見出し画像

201015【奈良の夜にハニカミ】

小学校、中学校、高校を出て、大学に進み、成績はホントに良くなかったが、卒業後はなんとか社会人生活、ううん、くたびれたサラリーマン生活を送っている。

幾つかの時代を生きてきたが、一番詰まらなかった、充実しなかったのは高校時代だと思っている。自分はね。

そんな高校生活においても、【修学旅行】という一大イベントがあって、自分は最終日前夜の夕食、学年全体400人の前で「酒が飲めるぞ♪」ともちろんシラフの状態で連呼し、何かの映画で地球を救ったような気持ちで自室に戻った。

自室で飲み直そうか、アルコールはカクテルパートナーをパートナーにしようかと思ったが、まだ高校生、マズイマズイ。そんな時、声がかかった

「行くぞ、来いよ。」と。


その前の前夜は、京都での宿泊だった。3泊4日の折返し、となる2日目の夜。同じクラスのサッカー部のヤツに誘われ、女子の部屋に行った。おいおい、マズイんじゃないかと思っていたが、こんな自分でも女子と触れ合える時間は貴重だ。日頃、部活動の走り込みをサボらずやってきて、徳を積んだ自分に訪れたチャンス。バッターボックスに立ったからには、フルスイングするんだ。そう思って入った女子部屋。同じクラスの男女、そうだな、10人くらいは居たかな。いい具合に集まったところで何をしようか。自分は買い出しでも何でもしますよ、カクテルパートナーのスクリュードライバーくらいが良いかなと思いながら、トランプが配り出された。

その時である、一番苦手な古典の先生、厚化粧タイプの女教師が部屋に入ってきた。

「何しているの?」

何って、修学旅行のレポートのまとめでしょうよ。自分は頭の中でベタな言い訳を考えた。

「女子部屋に行くことはダメです。」

そんなレギュレーションあるんかいな。中途半端に配られたトランプは自分たちと同じようにカップルは1組も成立せず、廊下に並ぶことになり、正座となった。

「なんで女子の部屋に行くのがダメなんだよ。」

愚痴を言い合うに決まっている。そんな疚しいことなんてしないし、進学校の生徒らしく、純愛を貫く。純愛を経験したことがないのですが。

しばらくして、女教師がやってきた。

「失礼しました、就寝時間までは、大丈夫です。」

ほら見ろ、という反応を皆がしている。そして、その時は就寝時間を過ぎていた。ええと、23:00かな。その時間も早すぎだろ。23時、これから楽しくなる時間じゃないかと思うのに。

仕方なく、その日は宿の廊下で解散となったが、各々が部屋に戻る前、アイコンタクトで「明日は夕食後、ヤるぜ。」の眼差しだったことを覚えている。


自分は今、修学旅行の夜に、女子の部屋に向けて歩いている。一歩一歩、色んな思い出が走馬灯のように蘇る。太っているだけを理由に振られた過去、野球部は坊主だからというだけでメールが途切れた過去、トスバッティングで大会前に正捕手の顔面に打球を当て居場所がなくなった過去、色々あったけど、この瞬間を待っていた。ワインディングロードではない、これはウィニングロードだ。ホテルの部屋のドアはどこも重い、ただ、今日は何故か軽く感じた。

部屋に入ると、そこはもう、男女が遊べるように部屋の中にスペースが設けられていた。女子側も好きねぇ。と思いながら、自分は周りより早めに部屋に入ったのか、しばらく待つことになった。

「さっきのあの歌は何?」という問いは、一種のヒーローインタビューのように聞こえた。

「キミに捧げる歌だよ。」

そんな返しはできなかったが、会場でひと笑い、そして、夕食後、この瞬間の助走だ。

「もうこれくらいかなぁ。」

女性陣側のリーダーが仕切りだしたが、どう見ても、一点気になる点がある。

男性陣、多すぎじゃね。

覚えている。女子が5人に対して、男子は8人いた。まあ、そんな飲み会、合コンは社会にでたらよくあるよという予習も兼ねて、修学旅行最終日前夜、奈良、陣が始まった。13人もいると、トランプゲームはあっという間になるため、女性陣のリーダー、細身で当時モデルとしてメディアを賑わしていた鈴木えみに似ている風の子が、割り箸を取り出して、配り始めた。用意周到とは、この時に使うんだろうなぁ。野球部のエースとも一時付き合っていた彼女、今は何をしているのか、今も割り箸を配っているのか分からないけど、先端に小さく数字が書かれた割り箸が配られた。

