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夜のピクニック

大学生時代、少なすぎるバイト代をやりくりしながら、有り余る時間をどのように有意義に過ごしたらいいものか。

学生時代最大と言っても過言ではない課題を前に頭を悩ませたことを思い出す。

時には突発的で無計画なことを思い浮かぶ物でそんな一つを話したいと思う。

大学がある町から約50km離れた実家に歩いて帰ろうと思い立ったのは夏の始まりで、すぐに友人に連絡を取った。

馬鹿な誘いを受けてくれる友人3名でバイト終わりに集合し、腹ごしらえを終えると夜の11時頃から歩き始めた。

歩き出して10kmが過ぎた頃話し出したのは高校時代の話。当時は気恥ずかしくて話せなかったことも時間が経てば意外と話せるもので夜の空気に吸い込まれながら延々と話し続けた。

20km地点。時刻は早朝4時を過ぎており足の痛みを和らげる様に砂浜に寝転がった。
そろそろ始発が出る頃だ。
乗らなくで大丈夫?って笑いながら誘ってくる友達も既に足の痛みにやられていた。

休み休み歩きながら気がつけば30km地点が来ていた。未来の話をしながらこれから卒業してこんな仕事をしたい、こんな大人になりたいなんて夜明けを見ながら語り合った。

40kmを過ぎた頃、疲労と足の痛みがピークに来ており誰も言葉を発さなくなった。
ただ無言に歩く、前だけを向いて。

車や電車で移動することが多かったこともあり1kmがこんなにも長いものかと改めて感じた。
ゴール目前の残り数kmで完全に足が動かなくなった。数m歩いては休んでを繰り返していた頃、時刻は朝の8時を回っていた。

半ば泣きながら駅前の温泉へと着いたのは朝の10時を過ぎており、そこからしばらく動けなくなった。

押し寄せる足の痛みと疲労、達成感を感じながら湯船に浸かる。

温泉からでると外は大雨で50kmと言う道のりを必死に歩いたにも関わらず家までの帰り道、友達の母親の送迎で、あれだけ文明の力を使わないことを誇りにしていた12時間を数分でぶち壊して夜のピクニックが無事終了した。





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