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谷口裕貴「遺産の方舟」

徳間SFコレクション電子復刻第14弾。谷口裕貴「遺産の方舟」(徳間デュアル文庫)。著者は2001年「ドッグファイト」で、第2回日本SF新人賞を受賞。日本SF新人賞受賞作家の書き下ろし第一作。大海原を漂う艦―空母「アレクサンドリア」をすみかとした人々。異常気象によって陸を追われた人間たちは、海上を彷徨し続けるしかなかったのだ。若き海軍少尉ニコルは、艦を統べる学芸員のレーベン師とブキャナン師から、地上に遺された名画『睡蓮』を回収してくるよう、指令を受ける。少女和音らとともに、かつて日本と呼ばれていた島には、5つのテラリウムで要人が生存を図っていた。上陸したニコルと学芸員・望月和音がテラリウムで目にしたのは惨状と奇観だった。
 滅亡した世界は、僅か2,000人だけが海上での生存を許される制約。それも将来の人類のために文化財を保護するために。「アレクサンドリア」はそのために残された空母だ。年老いた者は自ら命を絶ち、若い世代を延命させようとする過酷な状況。残された僅かな物資で露命を繋ぐ彼らが本分とする文化財の意味は滑稽ですらある。モネの名画と真水のどちらが大事か。生存の大義を巡って、学芸員たちと軍は対立する。文化財庇護の教条主義者と、それを批判する破滅派。追い詰められた集団は決して和合しない。必ずや分裂し、足を引っ張り合う。もはや抜き差しならない対立は、遂に決裂を迎える。生きて行く上で、何を大切にするか。物語で2027年と描かれた「破滅」は、私たちの足下に忍び寄っている。
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