見出し画像

梓林太郎「人情刑事 道原伝吉 信州・諏訪湖連続殺人」

梓林太郎「人情刑事 道原伝吉 信州・諏訪湖連続殺人」(徳間ノベルス)。長野県警松本署刑事課の道原伝吉。三船刑事課長を上司として、吉村夕輔とコンビを組み、シマコこと河原崎志摩子が脇を固める。
 塩谷純子・34歳から、毎日子供に後をつけられていると報告が入る。保護した古谷智則・5歳は、母親である古谷未砂子・32歳が失踪。砂子は、夫である古谷竹男・35歳と離婚していたので、智則は頼る人もなく一人で生活していたようだった。自宅には週に2回女性のピアノ教師が教えに来ていたので、その女性に酷似した純子を追えば、母親の行方がわかるのではないかと思ったらしい。未砂子と智則の自宅を捜索してみると、1億5000万円もの現金を発見。やがて未砂子は、諏訪湖畔の貸家で首吊り死体で見つかった。発見された現金を巡って、犯人探しの捜索は、信州の松本と諏訪を基点に、北海道、秋田、東京と、あちこちに、犯行の関係者を追って進められる。次第に犯人は網を絞られてゆく。
 この物語の魅力は、ミステリー小説としても優れたものであるが、むしろ捜査を進めてゆく松本署刑事課のメンバーの行動の暖かさにある。被害者の秘密の鍵を握るのが、幼い男の子であるということもあって、刑事課メンバーのケアは厚い。智則に対する配慮やフォローは、単なる仕事の延長線上にあるとは思えない愛情がある。事件関係者の人間関係まで心配るからこそ、事件に関わった人々の心や気持ちがわかるのであろう。だから尋問でも無理やり落とすなどということはない。皆、自ら犯行を口にして自白するのだった。それにしても、お金の匂いに、人は寄ってくる。未砂子に多額の慰謝料が入ったことは、不幸の引き金だった。宝くじ当たった人が、人生狂って必ずしも幸福とは言えないように。
https://www.tokuma.jp/book/b525018.html

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?