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途切れた通知

出張からの帰り道、私はスマートフォンの画面を眺めていた。長い一日が終わり、ようやく自宅に戻ることができる。だが、その時、画面に突如として奇妙な通知が表示された。「あなたは今、ここにいます」と、通知を開くと地図アプリが起動し教えてくれるが、表示されたのは見覚えのない場所。廃墟と化した建物の写真が添えられ、私の顔がぼんやりと映っている。何かの間違いかと思いつつ、不安が胸をかすめた。

家に着き、その奇妙な通知を忘れようとしたが、スマートフォンは次々と異常な通知を送り続ける。それはまるで、私がその場所を訪れたかのような内容で、場所ごとに私の写真が添えられていた。しかも、それぞれの写真には微妙に表情が違い、背後にはいつも誰かの姿がうっすらと見える。しかし、どれもが私が訪れた記憶のない場所だった。

不気味さを感じつつも、私はこれを深く追究する勇気がなかった。ただ、日が暮れるにつれ、その通知の頻度は増していき、私の写真に写る背景は徐々に私の家に近づいているように見えた。夕食を食べながら、私はふと思った。これはただのバグなのか、それとも...

夜、就寝前に再びスマートフォンを手に取ると、新しい通知が。今度の写真は、私の家のすぐ外で撮られたものだった。私は窓の外を恐る恐る見たが、そこには誰もいない。心臓がドキドキと高鳴る中、スマートフォンの画面に目を戻した。画面には、今までとは異なるメッセージが表示されていた。「もうすぐ、目的地です」

そのメッセージを最後に、通知は途絶えた。私は一晩中、何かが起こるのではないかと警戒しながら過ごしたが、幸いなことに何も起こらなかった。翌朝、私は何とか普通の日常を取り戻そうと努力した。しかし、スマートフォンの通知が私の心の中に残した不安は、そう簡単には消え去らなかった。

数日後、私は友人との食事の約束で外出していた。楽しい時間を過ごし、すっかり先日のことを忘れていたその時、またしてもスマートフォンに通知が届いた。今回の写真は、現在私が座っているレストランの外から撮影されていた。写真の中の私は、窓の外を見ているが、その窓ガラスには、ぼんやりとした人影が映っている。 混乱しながらも、私はすぐにその窓の外を見た。しかし、そこに人の姿はなかった。ただ、なぜか窓ガラスには、人の顔のような曇り模様がほんのりと残っている。その模様は、写真の中の人影と同じ位置にあった。

この出来事以来、私はスマートフォンの通知に異常なほど敏感になった。しかし、それ以上奇妙な通知を受け取ることはなかった。

それから数ヶ月が過ぎたある日、私はふと、スマートフォンのアルバムを見返していた。そして、あの時受け取った奇妙な通知の写真をもう一度見てみることにした。写真を一枚一枚確認していくうちに、私はあることに気づいた。それは、背後に映る人影が、写真を追うごとに、徐々にだが確実に私に近づいていることだった。 最後に受け取った通知の写真、それは私が自宅の外を写したものだった。そして、その写真には、家のドアを開ける私の姿が写っている。しかし、よく見ると、ドアの隙間から、何かが家の中に忍び込む影が捉えられていた。 私はその影が何なのか、今もって知る由もない。ただ、夜な夜な、ふとした瞬間に誰かの視線を感じることがある。

それが現実なのか、それともまだスマートフォンの中に残る幻影なのか、その答えを私は持っていない。

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