[第6回・前編] リスクの取り方・避け方を見える化 --- vNM効用関数]

講義ウェブサイトはこちらです。
-------------------------------------

第6回目の前半では,前回の講義<後編
・そのギャンブルにいくら払う?
で導入した期待効用理論について掘り下げました。

【板書】 期待効用を計算する際に,実現した結果に対する“効用”(のようなもの)を与える関数をvNM(型)効用関数と呼び,この講義ではvで表す。

vNMは期待効用理論の提唱者であるフォン・ノイマン&モルゲンシュテルンの略です。期待効用理論あるいは期待効用仮説とは,不確実な出来事(これを「くじ」と表現します)に対して
・期待効用の大きいくじを選好する
という考え方です。今までの講義で扱ってきた(不確実性のない)確定的な財・サービスといったアイテムは,確率1でその結果が生じるような「退化したくじ」として表現することができます。やや強引ではありますが,こうすることによって,vNM効用関数は
・不確実性がない状況における選好も表現することができる
こと,つまり意思決定理論を
・不確実性が存在するようなより大きな問題へと拡張する
考え方であることが分かります。

そうは言っても,「なぜ人々がvNM効用関数の期待値が大きいくじを選好するのか?」は明らかではありません。フォンノイマンとモルゲンシュテルンは,
・どういった条件の下で,人々が“あたかも”期待効用理論に従って意思決定を行っているとみなすことができるか
を明らかにして,この疑問に明快に答えていますが,講義では割愛しました。興味のある方は,たとえば次のスライド(英語です)の21~25ページを参照してください。
Introduction to Decision Making Theory

以降では,(特に断りがない限り)人々は期待効用仮説に従うとします。つまり,各人の選好やそこから導かれる選択行動は,その個人のvNM効用関数によって決定されると仮定します。

板書の左下では,あるvNM効用関数vに対して
・v' = av + b (ただしa>0)
という正の線形変換(アフィン変換)を行った時に,この新たな
・関数v'がもとの関数vと全く同じ選好・選択行動を導く
ことを確認しました。くじxとくじyが与えられた時に,xがyよりも選好されるのは,xに対する期待効用がyのそれを上回るとき,つまり
・E[v(x)] > E[v(y)]
が成り立つときです。これは,以下を意味します。
・E[v(x)] > E[v(y)] ⇔ aE[v(x)]+b > aE[v(y)]+b ⇔ E[v'(x)] > E[v'(y)]
結局,
・vとv'で任意のくじxとyに対する期待効用の大小関係は変わらない
こと,つまり,vとその正の線形変換であるv'は,どんなくじに対しても全く同じ選好を導くことが確認できました。

板書の右下では,各人の選択行動からvNM効用関数を見つけ出す方法について紹介しました。おさらいすると,vNM効用関数は,起こり得る確定的な結果(たとえば賞金額)などに応じて,それから得られる“効用”のようなものを数値化する関数でした。いま,
・x_N:最高の結果
・x_1:最悪の結果
としたときに,最高の結果には1,最悪の結果には0をまず与えます。
・v(x_N) = 1, v(x_1) = 0
さらに任意の結果x_iに対して,次の二つのくじを考えます。
・くじA:確実に結果x_iが実現する
・くじB:確率p_iでx_N,確率1-p_iでx_1が実現する
ここで,くじAとくじBが無差別になるような確率p_iをイメージしてみてください。くじBは,p_i=0のとき確定的な最悪の結果,p_i=1のとき最高の結果をそれぞれ実現することから,ちょうど確定的な結果x_iと無差別になるような値のp_iが(原理的には)ただ一つだけ見つかるはずです。こうして求めた確率p_iを,結果x_iに対する“効用”とみなすことによって,vNM効用関数は求まります。以上を整理すると
・v(x_i) = p_i, v(x_1) = 0, v(x_n) = 1
となります。

たとえば,
・確実に5000円受け取ることができる
・確率pで1万円,確率1-pで0円受け取れる
が無差別になるような確率pを頭にイメージしてください。ちなみに,クラスで質問した時は,多くの学生がpが0.6以上の値になると答えていました。ここで(自分の中で)見出したpは,
・v(10,000)=1, v(0)=0
と関数vの2点を固定したときの,5000円に対する関数vの値,つまり
・v(5000)=p
になっています。ちなみに,上で確認したようにvNM効用関数は正の線形変換に対して不変なことから,こうした2点の固定化は一般性を失わない,つまり「やっても全く問題のない操作」である点に注意してください。

もしあなたが期待効用理論に従って不確実性下の意思決定を(あたかも)行っている,あるいは行いたいと思っている場合には,実践的であるかはさておき,こうした
・自問自答によって,原理的にはvNM効用関数を求めることができる
のです。そして,もし必要があれば,求まった関数に対して自由に正の線形変換を行うことができます。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?