無(最高の状態) 第1章 自己
1 なぜチンパンジーは半身不随でも幸福なのか?
が、ひとつだけ動物と人間には重要な違いがあります。それは、哺乳類は苦しみをこじらせない、という点です。
2 あなたのニーズが満たされない状態
同じ哺乳類でありながら、ヒトだけが「苦しみ」をこじらせるのはなぜでしょう?
怒り、不安、悲しみ、恥、虚しさ。いずれもごく日常的な感情ですが、発生している「苦しみ」の種類はそれぞれ違います。これらの状況に共通するポイントとは、いったい何でしょうか?
結論から言えば、すべての状況は「あなたのニーズが満たされない状態」としてまとめることができます。
3 真の苦しみは"二の矢"が刺さるか否かで決まる
あらゆる苦しみはランダムに発生し、いかなる知性でも予測は不可能でしょう。
これが〝一の矢〟です。
これが〝二の矢〟です。「半身不随」という最初の矢に反応した脳がさまざまな思考を生み、そこに付随して表れた新たな怒り、不安、悲しみが次々とあなたを貫き、いよいよ苦しみは深まっていきます。
このように、最初の悩みがまた別の悩みを呼び込み、同じ悩みが脳内で反復される状態を、心理学では「反芻思考」と呼びます。
4 あなたの"怒り"は6秒しか持続しない
何とも辛い状況ですが、もしここで〝一の矢〟だけで苦しみを終えることができたらどうでしょうか?
近年の研究では、〝一の矢〟の脅威が思ったより長く続かないことがわかってきました。
5 ヒト以外の動物は明日のことをくよくよ考えない
目の前にない過去と未来を想像できる能力が、私たちを深く悩ませているのは間違いないでしょう。
そう考えると、やはり私たちが〝一の矢〟だけで苦しみを終えるのは不可能なのでしょうか?
6 すべての苦しみは「自己」の問題に行き着く
まず重要なのが、人間が抱くネガティブな感情はニーズが満たされないサインだという点です。
そしてもうひとつ、人間が苦しみをこじらせるのは、私たちが目の前の世界だけを生きられないからでした。
以上をふまえて言えるのは、これらの問題を煎じ詰めれば、すべて「自己」の困難に行き着くという点です。
前提として、ここでは自己を「自分が他者とは異なる存在であり、常に同じ人間であるという実感」と定義します。
「私は私である」という感覚が人類の苦しみに関わるのは、自己が感情と時間の基準点として働くのが原因です。
7 ヒトの心などなくしたほうが良いのでは?
しかし、幸いにもここ数年の認知科学や脳科学の発達により、自己についてわかりやすい考え方が生まれてきました。それは、自己とは、あなたの内面に常駐する絶対的な感覚ではなく、あなたの感情を支配する上位の存在でもなく、特定の機能の集合体にすぎないというアイデアです。
8 「自己」は生存用のツールボックスである
いずれも自己と他者の区別がなければ存在し得なかったものばかりで、すべてを合わせれば、少なくとも25万年前には自己の初期形態が現れていたと考えられます。
もちろん自己の具体的な役割についてはまだ議論があり、他の機能を提案する専門家も少なからず存在します。その決着は遠い先の話でしょうが、ひとつの統一された「わたし」など存在せず、自己を特定の機能の集合体として解釈する点ではおおむね一致を見ています。いわば自己とは生存のためのツールボックスのようなものであり、サバイバルに必要な道具の寄せ集めにすぎないのです。
9 やはり自己は消せるのではないか?
私たちの自己は人類の生存ツールとして進化してきたシステムであり、外界の脅威に応じて機能を発動させる。
この事実から、私たちは2つの要点を得ることができます。
❶ 自己が消えるのは珍しいことではない
❷ 自己が消えてもあなたは作動する
もうひとつ大事なのが、これらのシチュエーションにおいては、自己が消えたところで私たちの行動には問題がない点です。
煎じ詰めれば、本章のポイントは大きく2つあります。
自己は日常的に生成と消滅をくり返し、「わたし」がなくても問題ない状況が多く存在する
自己は人間が持つ多くの生存ツールのひとつであり、感情や思考といった他の機能と変わりはない
私たちの感情や思考が、ある程度までトレーニングでコントロールできるのは周知の事実。それならば、感情や思考と似たように、自己もまた鍛錬による操作が可能ではないのでしょうか?
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