胞(れんらくしんけいさいぼう)は、視細胞が受け取った光刺激を調節(コントラストを調節したりなど)している。

● 色素上皮細胞(しきそじょうひさいぼう)は、その名の通り色素を含む細胞。光の乱反射を防ぐ(眼の内側は真っ黒に見える)。また、視細胞にレチナールを供給している。

下図は網膜のイメージ。
*色素上皮細胞は網膜に入れないこともある。
視細胞の向きに注意。

網膜の構造。





問題:網膜には、 a 色素上皮細胞 b 視細胞 c 視神経細胞 がある。
並んでいる順番を、光の入ってくる方から順に記号で示せ。

答え:c b a


問題:下図は網膜の一部である。ふつう、光がくる方向はAとBのどちらか。


答え:A








⓸錐体細胞・桿体細胞


● ヒトの網膜には錐体細胞(すいたいさいぼう)桿体細胞(かんたいさいぼう)がある。

● 錐体細胞は明るい所ではたらき、主に色覚に関与する(したがって薄暗い所では色が識別しにくい)。

● 桿体細胞はうす暗い所でもはたらく(明暗を鋭敏に区別する)。




● ヒトの網膜には、430nm付近、530nm付近、560nm付近の光をよく吸収する、3種類の錐体細胞(それぞれ、青錐体細胞・緑錐体細胞・赤錐体細胞)がある。

雑談:赤錐体細胞の吸収する波長のピークは、実際は黄色の波長だが、赤色(650nm以上)の波長を吸収できるのは赤錐体細胞のみである。

下図はイメージ。

錐体細胞には青錐体細胞・緑錐体細胞・赤錐体細胞の3種類がある。





雑談:脳は、3種類の錐体細胞(赤・緑・青)の読み取りの比較に基づいて色を決定する。たとえば、すべての種類の錐体細胞が同程度に活性化した場合、私たちは「白色」を知覚する(ノートが白色に見えるのは、ノートから来る光が、3種類の錐体細胞を同程度に活性化させるからである)。

雑談:生物体では、同じ刺激を受け続けると、次第にその刺激に対する反応が低下することがある。たとえば、赤色を見続けると、赤錐体細胞の反応は低下することが知られている。下の赤い丸の写真を、なるべくまばたきをせずに30秒見続け、その後すぐに真っ白いノートのページを見てほしい。ノートに青緑色の丸が浮かび上がると思う。このような残像は、赤・緑・青の錐体体細胞が同程度に反応できないために生ずる(すべての種類の錐体細胞が同程度に活性化した場合に私たちは白色を知覚する。今回の実験では、赤い丸を見続けることによって網膜の赤錐体細胞の反応が弱まったため、脳が白を知覚できなくなったのである)。通常、外科医の服は白衣ではない。もし外科医の服が白衣であったならば、白衣に、患者の血の残像がちらついてしまう。
















⑤水晶体(すいしょうたい)


● 水晶体は透明である。遠くを見る時、近くを見る時で厚さが変化する。水晶体はクリスタリンというタンパク質を豊富に含む。

雑談:水晶体とレンズを同義のように扱うことも多い。厳密には、光感覚器官・発光器官の前に位置する通光・屈折の機能をもつ構造体をレンズといい、そのうち、脊椎動物のカメラ眼のものを特に水晶体という。




⑥ガラス体


● ガラス体(がらすたい)は、水とタンパク質からなるゼラチン状の物質である。

雑談:ガラス体は、ぱんぱんに眼球内に詰まっており、網膜を強膜に押し付けてガラス体内にはがれてこないようにしている。


講義動画【眼の構造】





⑦視細胞の分布


● 錐体細胞は黄斑(おうはん)に集中して分布する。

●黄斑の中央には、中心窩(ちゅうしんか)というくぼみがある(一般に、錐体細胞の密度は、中心窩の部分で最大となる)。


雑談:黄斑にはキサントフィルという色素が局在している。そのため、黄色く見える。

雑談:黄斑は眼球後極のやや耳寄りにある、径2mmほどの領域である。その中心に中心窩というくぼみがある。錐体細胞の密度は、中心窩、あるいはさらにその中心部分(中心小窩)で最大となる。

雑談:中心窩は血管を欠き視細胞が密に分布しているため視力が最も大きく、視軸はここを通る。黄斑と中心窩を同義とすることもある。

● 桿体細胞は黄斑と盲斑以外に分布する。

講義動画【視細胞の分布】




講義動画【視細胞を切断する問題】



雑談:一般に視野とは、眼前の1点を固視した状態で見えている範囲をいう。両目で正面を見た場合、左眼の視野と右眼の視野は重なる。その重なった領域で立体視が可能になる(なお、単眼視野は、鼻とまぶたに遮られるために、耳側に広い楕円形になる)。