王様ゲームの開始だ。

王様ゲーム、もちろんこの場が初めてだ。日本には国王が存在しない、ただ、このゲームの中では一定の確率で王になれる、その瞬間を支配できる、何かの革命だ。

「王様の言うことは、ぜった~い、せえの、王様だ~れだ。」

どこで学んだん、それ。絶対、地元でもやってるやん、ヤンキーとやってるやん、と今は推測する。でも、当時自分は純粋に楽しんだ。王様の指示に従う、数字だけで運命が分かれる何だかよく分からない世界。

「5番と8番がハグする。」

ゲーム序盤で、こんな指示が飛んだ。なにこれ、ハグできるの。ラッキーじゃん。しかも、結構可愛い子いるし。

ただ、数字はランダムだし、同性同士の可能性もある。結局その可能性までたどり着かず、自分はこれっぽっちもしたくない同じ野球部のヤツとハグをした。誰が見たいん、これ。と思いながらもちょんとハグして、次を急かす。

そして、王様の印が付いた箸は、自分にも来るもんだ。さて、何を指示しようか。

当時、金曜日の夜は、TBS系列の「恋するハニカミ!」を観ていた。男女1人ずつの芸能人が、相手を知らされないまま待ち合わせしデートをする。また、デート内にて「ハニカミプラン」というコーナーがあり、視聴者もドキドキするような展開があって、高校生の自分はよく観ていたなぁ。その際の演出を参考にしようと、頭を回転し、王となった自分は指示をした。

「3番と8番が、お互いの良いところを耳元でささやく。」

これはエッジの効いた提案だ。室内は盛り上がった。

「イエーイ!!」

あややが踊るのかと思った。決して、「ハニカミでやってたんだ。」なんて種明かしはしない。「お前、ぶっこんでくるなぁ。」と褒め言葉なんだけど、ここからが大事。

さて、自分のミッションを手に入れたのは、誰だ。

恥ずかしながら手を上げたのは、運良く男女だった。

しゃー。心の中でガッツポーズだ。ただ、周りの反応は半分半分だった。
選ばれた二人、過去に付き合っていた二人だった。サッカー部のキャプテンと、可愛い目をした彼女。二人でラブホテルに行った疑いを、ここでも書いたことある二人。

あっ。

自分が一気に冷静になったが、そこは大人な二人。当時、付き合っていたかのようにはにかむ二人は、皆の前で、お互いの耳元に身を寄せ、周りを取り囲む自分たちにも聞こえないくらいの声で、褒めあっていた。

自分にもやってほしい。モヤモヤする。これが青春だとは言い切れないが、羨ましかった。

自分の指示が堰を切ったのか、それ以降、選ばれた二人が身を寄せるような際どいお題が飛んだが、何故か、自分には縁がなかった。

くそっ、なんで自分には良いお題が来ないんだよ。

そう、思っていた時、就寝時間まではもう20分くらいか、最後の盛り上がりに、鈴木えみ似のリーダーは、何やらカバンからお菓子を取り出した。

ポッキーである。

何時も時代もポッキーは女と酒の場の中心に君臨しているお菓子だ。だから、カラオケに行っても、キャバクラに行っても、ポッキーが刺さっているのか。

もうこれは、ポッキーゲームしかお題がないという縛りが入り、残り時間、割り箸に全集中で「君に決めた。」と言いながら、割り箸を手に取った。

ただ、自分にポッキーを咥えるシーンは、どうだったかな、まあ、そんなもんだったりする。とりあえず、あの夜を思い出して、ポッキーを咥える、最初から途中までビターであれ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?