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三つ子の魂百迄も(2)

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「僕は平成8年9月9日生まれです。
 血液型はA型。大学は◯◯大学を卒業。
 警備会社に勤めましたが、一年で辞めました。
 名前は杉田公一と言います。柔道は四段です。」
 と 柔道の部分だけ自慢げに言ったが、
 自分の人生を振り返ると言うほどのものは、
 残念な事に余り無かった。

「柔道四段ですか?素晴らしいです。今まで、探偵の経験はあり 
ますか?また、探偵の仕事の内容はご存じですか?」
と聞かれた。
「全く知らないです。テレビドラマで見るぐらいです。
一体何をするのでしょうか?」
と僕の方から質問した。

「そうですね、一般の人は探偵の仕事の内容など知らないと思います。簡単に言うと、秘密の調査です。これは、危険を伴います。
しかし、人助けでもあります。実を言いますと私も、悪質な
ストーカに合い困っていたのです。犯人も限定出来ず、警察は、
何もしてくれない。その時に探偵に頼んでストーカを突き止め
撃退したのです。私が今日あるのも、探偵さんのおかげです。」

と嬉しいそうに話す、飯島さんの顔が生き生きと輝いている。

(なるほど、探偵とは人助けをする仕事か)と思うと、僕は探偵の仕事をしてみたいと言う気持ちが湧いてきた。

そう言えば、僕は今まで人助けをしたことが無い。

「危険な事とは、どんな事ですか?殺されたりするのですか?」

と言う僕の質問に飯島さんは、言葉を飲み込む様に
言った。それも、小さな声で。

「殺された人は、聞いた事ないです。」
(聞いた事が無いというのは余りにも、無責任な言い方だ)
と、思ったが警備員だって、危険は伴う。

探偵も警備員も相手が悪者で武器を持っていたら、命の補償など無い。

その時、事務員らしき女性が、お茶を持って来てくれた。
此処は女性だけの会社であろうか?

「此の会社の従業員の方はどの様な方がいらっしゃるのでしょうか?」

「従業員は先日退社いたしまして、今は私と妹の2人だけです。
でも、ご安心下さい。いつか此の会社を日本一の探偵事務所にするつもりです。」
と、威勢良く飯島さんは言い切った。

余程自信があるのであろう、女性の探偵として優秀な方かも知れない、と僕はその時、素直に思った。
「此の会社は創業何年ぐらいになるのですか?」

「会社の創立はもうすぐ一年になります。まだ、初めて間もないです。若い会社は初々しいくハツラツとしていますよ。」
と元気いっぱいで見ていて気持ちが良い。

「あのー。飯島さんは、探偵の経験は長いのですか?」
と、少しサグってみた。

「そうです。経験はありますが、そんな事は気になさらずにして下さい。最も大切な事はやる気です。あとは根性。」

と、スポーツ漫画に出てくる様なセリフを言ってきた。

「それに私には実績があります。私のストーカを自ら捕まえました。凄いでしょ!」

さっきは、(探偵のおかげで今の自分がある)
と、言った様な気がしたが
(今度は自分が捕まえた。)と言っている。
不思議であった。

飯島さんの第一印象は、謎めいた妖艶な女性と感じたが、
話をしてみると、その様な人にはおもえなかった。
気さくで気取りが無く屈託も無い女性という感じがした。
此の人なら信用しても良い気がしてきた。

私は、柔道部と言う男ばかりの所にいたので、余り女性との交流は無かった。女性の柔道部員は私の大学には、ほとんど居なかった。時々、女性の警官が稽古に来ていたが、顔は美人なのだが、性格は男みたいで、恋愛感情にならず友達である。
その女性は、今は刑事をしている。

ふと、飯島さんが結婚しているのかどうか気になってしまった。
独身みたいな気もするが、実際のところはどうであろうか?
僕は疑問に思った事は直ぐに口にするタイプだ。

「飯島さんは、ご主人はいらっしゃるのですか?」
と、直球をビシッと投げ込んだ。

飯島さんは、ちょと待ってみたいな顔をした。
(そんな事、採用面接に関係ないでしょ)と言いたげな顔だった。
しかし、後ろから声が聞こえた。

「姉は独身です。彼氏もいません。今がチャンスです。」
と妹が明確に答えてくれた。
「それに、今まで姉は付き合った人は居ません。
と言う事で姉はーーーです。」

(そうか、妖艶に見えて、ーーーなのか?)と思っている
僕の表情は妖しく蠢めいていた?のだろうか。

姉は私の顔を見て言った。
「貴方の想像は間違っていると思いますよ」
と少し怒りながら、赤らめ顔で言う仕草が何とも可愛い。

そして、今度は真面目な顔で、強く言った。

「内で働く気持ち、ありますか?
でも給料は安いですよ。報酬制なので」

「報酬制とは何ですか?成功しないともらえないのですか。」

「そうです。最低の給料は出しますが、全て成功報酬です。
お客の要望通りの仕事をして、報酬を得るのです。
それでも良ければ、採用です。」

「どうせ、バイトの繰り返しです。此処でお願いしても良いですか?探偵の事は折々教えていただきたいです。」

と言う事で無事に採用された。

明日から探偵 杉田公一である。

僕は期待に胸が膨らんだ。













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