両目で正面を見た場合、左眼の視野と右眼の視野は重なる。その重なった領域で立体視が可能になる。



雑談:網膜の鼻側半分から出た視神経は、交叉する。そのため、左脳は視野の右半分を、右脳は視野の左半分を担当することになる。
下図① 左眼の左側(耳側)視野→右脳が担当
下図② 右眼の左側(鼻側)視野→右脳が担当
下図③ 左眼の右側(鼻側)視野→左脳が担当
下図⓸ 右眼の右側(耳側)視野→左脳が担当

網膜の鼻側半分から出た視神経は、交叉する。






(2)遠近調節


①遠くを見る時、毛様体の筋肉が弛緩し、チン小帯(ちんしょうたい)が引っ張られ水晶体がうすくなる。
*この時、焦点は遠い所に合っている。

雑談:チン小帯の「帯」の字に注意(体ではない)!チンはドイツの解剖学者の名前。

*覚え方
遠くを見るとき、水晶体がうすくなる。(これだけ知っておく。あとは、そのために何が必要か考えれば、暗記する必要はなくなる。)

水晶体をうすくするためには、チン小帯で引っ張ればよい(チン小帯が緊張する[緊張する、とは、ピンと張る、みたいなイメージ])。

チン小帯をひっぱるには、毛様体は弛緩すればよい。
と考える。

②近くを見る時は、毛様体の筋肉が収縮し、チン小帯がゆるみ、水晶体が厚くなる。
*この時、焦点は近い所に移動している(「焦点距離が小さくなっている」と表現されることもある)。



水晶体は、遠くを見る時にうすくなり、近くを見る時に厚くなる。毛様体が弛緩したり収縮したりすることでこの変化が起きる。


語呂「ライブに来ても、ステージから"遠い"と感動が"うすい"("遠い"所を見る時、水晶体は"うすく"なる)」




講義動画【遠近調節】



雑談:毛様体とは、脊椎動物の水晶体の周辺を囲む器官である(筋繊維の束を含む)。チン小帯によって水晶体につながり、水晶体の曲率の調節を行う。毛様体の筋肉が収縮すると、毛様体全体の内径が小さくなり、それと水晶体を連結する細い繊維であるチン小帯は弛緩する。その結果、水晶体が自らの弾性により曲率を増し、近い対象物に焦点が調節される(曲率とは、曲がりの程度を示す値)。

雑談:ヒトのように、レンズの曲率を変えて調節をする動物の大部分は陸上生活をし、その眼は調節なしの状態では無限遠に焦点が合っている。近距離に調節する場合は、毛様体が収縮してチン小帯を弛緩させ、水晶体は自己の弾力により曲率(特にその前面の)を増す。 最大限の調節を行ったときに焦点が合う点が近点である。 対象物が遠点(調節を休止させたときに明視できる一点。正視眼では無限遠)と近点の中間にあれば、毛様体の調節によって対象物の像を網膜上に結ぶことができる。





(3)暗順応・明順応


● 暗いところから急に明るいところに出るとまぶしく感じるが、しばらくすると正常にもどる。これを明順応(めいじゅんのう)という。

● 逆に、明るいところから暗い所に行くと、はじめは何も見えないが、しばらくすると正常に戻る。これを暗順応(あんじゅんのう)という。


詳細:ロドプシンについて

・明順応、暗順応
には、主に桿体細胞の中にあるロドプシンという視色素(視物質)が関係している。

・ロドプシンはオプシンというタンパク質と、ビタミンAの還元型であるレチナールからなる。

ロドプシンはオプシンとレチナールからなる。



・ロドプシンが多いと、弱い光を受容できる。つまり、光刺激に対する閾値が下がる(=感度が上がる)。

・桿体細胞の中にあるロドプシンに光が当たると、レチナールの構造が変化(シス型からトランス型へ変化)して、オプシンからはずれる(ロドプシンは分解する)。この反応がきっかけとなり、視細胞に電位変化が生じる。

・レチナールは、血液中から供給されるビタミンAからつくられる。ビタミンAが不足すると、夜盲症(暗順応障害を引き起こす疾患)になる。

雑談:ヤツメウナギ(顎のない原始的な脊椎動物)は鰓孔(エラ穴)が7対ある。それで「八つ目」ウナギの名が付いている。ヤツメウナギは眼によいとされ、漢方などに使用されてきた。ヤツメウナギはビタミンAを多く含むので、あながち根拠がないというわけでもない。

