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冷凍記憶(一分では読めない小説)(1140字)


20XX年世界を驚かす画期的なマシンが発表された。
「これが弊社が開発しました、世界初の人の記憶を冷凍させるマシンです」

「冷凍させるって、記憶ですか?
脳ミソの中の記憶をですか?」
と、一人の記者が全員を代表するかの様に
疑問をぶつける。

「そうです、記憶を冷凍保存するのです。
優秀な科学者、医学者、各分野のそれぞれの
優れた記憶を冷凍保存し
時代を超え未来の人達に、
その知識やノウハウを残すです。」

「趣旨は解りましたが、
どの様にして記憶を冷凍するのですか?」
と、別の記者が尋ねる。
「記憶の冷凍は、この椅子に座っていただき、
このヘッドギアを被るだけで、
簡単にその人の記憶を取り出す事はできます。
そして、その取り出した記憶を、
この瞬間冷凍機で凍らせるのです。
あとは、この冷凍庫に保管するだけです。」

「記憶を氷結させる事が出来るのですか?」

「気体も、瞬時に凍らせれば、液体になります。記憶も同じです。」

「保管してからどうするのですか?」
疑問の声が誰とも無く聞こえてくる。
「その液体になった記憶を、伝達する人に点滴するのです。
そして点滴された方は、
記憶の持ち主と同じ記憶を持つ事ができるのです」

と、明るく言う開発者。
開発者とは裏腹に不審を持つ記者達。

…本当にそんな事が出来るのか?…
不穏な空気を読む事も無く、
開発者は明るく言う。

「先ずは、私の記憶を取り出し、冷凍保存します。
未来に私のマシンの製造方法を伝達するのは、
文字でも無くデーターでも無い、
私の持つ記憶です。」

開発者は椅子に座り、ヘッドギアを被る。
ヘッドギアには、何本ものコード。
まるで、電気椅子での処刑の様である。
皆は、固唾を呑んで見守る。

静まり返る場内。

一瞬の閃光が放たれ、場内が騒然とする中、
開発者は目覚めては来ない。
だが、死んではいない、息はしている。

色めき立つ記者達。
それを制する関係者。

「大丈夫です。今は寝ているだけす。
時間がくれば眠りから覚めます。
ここにあるのが、この開発者の記憶です。」
と、皆に見せるが、記憶は目には見えない。
缶詰が見えるだけだ。

「この、缶詰にされた記憶を今から冷凍します。」
一瞬、白い煙が上がる。
記憶が瞬間冷凍された瞬間であった。

「無事、記憶が冷凍されました。これを冷凍庫で保存します。」

不思議な光景であるが、世界初となる記憶の冷凍の成功の場面である。

全員拍手で、成功を讃えている時、開発者が目ざめる。

開発者の虚な瞳に不審気な表情。
何事が起こっているのか解らない開発者。
そう、開発者は記憶を抜き取られた為に
記憶喪失となっていたのだ。

哀れな無惨な開発者!

直ぐに点滴の用意がされ、開発者は元の記憶を取り戻す。
元気な開発者の声。
成功を喜ぶ開発者の声。

だがこの実験は、何をしていたのであろうか?



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