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タタツシンイチ「九十九81悪剣傳」

徳間SFコレクション電子復刻第12弾。タタツシンイチ「九十九81悪剣傳」(トクマ・ノベルズ・エッジ)。著者は「マーダー・アイアン 絶対鋼鉄』で第7回日本SF新人賞を受賞。
 龍のように南北に細長い「列島国(ジパング)」。蒙古襲来以降は、全国に群雄割拠。しかも倭人、華人、洋人など諸国の人種が国を立てている。龍の前脚辺りには、首都・イド国がある。貧乏御家人の九十九81(つくもやそいち)と仮面の農夫メロスは、南町女奉行エイダの指示でアーロン国に出向く。アーロン国は愚王が治め、貴族は優雅に暮らし、民は高い税に苦しんでいた。81とメロスの使命は、臨終の間際にある愚王が誰を後継者とし、誰を殉死者に指名するかを立ち合うことだった。新王への指名の期待と、殉死に名指されることへの恐怖に揺れる王族と貴族たち。彼らはイド国と愚王の間に密約がないかを疑心悪鬼で探る。
 主人公の81は傍若無人にして、豪勇無双のサムライ。馬鹿っぽくて、欲望にだらしがないようで、実は慧眼にして用意周到にして懐が深い。付き添うメロスは、81の代弁者であるように、乱れたアーロン国の治世の乱れを糾し、いかにあるべきかを説く。青臭いメロスの理想論に、81は現実論で喝破しながらも、メロスが百姓として得た智恵を政争にも尊重する。勧善懲悪然るべしと読む月並みな読後感は、エンディングのカタストロフィーで物の見事に粉砕される。本当に世の中を変えるためには何が必要か。それをエイダと81は知っていた。派閥政治に没頭する与党、党勢一本化に躍起になる第一野党、与党以上にいつまでも同じ党領が居座る左翼政党。そんなどこかの国の政治家たちに、読ませてやりたい一冊である。
https://www.amazon.co.jp/dp/B08K3SMV7R/

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