・いきなりまぶしい所に出ると、桿体細胞のロドプシンが急に反応し、細胞が過剰に興奮してよく見えなくなる。

ロドプシンが減少することで、桿体細胞の感度は下がってくる(明順応)。

・逆に暗い所では、ロドプシンが足りず、よく見えない。しかし、徐々にロドプシンが合成・蓄積され、桿体細胞の感度が上がる(暗順応)




桿体細胞の中にはロドプシンがある。


レチナールは光を受けるとロドプシンに光が当たると、レチナールの構造が変化して、オプシンからはずれる(ロドプシンは分解する)。この反応がきっかけとなり、視細胞に電位変化が生じる。





・活性化したロドプシンはすぐに不活性になり、さらに、構造変化を起こしたレチナールを放出してしまう。

・構造変化前のレチナールは色素上皮細胞から補給される。

・明るい場所では、ほとんどのロドプシンは分解されてしまっている。暗い場所に移り時間が経つと、だんだん色素上皮細胞から構造変化前のレチナールが補給され、ロドプシンは再合成されて行く。

ヒトには3種(赤・青・緑)の錐体細胞がある。錐体細胞は黄斑に集中して分布している。それぞれの錐体細胞のオプシンのアミノ酸配列の違いにより、よく反応する色が異なる(錐体細胞の視物質に含まれるレチナールは桿体細胞と同様である。ただ、オプシンに相当するタンパク質部分のアミノ酸配列は異なる。そのアミノ酸配列の違いが、それぞれの錐体細胞が反応する色の違いに繋がっている。)。

・暗順応の前半では錐体細胞の感度上昇が起こり、後半では桿体細胞の感度上昇が起こる(錐体細胞は、かん体細胞より、感度は低いが、応答が速いことが知られている)。以下の動画でグラフを確認せよ。




講義動画【暗順応のグラフ】





雑談:ロドプシンは赤い。ロドプシンの語源は「rhod=バラ、posing=視覚に関する」である。

雑談:詩人ゲーテは、明暗調節について研究している。「網膜は、光あるいは闇がそれに作用するのに応じて二つの異なった状態にあり、これらの状態は相互にまったく対立している。」「われわれが強く照明された白い面に目を向けると、眼はくらんで、しばらくは適度に照らされた対象を識別することができない。」「白昼の明るい所から薄暗い場所へ移る人は誰でも、最初は何も識別することができない。」ゲーテ『色彩論』目に対する光と闇の関係より



・ 薄暗いところで色が識別できないのは、主に桿体細胞が働いているからである。

・暗い星を見る時は、その星をまっすぐ見てはいけない。その星からくる光が黄斑(黄斑には明るいところで色覚に関与する錐体細胞しか分布していない)に当たってしまう。暗い星を見る時は、その星の周りをみる(すると、暗い星からくる光は、薄暗いところではたらくことができる桿体細胞が分布するところに当たる)。


雑談:本来、かん体細胞の視物質をロドプシンと言うのであって、厳密には、錐体細胞の視物質はロドプシンとは言わない。「錐体の視物質 cone photopigments 」などとよばれる。錐体細胞の視物質を、ヒト緑、ニワトリ青などと、同定された動物名をつけて呼ぶことも多い。高校生は気にしなくていい。

雑談:一般に、桿体細胞のロドプシンのオプシンと、錐体細胞のヒト緑などのオプシンを言い分ける時、前者をスコトプシン、後者をフォトプシン(赤オプシン、緑オプシン、青オプシンなどとも呼ぶ)と言う(フォトプシンの定義は、はっきりとは決まっていない。高校では、錐体細胞の視物質をフォトプシンと呼ぶことが多い。高校生は現在学校で使っている教材の解釈に合わせれば良い)。







雑談:桿体細胞において、光が電気信号に変換されるまで

まず、光が来る前(暗い時)は、ある種のナトリウムチャネル(cGMP依存性Na+チャネル。なお、このcGMP依存性Na+チャネルは、Ca2+も通すことが知られている)が開いている。このチャネルを通って桿体細胞にNa+が流入しており(桿体細胞は脱分極している)、桿体細胞は、多量のグルタミン酸を放出している。
*cGMP(サイクリックジーエムピー):環状GMP。生体内の様々な反応でセカンドメッセンジャーとして働いている。

光が来た時は、以下のような反応が起こる。

①光によって桿体細胞の円板膜上にあるロドプシンが活性化し、活性化したロドプシンはGタンパク質(トランスデューシン)を活性化させる。

*トランスデューシンはGタンパク質であり、活性化されると、GDP結合型からGTP結合型に変化する(GDPと結合していたのが、GTPと結合するようになる)。

②トランスデューシンはホスホジエステラーゼ(cGMP分解酵素)を活性化させる。

③ホスホジエステラーゼによって、cGMPが分解され、細胞質のcGMP濃度が下がる。それにより、ある種のナトリウムチャネル(cGMP依存性Na+チャネル)からcGMPが離れる。すると、そのナトリウムチャネルは閉じるので、Na+の流入が阻害される。このNa+流入の阻害は、桿体細胞の過分極を引き起こす。

