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肝試し #ボケ学会(ニ分ぐらいで読める小説)➕追伸


僕は憧れの彼女にプロポーズをした。
それほどの付き合いはないのだが、ダメ元でプロポーズしたのだ。
彼女は日本人離れした美人。
誰もが認める美女。
その様な美女なのだが、僕はなり振り構わず、プロポーズした。

彼女は笑みを浮かべながら、
「私、強い男が好きなの。いわゆる肝の座った人に憧れるの。
もし、貴方が私と結婚したいのなら、この場所で一晩過ごして!
それが出来たら、私は貴方のプロポーズを受けても良いわよ。」
と、私にその住所を書いたメモ書きを手渡してくる。

見ると私の住む場所からはそれほど離れてはいないが、
この場所は有名な霊スポットである。
そしてこの場所には廃墟となっている洋館がある。
…この廃墟の館で一晩過ごすのか?…
と、恐れを感じたが、彼女に認めてもらうには
その霊スポットの館で一晩過ごさなければいけない。
僕は覚悟を決めて、その館に向かう。

その館の周辺は鬱蒼した木々に囲まれていた。
いかにも、霊達の憩いの場の様にも見える。
僕は勇気を振り絞り館の前まで行く。
時刻は夜の八時を過ぎていた。
夏なのに、何か冷んやりとした風を感じる。
街頭も無く月明かりの元で見る館は、不気味な様相を表している。
僕は用意した懐中電灯を灯し、ゆっくりと入口のドアを開け、
恐る恐る、中に入って行く。
館内は暗闇に覆われ、異様な匂いがするが嫌な臭いでは無い。

懐中電灯の光を頼りに僕はゆっくりと歩を進める。
冷気に包まれているのか、暑さを感じない。
まるで、館内に冷房が施せれているみたいで、不思議である。

僕の心臓の鼓動が早くなるのがわかる。
心臓の音が、館内に鳴り響くみたいだ。
廊下を歩いて行くと部屋のドアにぶつかった。
ドアを開けて静かに室内を照し見渡す。

ここは、以前リビングルームだったのだろうか?
広々とした部屋である。
長いテーブルと椅子が4脚並んでいる。
し〜んと静まり返る部屋。
以前、私の鼓動は鳴り響いている。
月明かりが窓の外から入ってくるとはいえ、
ほとんど闇で見えない。
懐中電灯の照らした場所だけしか見えない。
室内に灯りを照らし確認した事は、誰も居ないことだった。
私は部屋の中に入り、椅子に腰を掛けようと椅子をみると
驚いた事に、塵一つ無く綺麗である。

テーブルの上も塵一つもない綺麗な姿があった。

「誰か、この部屋を掃除しているのか?」
と、思わず声が出る。
床を照してみても、ゴミ一つ落ちてはいない。
私は土足で上がってきた事に罪悪感がでてきたが
今更、靴を脱ぐ気持ちにもなれない。

「この部屋で、一晩過ごそう。」
と、独り言で自分で自分に確認を取る。
心臓もやっと落ち着きを見せているのか、静かになった。

恐怖感が無くなると、睡魔が僕を襲ってくるのだろうか?
僕は、気絶するかの様に眠ってしまう。

気がつくと、朝の日差しが私の身体に降り注いでいた。

「やったぞ!僕ここで一晩暮らした。直ぐに彼女に報告しよう」

と、僕はタクシーを拾い彼女の住むアパートへ。

そして、彼女の顔を見るなり
「レイちゃん、僕はあの館で一晩過ごしたよ。僕のプロポーズを
受け止めてくれるよね。」

「どうしたの、こんなに朝早く来て、
こんなに朝早く来なくても良いのに。」
と、迷惑顔だ。
「私には貴方があの館で一晩過ごした事を知っていますよ。
貴方、気がつかなかったのね。私がず〜と貴方の横にいたのに、
解らなかったなんてショックだわ。」

レイちゃんのその言葉は私の身体を瞬時に膠着させた。

「貴女が横に居たなんて、僕には解らなかった。
貴女は何処にいたのか?」
と、少し声を荒げて言った。
「ずっと、貴方の隣にいましたよ。
貴方リビングの椅子に腰をおろしていましたね。
私の横に座ったから、貴方には私が見えるんだんと思って嬉しかったのよ。」
と、薄笑みを浮かべながらレイは言う

「もしかして、レイちゃんは・・・・・」
僕は、言葉にならぬ言葉を残して逃げる様に、
レイちゃんの元から去って行った。

…レイちゃんは、この世のものではない!…
恐怖と残念な気持ちを残し、僕はレイちゃんとの結婚を諦めた。

「私、監視カメラで見ていただけなのに。
馬鹿な人だわ。でも残念だわ、やっと一晩過ごすことができる
肝の座った人を見つけたのに、最後の最後の言葉で逃げて行くなんて、
失格だわ。また次の人を探さないと、私、婚期を逃してしまうわ。」

追伸
何故リビングの部屋が掃除されていたのか?

暗闇でも映る高性能の監視カメラの設置。
館内にも冷房されていたみたいだ。
誰の仕業かは解ると思います。


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