あすを探る:成功を導く2つのものさし
2021年3月25日(木)の朝日新聞[あすを探る]に
・組織成功の法則「SDG」
と題する論考を寄稿しました。同時に、2019年4月から2年間お世話になった朝日新聞論壇委員を卒業することに!この間に、合計で229論考のメモをまとめて、毎月の論壇委員会で報告しました。
最後となる「あすを探る」では、苦楽をともにした素晴らしい仲間たちに感謝しつつ、自らの委員体験から
・チームや組織が成功するための法則
について考察しました。この1年以上にわたって私たちが経験、あるいは意識してきた「距離」(ディスタンス)の概念が論考の中心となっています。卒業制作(?)のつもりで気合いを入れて書いた文章なので、多くの方に読んで頂けると嬉しいです😊
今までどうもありがとうございました! 読者のみなさま、関係者の方々に心よりお礼申し上げます m(_ _)m
組織成功の法則「SDG」
論壇委員の仕事は時間がかかる。大量の論考に目を通し、毎月メモをまとめ、長時間の会議に出席しなければならない。しかも、費やされる労力の大半は内向きで、頑張ってもサボっても報酬自体は変わらない。経済学的には、モラルハザードが起こる典型的な状況といえるだろう。ところが、実際にはどの委員も手を抜くことなく、いつも刺激的で熱のこもった議論が繰り広げられた。なぜ論壇委員会はうまく機能していたのか。その理由を探ることで、チームや組織を成功に導くヒントが得られるのではないだろうか。当事者として感じた要因は、次の二つである。
一つ目は、パフォーマンスの見える化だ。各委員が提出する毎月のメモは、一つのファイルにまとめられてメンバー内で共有される。これを判断材料とすることで、相互の仕事内容を確認し、評価し合うことができるのだ。経済学では、互いに内容を知り尽くしているような情報を共有知識という。各メンバーの貢献が一部のメンバーにしか伝わらない状況では、なかなかやる気が出ないだろう。各人の貢献度をできるだけ見える化し、共有知識に近づけることで、競争を生み出す効果が期待できる。そのためには、貢献度の大きさを定量的に評価する尺度(Scale)が欠かせない。
二つ目は、メンバーに対する仲間意識だ。論壇委員会では、年齢が近く男女も半々で、専門分野が異なる委員が集まったことで、互いにフラットな関係が築けた。加えて、論壇時評を充実させるという同じ目的や、当事者しか経験しない苦労を共有することができた。チーム全体のパフォーマンスを高める協力行動は、仲間意識がないと生まれにくいが、それを左右するのはメンバー間の距離(Distance)だろう。何らかの意味で近さを感じることができるメンバー同士は仲間になりやすいからだ。そのため、共通の目標や体験、趣味や嗜好(しこう)の類似性といった、距離感がつかめるような基準が役に立つ。
まとめると、メンバーたちから利己的な競争心を引き出すための尺度(S)と、利他的・互恵的な協力を促すための距離(D)という、タイプの異なる二種類の物差しの使い方が鍵を握る。結果として、両者のバランスが良いチームほど、人々をひきつける引力(Gravity)を持つのではないだろうか。やや強引だが、SとDの組み合わせがGを生むことから、この考え方を「SDG仮説」と名付けたい。
旧共産圏で計画経済が失敗した理由は、Sの問題で生産者に適切なインセンティブを与えられなかったせいだ。日本企業から長時間労働がなくならないのも、労働時間という不適切な尺度でいまだに人事評価を行っているからだろう。逆に考えると、適切な尺度でパフォーマンスを見える化するだけで、従業員のやる気を引き出せる可能性がある。であれば、思いきって情報の共有知識化を目指してみてはどうだろうか。
コロナ禍で新たな日常となったソーシャルディスタンスやテレワークは、Dの問題を深刻化させた。人に近づく機会が制限されて仲間作りが難しくなった一方で、家庭から逃げ場がなくなりDVやストレスに苦しむ被害者は増えた。人々の移動を制限したことで、今までバランスを保ってきた距離感が社会から消失してしまったのだ。
SDG仮説は単なる言葉遊びではなく、本家のSDGs(持続可能な開発目標)の達成にも役に立つ。市場経済はお金という強力すぎる尺度が支配するSの世界であるのに対して、家族や地域共同体は血縁や地縁でがちがちに繋(つな)がったDの世界だ。前者は格差を生み、後者はしばしば自由を奪う。資本主義の限界や伝統的なコミュニティの危機が叫ばれる中、持続可能な社会を実現するために、SとDのバランスのとれたチームや組織の活躍に期待したい。
「SDG仮説」は今回はじめて思いついたのではなく、昨年の夏頃からイベント登壇などで紹介し、少しずつ発展させてきたアイデアです。公開されている動画リンクを掲載しますので、ご関心のある方はぜひご笑覧ください😉
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