④桿体細胞から放出されるグルタミン酸の量が減少する。この情報が脳へ伝わる。

このように、光のシグナルは細胞膜に迅速に伝わり、細胞膜の過分極を通じて電気的なシグナルに変換される(今回の場合、面白いことに、受容器電位[感覚刺激に応じて受容器に発生する電位変化]は、脱分極ではなく、過分極である)。

①光によって桿体細胞内の円板膜上にあるロドプシンが活性化し、活性化したロドプシンはトランスデューシンを活性化せる。
②トランスデューシンはホスホジエステラーゼを活性化させる。
③ホスホジエステラーゼによってcGMPが分解されることで、ナトリウムチャネルが閉じる。このNa+流入の阻害は、桿体細胞の過分極を引き起こす。
④過分極により、桿体細胞から放出されるグルタミン酸の量が減少する。この情報が脳へ伝わる。


*光が来ない時、桿体細胞はたくさんグルタミン酸を放出している。光が来ると、桿体細胞から放出されるグルタミン酸が少なくなる。桿体細胞の放出するグルタミン酸は少なくなることが、光が来たという情報を伝えるメッセージになる。

桿体細胞の放出するグルタミン酸は少なくなることが、光が来たという情報を伝えるメッセージになる。








(4)光量調節


虹彩(こうさい:iris 虹の神が語源)の筋肉が収縮、または弛緩することで、瞳孔の大きさを調節している。光の量を調節するため、暗い場所では瞳孔は拡張し、明るい場所で瞳孔は縮小する。

*虹彩は水晶体の前面にかかる円盤状の薄い板である。中央部にある瞳孔の大きさを変え、入射光量を調節する。




瞳孔は、交感神経を介した指令で拡大し、副交感神経を介した指令で縮小する。

*闘争状態を司る自律神経が交感神経。敵からの情報を多く手に入れるために瞳孔を拡大させると考えればよい。

(詳しく問われることもあるが、まあ、まずは、虹彩の位置が選べればいい。)






虹彩は2種類の平滑筋で制御されている。

・リング状に走行する瞳孔括約筋(どうこうかつやくきん。括約とは、縮めるという意味)は、副交感神経の支配を受けており、この筋肉が収縮すると瞳孔が小さくなる。





・放射状に走行する瞳孔散大筋(どうこうさんだいきん)は、交感神経の支配を受けており、この筋肉が収縮すると瞳孔は拡大する。



(つまり、この2種の筋肉の名前は、「その筋肉が収縮したら、瞳孔はどうなるか」というルールで名付けられている。)






要点:音(空気の振動)は鼓膜の振動に変換される。耳小骨がその振動を増幅させて内耳に伝える。


(1)耳の構造


下図は耳のイメージ(あまり正確ではない。必ず教科書等で正確な図を見ておくこと)。



● 外耳(がいじ):耳殻(じかく)と外耳道(がいじどう)がある。

*鼓膜(こまく)は外耳と中耳の境界にある。鼓膜を中耳の構造物のひとつとすることも多い。

● 中耳(ちゅうじ):鼓室(こしつ。中に耳小骨[じしょうこつ]がある)がある。3つの耳小骨には、鼓膜に近い方から、ツチ骨、キヌタ骨、アブミ骨と名前が付いている。

● 内耳(ないじ):耳の最内部。うずまき管、半規管(はんきかん)、前庭(ぜんてい)がある(聴覚および平衡覚の受容器[前庭と半規管]がある)。

● 耳管(じかん):ユースタキー管(エウスタキオ管)とも呼ばれる。鼓室内に外気を流通させ、鼓室内の気圧を外気圧に一致させる。

雑談:エウスタキオ(Eustachio)はイタリアの解剖学者の名前(比較解剖学の創始者の一人)。エウスタキオは耳管を再発見した(古くは前500年頃Alkmaionが記載)。

雑談:耳管は鼓室と咽頭をつないでいるが、通常ほとんど閉じている。エレベーターや飛行機で、急激に高い所に昇ると、音が聞こえにくくなる。これは、鼓室と外気の気圧の差によって鼓膜がゆがむからである。ごくんとつばを飲み込むと、耳管が開き、鼓室内の気圧が外気圧と一致し、鼓膜が正しい位置に戻る(気圧変化のために音が聞こえにくくなった時に、つばを飲み込むと治るのはこのためである)。

