【短文レビュー/ミステリ小説】『なんで死体がスタジオに!?』森バジル・著
舞台は、とあるテレビ局。大型バラエティ特番の生放送が始まる直前、プロデューサーの幸良涙花は、出演者のひとりである大物俳優の死体をスタジオの脇で発見する。ひとまず死体を隠した幸良だが、指示に従わないとスタジオに仕掛けた爆弾を爆発させるとのメッセージが残されていたため、犯人の用意した台本どおりに番組を進行する羽目になる。
まず普通に、スピード感のあるサスペンスとして読み応えがある。多視点による描写と番組本来の企画である「ゴシップ暴露トーク」によって真実の断片が少しづつ明かされていく構造は、生放送で全国に流されている最中という緊張感のある舞台設定も相まって手に汗握ったまま一気に読めてしまい、それだけで満足度は充分に得られる。
ただ、少し戸惑うこともある。設定上は架空のテレビ局による架空の番組だが、スタッフ同士の会話には実在の芸能人やテレビ番組の名前が何度も出てきており、ほぼ現実に沿った世界線だと意図的に示している。そんな中で、時おり挟み込まれるメディア論は、明らかに現実のバラエティ番組もしくは視聴者に向けられた提言だ。そんな社会派スタンスの側面と、軽妙なミステリ小説の側面が、変なバランスで組み合わさっているのが本作である。その両者の結実として披露される、あまりにアナクロな「芸能界の闇」そのままの"真実"と、輪をかけてアナクロな犯人からの愚直すぎるメッセージは、どう受け止めたらいいのか。