雑談:耳管を通って細菌が咽頭から鼓室に侵入すると、鼓室、中耳で炎症が起こってしまう。よって、耳管は普段閉じている。

雑談:下図はうずまき管付近を少し詳しく描いたイメージ(ただし、実際にこのような形の物体が内耳にあるわけではない。現実には、このような骨に形の空洞が空いている[骨迷路]。そしてその中に、うずまき細管や半規管などの細長い管がおさまっている[膜迷路]。下の雑談を参照)。
*この図の「半規管」としている所は、正確には「骨半規管」と書くべきだが、高校教科書に合わせて半規管としている。テストでもそのように答えよ(骨半規管を半規管と書くことも多い)。




雑談:内耳は、正確には、側頭骨の内部をうがつ骨迷路(緻密骨で囲まれた複雑な形の管腔。うずまき管、前庭、骨半規管よりなる)と、その内部にある膜性の膜迷路からなる(膜迷路は、軟らかい膜性の閉鎖管で、中に内リンパを満たす。膜迷路は、骨迷路中にほぼ同形をなしておさまっている[うずまき管の中にうずまき細管が、前庭の中に卵形嚢・球形嚢が、骨半規管の中に半規管がおさまっている])。骨迷路と膜迷路の間には外リンパがある。下図はイメージ(あまり正確には描いていない。前庭あたりに卵円窓がある[描いていない]。骨迷路は骨でおおわれた洞窟のようなもの。その中に膜迷路がおさまっている。緑色の部分は外リンパで、水色の部分は内リンパで満たされている)。

骨迷路の中に、同じような形をした膜迷路がおさまっている。


以下はもう少し膜迷路を正確に描いた図(以下の図も正確とは言えない。内リンパ管や内リンパ嚢などは描いていない。正確な構造は大学で学べばよい)。

膜迷路。








(2)音が伝わる流れ



● 耳殻(じかく。耳介[じかい]ともいう)は、色々な方向からくる音を集める役割(集音機能)を持つ。

● 外耳道が音波を鼓膜に伝達する。

● 鼓膜の振動を(てこの原理によって)耳小骨(ツチ骨・キヌタ骨・アブミ骨からなる)が増幅する。耳小骨はうずまき管に振動を伝える。



耳小骨。


耳小骨は振動を増幅させ、うずまき管に伝える。




雑談:ツチ骨とキヌタ骨は爬虫類の祖先では顎(あご)を構成していた。



● 以下はうずまき管を伸ばしたと仮定した時のイメージ。矢印は波(液体の振動)が伝わる方向。卵円窓を覆うアブミ骨の振動は前庭階に伝わる。最終的に波は正円窓によって鼓室の空気中に放散される(前庭階と鼓室階には外リンパ[がいりんぱ]と言う液体が、うずまき細管には内リンパ[ないりんぱ]と言う液体が入っている)。

うずまき管を伸ばしたと仮定する。


卵円窓から伝えられる振動は、前庭階、鼓室階を経て、正円窓へ伝わっていく。




*以下はうずまき管の断面のイメージ(あまり正確な図ではない。また、知らなくてよいが、うずまき細管は、前庭階と鼓室階にはさまれているので、中央階とも呼ばれる)。まるで3階建ての建物である。3階が前庭階。2階がうずまき細管。1階が鼓室階。
*前庭階と鼓室階は外リンパという液体で、うずまき細管は内リンパという液体で満たされている。

うずまき管の断面。うずまき管はまるで3階建ての建物である。3階が前庭階。2階がうずまき細管。1階が鼓室階。



以下はうずまき細管の付近の拡大図。うずまき細管の中にはおおい膜や聴細胞がある。

うずまき細管の中にはおおい膜や聴細胞がある。





● うずまき管の中の基底膜(きていまく)が振動する

基底膜のよく振動する位置は、音の高さによって違う。このことによって我々は音の高さの違いを認識できる。

● 基底膜の上にあるコルチ器(こるちき。「コルチ器=聴細胞+おおい膜」と考えてよい)が振動する。おおい膜(おおいまく)に接している聴細胞(ちょうさいぼう。「聴細胞」の語を使わず、前庭や半規管にある感覚毛をもつ細胞とあわせて有毛細胞と表記することもある)の感覚毛(かんかくもう)が刺激を受け、屈曲する。その結果、聴細胞に興奮が発生する。

*どこまでの構造をコルチ器に含めるかにはいろいろな考えがある。ここでは高校の資料集に解釈を合わせている。

*下図はコルチ器のイメージ(細かくは描いていない。実際は、聴細胞の周りには、聴細胞を支える細胞がたくさんある)。

基底膜の上にあるコルチ器が振動すると、おおい膜に接している聴細胞の感覚毛が刺激を受け、屈曲する。その結果、聴細胞に興奮が発生する。




雑談:コルチ(Marchese Alfonso Corti) はイタリアの解剖学者の名前。


雑談:基底膜が振動し、聴細胞の感覚毛がおおい膜に押されてひずむと、聴細胞の膜電位が変化する。聴細胞からニューロンに向けて神経伝達物質が分泌され、聴神経が興奮する。

基底膜が振動し、聴細胞の感覚毛がおおい膜に押されてひずむと、聴細胞の膜電位が変化する。



雑談:感覚毛がある方向に屈曲すると、その機械的な刺激でチャネルが開き、陽イオンが細胞に流入すると考えられている(しかし。まだ有毛細胞において興奮が発生するしくみについては完全には解明されていない)。


感覚毛がある方向に屈曲すると、その刺激でチャネルが開き、陽イオンが流入すると考えられている。




● 興奮は聴神経(ちょうしんけい)によって脳へ伝わる(なお、聴覚野は側頭葉にある)。

*ヒトの認識できる周波数は20~20000Hz(20Hz~20kHz)とされる。


雑談:Hzは「ヘルツ」と読む。振動数(周波数)の単位。1秒間にn回振動すればnHzである。

雑談:聴神経は、聴覚と平衡覚を脳に伝える感覚性の脳神経である。内耳では二分し、そのうち、蝸牛神経は聴器から、前庭神経は前庭や半規管から起こる。







発展:うずまき管について


・うずまき管は、例えるなら、3階建ての細長い家である。3階は前庭階(ぜんていかい。 scala vestibuli)、2階はうずまき細管、1階は鼓室階 (こしつかい。scala tympani)である。

雑談:scalaは「階段」を意味するラテン語。

・前庭階と鼓室階は外リンパという液体で満たされている(外リンパ[がいりんぱ]は細胞外液に似た組成であり、Na+濃度が高く、K+濃度が低い)。

・うずまき細管は内リンパ(ないりんぱ)という液体で満たされている(内リンパはK+濃度が高く、Na+濃度が低い。これは細胞内液の組成に似ている)。


雑談:以下の表は前庭階、うずまき細管、鼓室階を満たしている液のおおよその組成。単位はmM(mmol/L)。前庭階と鼓室階は外リンパで満たされている。うずまき細管は内リンパで満たされている。

前庭階と鼓室階は外リンパで満たされている。うずまき細管は内リンパで満たされている。








・うずまき細管にはコルチ器がある(コルチ器を聴覚の受容器とすることも多い)。

・うずまき細管(うずまきさいかん)は、内リンパが充満する袋のようなものであり、2つの部屋(前庭階と鼓室階)に挟まれた形になっている。音の圧力波の振動によって、この袋状の管は上下に揺さぶられる。






発展:音波の伝わり方について(詳細)



・耳小骨(ツチ骨・キヌタ骨・アブミ骨)は(覚えなくてよいが、てこの原理によって)鼓膜の振動を増幅して内耳に伝える。

・まず、アブミ骨が卵円窓(らんえんそう)を押し込む。

・圧力波は前庭階を伝わり、基底膜を下方に押す。

・波はうずまき管の頂部まで達し、折り返す。そして圧力波は鼓室階を伝わる。

・基底膜の特定の場所がよく振動する(その上にあるコルチ器を振動させる→興奮の発生)。

・薄膜の正円窓(せいえんそう)が圧力波の最終的な到達地点である。

・(知らなくてよいが、正円窓の膜は、アブミ骨の動きによって形作られる圧力波とは逆位相で前後に振動する。それにより)正円窓で音は消失する。これは、次に来る音波のための装置のリセットに相当する。

・このように、音波はうずまき細管へ直接入らないのにもかかわらず(ウォーターベッドを強く押し下げた時の反応のように)、うずまき細管全体が振動する。コルチ器が感受するのは、まさにこの振動である。

*卵円窓と正円窓が紛らわしいかもしれない。「はじめは卵」と覚えておこう。


雑談:入試では上の説明のように書かれることが多いが、現実には、波は、基底膜の最大振幅の位置でほぼ消失していると考えられている(完全に消失するとは考えにくいので、上の解釈は誤りではない。ただし、前庭階→鼓室階→基底膜のように、順番に移動していくわけではない)。
波のエネルギーは、基底膜の大きな振動に使われると考えられている。
入試問題の中には、振動が伝わる順序を①前庭階②鼓室階③基底膜と説明しているものもある。非現実的な解釈だが、一応高校生は、そのような解釈もあると知っておこう。大学に入ったら生理学の教科書で自分で学べばよい。下図はイメージ。

波は、基底膜の最大振幅の位置でほぼ消失していると考えられている。







問題:コルチ器内の聴細胞に振動が伝わるまで、以下の構造がどのような順に振動するか。振動が伝わるのが早いほうから答えよ。
A:鼓膜  B:コルチ器  C:耳小骨  


答え:ACB




(3)基底膜


● うずまき管の中で基底膜が振動する場所は、音の高さによって異なり、低い音ではうずまき管の頂上部に近い部位が振動し、高い音では逆にうずまき管の底部に近い部位が振動する。このように音の高さによりうずまき管内の異なる場所の聴細胞が興奮するため、ヒトは音の高低を識別できる。

基底膜が振動する場所は、音の高さによって異なる。




・基底膜は、うずまき管の頂部で「幅が広く・柔軟性がある」。そして、基部で「幅がせまく・かたい」。

(三角定規を指ではじく時に出る音を考えよう。尖っている方をはじくとビ――ンと高い音が出る。逆側をはじくとべーーーんと低い音が鳴る。そんな印象と関連付けて覚えよう。)

下図はイメージ。

基底膜は、うずまき管の頂部で「幅が広く・柔軟性がある」。そして、基部で「幅がせまく・かたい」。



雑談:エネルギー保存則を見出したことで有名な生理学者・物理学者のヘルムホルツは、基底膜が、「ピアノと逆のはたらきをしてる」ことに気付いた。ピアノは、多数の振動する弦によって生じた音を組み合わせることで複雑な音を作り出す。うずまき管は、基底膜上で複雑な音を(波長ごとに)分解する。






(4)おおい膜


聴細胞(有毛細胞[ゆうもうさいぼう])の先端は、ゼラチン質のおおい膜の中に埋め込まれており、その様子は、さながら毛布が細胞を覆うようである。基底膜が振動すると、聴細胞の感覚毛が屈曲する→興奮が生じる。


講義動画【主に聴覚に関わる構造】







(5)平衡覚


● 傾きや回転などの感覚を平衡覚(へいこうかく)という。

*耳は、音受容器であると同時に、平衡受容器でもある。


● 前庭(ぜんてい)は、耳石(じせき。平衡石ともいう。小さな炭酸カルシウムの結晶によって体の傾きを受容する。
*耳石は重い(知らなくてよいが、周囲の液体や組織に比べて2~3倍の比重がある)。この耳石の重みは、有毛細胞感覚毛を重力の方向に曲げる。前庭はこのような仕組みで体の傾き(重力の方向)を検出している。

雑談:耳石の成分は、生物種によって異なる。脊椎動物では耳石は炭酸カルシウムからできており、細胞が分泌して出来上がるが、エビ・カニなどでは水底の砂粒を取り込んで、それを耳石とする。

雑談:耳石は、耳石膜(糖タンパク質[有毛細胞の周りにある支持細胞が分泌したもの]からなる)というゼラチン状の物質の上にある。耳石膜の下部は、有毛細胞の感覚毛を覆っている。

下図はイメージ。

前庭は体の傾きを受容する。耳石膜は覚えなくてよい。



雑談:正確には、上図のような構造物(有毛細胞と支持細胞からなる感覚上皮)を平衡斑(へいこうはん)といい、体の傾きだけでなく、直線方向の加速、減速も感知している(たとえばエレベーターや乗り物が加速・減速をする時の感覚)。前庭の中にある球形嚢(きゅうけいのう)と卵形嚢(らんけいのう)という2つの場所に、それぞれ平衡斑がある(2つの平衡斑はほぼ直交している[球形嚢は垂直、卵形嚢は水平])。卵形嚢、球形嚢と半規管をあわせて前庭器といい、前庭神経を通じて脳へ平衡覚を伝えている。



● 半規管(はんきかん)は、リンパ液の流れで体の回転を受容する。半規管は、xyz平面に配置されている(したがって「三半規管」とも呼ばれるが、教科書に合わせて、大学入試では書かないほうが良い)。よって、回転運動を三次元で検出することができる。


● 3つの半規管のそれぞれには膨大部というふくらみ(少し広い部屋のような部分)があり、そこに有毛細胞がある。有毛細胞の感覚毛はクプラと呼ばれるゼラチン状の物質に埋まっている(下図はイメージ)。

雑談:クプラも、前庭の耳石膜のように支持細胞によってつくられると考えられているが、よくわかっていない。

有毛細胞の感覚毛はクプラと呼ばれるゼリー状の物質に埋まっている。



● 頭部が回転を始めると、リンパ液は慣性のために取り残され、頭部の回転方向とは逆方向に移動し、クプラが押されて感覚毛が倒れる(自転車に乗っているとき、自転車の進む方向[下図赤矢印]とは逆方向に風[下図黒矢印]を受ける。クプラも、回転方向とは逆向きの力を受ける。そんなイメージでとらえておこう)。

頭部が回転を始めると、リンパ液は慣性のために取り残され、クプラが押されて感覚毛が倒れる。



回転の終了時には、リンパ液は慣性のためにしばらく流れ続けるため、感覚毛は回転開始時とは逆方向に倒れる。
感覚毛の屈曲がきっかけとなって、回転の情報が脳へ伝わる。

● 前庭、半規管がキャッチした情報は、前庭神経(ぜんていしんけい)によって脳へ伝えられる。





発展:半規管内のリンパ液の動きのイメージ

(ほぼ問われない。)

①回転開始時:回転方向とリンパ液の動きは逆向き。感覚毛は、回転方向とは逆向きに倒れる。 (リンパ液は、体の回転方向と同じ方向に加速されていく。やがて同じ体の回転と同じように回転するようになる→②へ)
②回転中:回転方向とリンパ液の動きは同じ向き。からだの回転と同じようにリンパ液も回転するので、感覚毛は傾かない(等速で動くバスではよろめかずに立っていられることを思い出そう)。
③回転停止時:体が回転を停止しても、リンパ液は回転していた方向と同じ向き(①と逆向き)に動き続ける(感覚毛は①と逆向きに倒れる)・・・目が回っている感覚が生じている状態。

半規管は、リンパ液の流れで体の回転を受容する。



(上のイラストのバスに乗った高校生は、覚え方の参考として描いたもの。実際は、感覚毛は、慣性により取り残されたリンパ液がクプラを押すことにより曲がると考えられている[体が加速され回転し出しても、リンパ液はもとの位置に留まろうとするから、体に対してリンパ液の相対的な動きが生じる。やがてリンパ液も体の運動方向と同じ方向に加速され、体と同じ速度で回転するようになる。体が停止しても、リンパ液は、慣性により、それまでと同じ方向に運動を続ける。バスの中の高校生は、感覚毛というより、リンパ液の挙動に似ている]。また、観測者がどこにいるかによって見える運動は異なるので、厳密には上の説明は正確ではないが、高校生物では気にしなくてよい。)

雑談:有毛細胞は静止状態の時でも神経伝達物質(主にグルタミン酸と考えられている)を放出しており、感覚ニューロンの活動電位が一定の頻度で発生している。
①有毛細胞の感覚毛がある方向に傾くと、神経伝達物質の放出量が増え、感覚ニューロンにおける活動電位発生頻度が増加する。
②有毛細胞の感覚毛が①とは反対向きに傾くと、神経伝達物質の放出量が減り、感覚ニューロンにおける活動電位発生頻度が減少する。

①有毛細胞の感覚毛がある方向に傾くと、神経伝達物質の放出量が増え、感覚ニューロンにおける活動電位発生頻度が増加する。②有毛細胞の感覚毛が①とは反対向きに傾くと、神経伝達物質の放出量が減り、感覚ニューロンにおける活動電位発生頻度が減少する。





講義動画【平衡覚に関わる構造(前庭・半規管)】






まだわかっていないこと

● 脳はどのように視覚における色、深さ、動きについて処理・統合しているのか(たとえば、犬が遠くからあなたの方へ近付いてくる時、網膜像が拡大しているからと言って、犬が大きくなっているとは知覚せず、近付いてくるように知覚する)。

● ヒト以外の動物は、この世界をどのように「見ているのか」(ここで言う「見え」は、ヒトのそれとは意味が違ってくるであろう)。

● 眼や耳は、進化の過程で、どうしてこれほど高度に複雑化・効率化できたのか。

● 眼や耳がその適刺激を受け取る仕組み(特に分子的な仕組み)や、その刺激をどう脳で処理しているのかについては、完全には解明されていない。

● この世界のもつ物理的な性質と、生物のもつ知覚(事物や事象、さらにそれらの変化を認知すること)には、密接な関係があることは確かである。しかし、それはどのような関係なのだろうか。これを真剣に(哲学的に)考えると少し難しい。日本の哲学者、大森荘蔵は次のように述べている。
「重さ、伝導度、ヤング率、分子構造等々の物理的性質および物理的関係もまた、知覚に還元される。われわれは天びんのバランスの知覚、メーターの針の位置の知覚、スペクトル線の位置の知覚等々からこれら物理的性質を定めるのである。概括して言えば、すべての物理的性質や関係についての知識は知覚の領域から得られ、また、それ以外から得られないのである。」「科学理論すなわち世界の科学描写の検証の場が知覚風景にあるのである。実験にせよ、観測にせよ、それらは知覚風景の中の作業である。」大森荘蔵『言語・知覚・世界』より